広がる畑と次の課題
「……かおりさんも、分かってきたかのう」
倉庫の軒先で、爺さんが楽しそうに笑った。
「フォフォ。小型耕運機か」
「こりゃまた、たいそうなもんを作ったな」
耕された畑と、整然と並ぶ区画を眺めながら、心底楽しそうに目を細める。
「わしもワクワクが止まらん」
「もう少し、わしが若けりゃなぁ……」
はぁ〜爺さんは肩をすくめた。
「気持ちだけはな。体は、正直じゃ」
◇
爺さんは、ふと遠くを見る。
「さて……そろそろ、わしのお友達も先方に着いた頃じゃが」
「連絡は……まだ、来とらんな」
通信魔道具を、軽く叩く。
「まあ」
「物が物だけに、慌てて動く話でもあるまい」
「のんびり待つとするかの」
その言葉には、焦りよりも覚悟が滲んでいた。
◇
一方その頃。
「……よし」
かおりは、膝をついて畑に向き合っていた。
小さな溝を作り、謎の種を一つずつ落としていく。
「これで、全部……かな」
土をそっと被せ、手のひらで軽く押さえる。
「育ってくれればいいけど」
耕運機のおかげで、作業は順調だった。
だが、そこで一つ、気づく。
「……あ」
顔を上げ、周囲を見る。
「水……」
今のところ、水は倉庫から引っ張ってきている。
元々、この倉庫は井水を使っているから問題はない。
「でも……」
もし、ここが壊れたら?
倉庫の設備が途絶えたら?
「それは、かなり困るわね」
畑だけじゃない。
家も、人も、生活も、全部止まる。
◇
「……共同井戸」
ぽつりと呟く。
「それも、一つじゃ足りないかも」
畑用。
生活用。
非常用。
「できれば……」
かおりは、頭の中で配置を思い描く。
「中心に共同井戸があってそこから、各家庭に水が届くような施設。毎回、汲みに来なくても済む仕組み」
風魔法や、水魔法との組み合わせも考えられる。
「魔道具として、やりすぎない程度に……」
自然と、爺さんの言葉を思い出す。
便利なものほど、制限が必要。
◇
かおりは、立ち上がり、倉庫の方を見る。
「これは……次の、生活インフラね」
畑を守るため。
人を守るため。
そして、ここを“住み続けられる場所”にするため。
「よし」
土で汚れた手を、軽く払う。
「井戸計画、考えよう」
家庭菜園の種は、土に埋まった。
そして同時に、次の“芽”も――
かおりの中で、静かに育ち始めていた。




