✒ きゅんデート 2
──*──*──*── 妖精市場
マオ
「 うわぁ~~。
妖精族が多いな~~。
すっかり賑わいが戻ってるじゃん 」
セロフィート
「 《 妖精市場 》へ戻って来た妖精族の数だけ人間が死んだ事になります 」
マオ
「 そ、そうだったよな……。
妖精族は人間に使役されてるんだもんな。
《 妖精市場 》に戻って来た妖精族は主人を亡くしたんだ……。
可哀想…………とは言い切れないかな? 」
セロフィート
「 残念がっている妖精族も居れば、喜んでいる妖精族も居るでしょうね。
使役される側の妖精族は主人を選べません。
主人に対して抱く想いは各々違います 」
マオ
「 うん……。
えぇと──騒がしいのは奥みたいだな。
凄いよなぁ~~。
奥から聞こえるキンキン声が《 妖精市場 》の外にまで響いてるんだもんな 」
セロフィート
「 やんちゃな野次馬さん、見に行くのでしょう? 」
マオ
「 う、うん! 」
セロに手を引かれて、キンキン声の聞こえる奥へ向かって歩いた。
?
「 ──その妖精はアタシが買うの!
アタシが使役するのよ!
アンタは引っ込んでなさい!! 」
随分と気が強くて威勢の良い声だな。
?
「 ふざけるんじゃない!
この妖精はオレが買うんだ!
後から出て来て横取りするんじない!!
小娘風情が戦士妖精を買うなんて贅沢なんだよ!! 」
マオ
「 うわぁ~~。
女が女なら、相手も相手だな……。
売り言葉に買い言葉だ… 」
セロフィート
「 どうやら彼女は戦士妖精が欲しいみたいですね 」
マオ
「 確か怪物を簡単に倒せるのって妖精族だけだったよな。
だけどさ、妖精王が王族の奴隷にされて妖精族は戦う能力を失ったんだろ?
何で怪物相手なら戦えるんだ? 」
セロフィート
「 全ての妖精族が怪物を相手に戦える訳ではないです。
戦闘能力に長けている妖精は妖精族の中で限られてます。
愛玩妖精,労働妖精に区別される妖精族は怪物を前にしても戦えません 」
マオ
「 へぇ?
そうなんだな。
妖精族も色々だな。
じゃあ、奥のテントには戦士妖精も居るんだ? 」
セロフィート
「 戦士妖精は稀少ですから値段も高額です。
彼女の様な小娘が全額一括で買える値段ではないです 」
マオ
「 それを横取りして買おうとしてる訳かよ。
大した性格してるよな 」
セロフィート
「 ──すみません、お聞きしたいのですが宜しいですか? 」
?
「 おや、貴方は先日の──。
どうされましたかな? 」
セロフィート
「 この《 妖精市場 》に戻って来た妖精族の中で戦士妖精は彼だけですか 」
?
「 そうですよ。
戦士妖精の主人が川に落ちて流された先で水死していた処を発見されましてね……《 妖精市場 》に戻って来たんですよ。
戦士妖精は数が少ないから値段も高くてねぇ、中々買い手が付かなくてね…… 」
マオ
「 漸く買い手が見付かったのに揉めてるって事だよね? 」
?
「 そうだね。
戦士妖精の取り合いは珍しくないよ。
高い金額を出してくれる側に妖精を行かせるのが《 妖精市場 》の決まりだ 」
マオ
「 ふぅん?
この前、セロが大量に買った妖精族の中には戦士妖精って居たの? 」
?
「 いやいやいや、流石に戦士妖精は居なかったよ。
愛玩妖精や労働妖精が殆んどだった。
仮に戦士妖精が居たら売らずに手元に残しておくさ 」
マオ
「 そういうもんなの? 」
セロフィート
「 マオにはワタシが居ます。
戦士妖精は必要ないです。
居ても買いません 」
マオ
「 そ、そだな。
貴重で稀少な戦士妖精は欲張ったら駄目だよな!
ははは…… 」
セロフィート
「 彼女は中々の食い下がりませんね。
余程、戦士妖精が欲しい様です 」
?
「 何でも彼女は聖女様らしい。
簡単に諦めたりはしないだろうね…… 」
マオ
「 聖女様ぁ?
聖女様が他人が買おうとしてる戦士妖精を横取りして良いのかよ?
