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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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12/16

遠回りの理由

呼び出しは、突然だった。


「坊ちゃま、領主様がお呼びです」


執務の合間でも、食事の前でもない。

中途半端な時間。


――結果が出たな。


そう確信して、俺は執務室へ向かった。



「来たか、エドワルド」


伯爵――父は、書類から目を上げて言った。


机の上には、見慣れた帳簿がある。

農務の記録。

肥料を使った区画の数字。


「お前が作った肥料の件だが」


切り出しは、直球だった。


「結果は、上々だ」


一瞬、胸の奥が軽くなる。


だが、父はそこで止まらなかった。


「よって、本格的に肥料の生産を行うことにした」


宣言。

判断。

領主としての決断。


「農務官にも指示を出してある。段階的にだが、来年から拡大する」


「……ありがとうございます」


礼を言いながら、俺は次を待つ。


本題は、ここからだ。


「だがな」


父は、帳簿を指で叩いた。


「なぜだ?」


視線が、まっすぐに刺さる。


「なぜ、お前はこんな遠回りをした?」



俺は、少し考えてから答えた。


「はい」


声は、落ち着いていた。


「まず第一に、私が突然『肥料を作ろう』と言い出しても、おそらく誰も理解しないと思いました」


父は、黙って聞いている。


「数字も、実績もない状態での提案は、理想論に聞こえます」


「それは……そうだな」


「ですので、私なりに行動しました」


俺は、言葉を選びながら続ける。


「農家に頼み、試し、結果を待つ。

結果が出れば、それが証明になります」


説明ではなく、証拠。


それが、今回選んだやり方だった。


「なるほど」


父は、低く頷いた。


「つまり、お前は最初から“説得する気がなかった”わけだ」


一瞬、言葉に詰まりかけたが、正直に答える。


「はい。説得ではなく、納得してもらう方が早いと判断しました」



父は、視線を帳簿から俺へ移した。


「それは、乾燥した小麦――例の保存食も同じか?」


「はい」


即答だった。


「完成すれば、保存が可能になります。不作に備えられます」


「軍用でもあるな」


「……はい」


隠す理由はない。


「まだ完成はしておりませんが」


そこは、きちんと線を引く。


父は、しばらく黙り込んだ。


書庫。

数字。

畑。

料理人。


それらを、頭の中で繋げているのが分かる。


「ふむ……」


やがて、小さく息を吐いた。


「書庫で、そこまで考えていたとはな」


叱責でも、驚嘆でもない。

純粋な評価だった。



「よかろう」


父は、姿勢を正した。


「これからは、何かやる時は私に報告しなさい」


命令ではあるが、拒絶ではない。


「出来ること、出来ないことがある」


それは、領主として当然の判断だ。


「資金、人手、時期――それらを見極めるのは、私の役目だ」


俺は、深く頭を下げた。


「わかりました」



父は、少しだけ表情を緩めた。


「だがな」


と、付け加える。


「今回の件、私は止めなかった」


それが、何を意味するか。


「結果を出した者のやり方を、否定はせん」


それは、許可以上の言葉だった。



執務室を出た後、廊下を歩きながら思う。


前の人生では、この場所で衝突した。

意見をぶつけ、正しさを主張し、孤立した。


今回は、違う。


遠回りだったかもしれない。

だが、その分、確実だった。


父は、見ている。

数字を。

結果を。

過程を。


そして――俺を。


「……少しずつでいい」


時間は、まだ足りない。

だが、道はもう、閉ざされていない。


肥料は、根付いた。

保存食は、芽を出し始めている。


次は、何を“前に出さずに”動かすか。


俺は、静かに考え始めていた。

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