随分と自分勝手で傍若無人な聖女様だな…… 」
セロフィート
「 そう言えば、“ 勇者だから何をしても許される ” と勘違いしていた犯罪者予備軍の勇者も居ましたね 」
マオ
「 ははは……。
それは別の≪ 大陸 ≫で会った勇者だろ~~。
──聖女って本当かな? 」
セロフィート
「 流石にワタシにも偽者と本物の聖女の区別は付きません 」
マオ
「 セロにも分からないんだな。
あの戦士妖精は微動だにもしないのな。
どっちが戦士妖精を買うんだろう? 」
セロフィート
「 彼女は他にも妖精族を連れてますね。
1人で数体の妖精族を使役するには魔具が必要になります。
かなり値段のする魔具です。
彼女の背後にはパトロンでも居そうですね 」
マオ
「 パトロン? 」
セロフィート
「 パトロンの存在は大きいです。
彼に勝ち目は無いかも知れません 」
マオ
「 平行線みたいだけど、決着は付かないのかな… 」
セロと一緒に他の野次馬達に紛れて一部始終を見ていたら、男が戦士妖精を買った。
どうやら勝敗は男性の様だ。
マオ
「 戦士妖精は男に買われて一件落着みたいな! 」
戦士妖精を目の前で買われた自称の聖女様は悔しそうな顔をして、ドヤ顔をしている男を睨んでいる。
物凄く怒ってるみたいだけど、戦士妖精を男から横取りしようとしたのは自称聖女様の方だからな。
誰も同情はしないと思うし、同情されないと思う。
決着が付いた事もあって野次馬が次々と減っていく。
此処等辺が潮時なんだろうな。
自称聖女様
「 ──この泥棒っ!!
良くも “ 聖女 ” を差し置いて戦士妖精を買いやがったわね!!
食らいなさいっ──、鉄拳制裁っっ!!
天誅よっ!! 」
物騒な言葉を口から吐き出しながら自称聖女様は、戦士妖精を買った男に向かって握った拳を叩き入れた。
早い話がグーパンで男の顔を殴ったんだ。
グーパンで殴っただけじゃ飽き足らず、男の身体に蹴り技も見事に入れる。
仮にも “ 聖女 ” を名乗ってるにも関わらず、暴力沙汰を起こした!?
かなりの打撃力が有りそうなグーパンと蹴りをまともに食らった男は、ノックダウン寸前だぁぁぁぁぁぁ!!!!
誰かぁ~~~~、お巡りさんを呼んであげてぇぇぇぇぇぇぇ!!
マオ
「 ひでぇ……。
仮にも聖女を名乗ってる立場なのに、暴力で解決しようとするとか前代未聞じゃないのか? 」
立ち去ろうとしていた野次馬達が足を止めて興味津々に注目を始めたぞ。
自称聖女様
「 フン!
どうかしら?
聖女のアタシに快く戦士妖精を譲らなかった罪に対する罰よ!
思い知ってくれたかしら?
聖女のアタシを蔑ろにして侮辱するから、そうなるのよ!
頭を冷やして反省しなさい!!
戦士妖精はアタシが貰うわね 」
何て傲慢で自分勝手な事をほざく聖女様なんだろうな?
男が買った戦士妖精を貰うって──、性格悪過ぎるだろぉ~~~~!!
あんな聖女が居て堪るかよ。
自称聖女様
「 奇蹟の聖女の名の下に──!!
戦士妖精よ、貴方を使役します。
ワタシを衛る剣となりなさい!! 」
自称聖女様が戦士妖精の前に右手を翳すと、赤い魔法陣が現れて光を放ち出した。
戦士妖精の全身が光に包まれる。
一体目の前で何が起きてるんだ?
自称聖女様は魔法が使えるみたいだけど──。
自称聖女様
「 ふふふ!
貴方に奇蹟の力で加護を与えました。
これで貴方はアタシを衛る戦士妖精よ。
これから宜しくね♪
貴方に旅の仲間を紹介するわ── 」
自称聖女様は自分のペースで戦士妖精に話し掛けてながら、仲間らしい他の妖精族を紹介している。
他の妖精族も戦士妖精らしい。
3体も戦士妖精を使役してるのに増やしたのかよ!?
1人で戦士妖精を4体も欲張りなんじゃないかな?
因みに自称聖女様は自分がグーパンで殴った男の事を完全に忘れているみたいだ。
自称聖女様
「 アタシの自己紹介が未だだったわね。
アタシは聖女教会のシスターをしていた “ プリティンクリス ” よ。
皆はアタシの事を “ プリテ ” って呼んでくれるの!
貴方もアタシを呼ぶ時は “ プリテ ” って呼ぶのよ。
敬称は付けなくて良いからね。
堅っ苦しいのは昔からにがてなのよね~~ 」
なんて事を言いながら自称聖女様のプリティンクリスは4体の戦士妖精を引き連れて《 妖精市場 》から出て行った。
マオ
「 何だったんだよ……。
“ 奇蹟の聖女 ” とか言ってたよな?
“ 奇蹟の力で加護 ” って何だろうな? 」
セロフィート
「 盗人猛々しいとは良く言ったものです 」
マオ
「 感心してる場合かよ。
“ 聖女教会のシスターだった ” とか言ってたよな?
魔法が使えたんだな…… 」
セロフィート
「 ライバルの登場ですね、マオ 」
マオ
「 ライバルって? 」
セロフィート
「 〈 大陸神クワルチンク 〉を弘めるマオとワタシにとって、聖女教会の彼女はライバルも同然と言う事です。
聖女教会を潰す楽しみが出来ましたね♪ 」
マオ
「 楽しみって…… 」
セロフィート
「 野次馬も引きましたし、デートの続きを楽しみましょう 」
マオ
「 そうだったな!
デートの途中だったよな。
次は何処に行こうか? 」
数日振りに賑わいを取り戻した《 妖精市場 》を出る。
オレはセロと一緒に楽しいデートの続きを再開させた。




