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ペルーシュ  作者: よつば
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オッブリーゴ

「――最高ランク保持者の、義務……?」

 静まり返った自室の中、私は国家魔法管理局から届いた一枚の電子書簡を何度も読み返し、その場で石のように硬直していた。

 書面には、お役所特有の冷徹な文言でこう記されている。

『一ノ瀬彩花様。先日、奥多摩エリアに突如出現した未開拓ダンジョン(特級指定)について、現・国内暫定一位である貴殿に、第一陣としての悉皆しっかい調査および攻略を命じます。なお、国民への安心供与および情報公開のため、調査の様子は動画配信アプリ「ミーチューブ」の管理局公式枠にて、リアルタイムで一般公開(配信)していただきます。これは国家魔法管理局法に基づく【義務】であり、正当な理由なき拒否は、最悪の場合、国家反逆罪とみなされる可能性があります』

「……う、うそ。むり、絶対にむり……っ!」

 スマホをベッドに放り出し、私は頭を抱えてゴロゴロとのたうち回った。

 国家反逆罪って何。私はただ、誰にも邪魔されずに部屋でポテチを食べていたいだけの引きこもりなのに。

 しかも、未開拓ダンジョンのソロ攻略だけじゃなくて、それを『配信』しろだなんて。

 世界中が「謎の国内一位・アヤカの正体とは!?」と血眼になって特定を進めている真っ最中だ。そんなところで顔を出して配信なんてしてみろ、一秒で顔と住所が特定されて、翌日には私の部屋の前にメディアの黒山の人だかりができるに決まっている。

「彩花お姉ちゃん、どうしたの? またお顔が真っ青だよ」

 パタパタと足音を立てて、私の大切な妹――朱音が、心配そうにベッドに飛び乗ってきた。白髪のツインテールを揺らしながら、私の冷たくなった手をきゅっと握ってくれる。

「朱音……国が、私にダンジョンに行けって。拒否したら犯罪者になっちゃうって……」

「……あのおじさんたち、本当に懲りないね。私があれだけ釘を刺しておいたのに、まだ彩花お姉ちゃんを煩わせる気なんだ。――よし、今すぐ国会議事堂ごと、全部凍らせてこようか?」

「待って待って、行かないで朱音!」

 すっと目を細めて、何でもないことのように恐ろしい提案をする朱音を、私は慌てて組み伏せるようにして止めた。外では天変地異を起こす最強の魔法使いだけど、家の中では私にベタ甘な可愛い妹だ。でも、これ以上朱音が外で暴れたら、私の「凶悪な黒幕」という誤解がさらに深まってしまう。

「朱音が私の代わりに、そのダンジョンに行ってくれたりは……」

「……う。ごめんなさい、彩花お姉ちゃん。私、明日から管理局の魔力監査へのハッキングと、別の特級ダンジョンの凍結維持業務で、どうしても三日間は動けなくて。私がもっと分身できたらよかったのに……」

 朱音が本当に悔しそうに、きゅっと唇を噛み締める。

 そう、朱音はすでに、私を外の脅威から守るための防衛線としてスケジュールがパンパンなのだ。

 ということは、今回は本当に、私が外に出るしかない。

 ネットの掲示板やSNSでは、すでに管理局の公式発表を受けて大祭り騒ぎになっていた。

『ついにアヤカ(国内1位)が動くぞおおお!』

『あの謎の超能力組織のトップ、どんな冷酷な奴なんだろう』

『配信絶対見る。世界がひっくり返る瞬間だわ』

 画面の向こうから、何百万人、何千万人という人間の恐怖と期待が混ざった視線が、私に向かって突き刺さっているかのように感じられた。恐怖で心臓がバクバクと嫌な音を立て、呼吸が浅くなる。

「いやだ……外に出たくない……知らない人にジロジロ見られたくないよぉ……っ」

 私は逃げるようにベッドの隅へ縮こまり、いつも枕元に置いている、もう一つのぬいぐるみをぎゅっと胸に抱きしめた。

 それは、パステルピンクの毛並みをした、大きなお耳のウサギのぬいぐるみ。

 トキの朱音とは違って、どこか生意気そうで、だけど愛嬌のある顔をしたお気に入りの子だ。

「誰か……誰か助けて。朱音みたいに強くて、うち、って可愛く自分のことを言って、愛嬌があって、配信が得意で……私の代わりにダンジョンに行って、その様子を世界に見せつけてくれるような子がいたらいいのに……っ!」

 ぽろぽろと、私の目から溢れた大粒の涙が、ピンクのウサギの長いお耳に染み込んでいく。

――ドクン。

 また、あの感覚が来た。

 私の体内の奥深くから、底の抜けた井戸のように、膨大で、だけど今度はどこかあざとくて苛烈な魔力が引きずり出され、ウサギのぬいぐるみへと流れ込んでいく。

「えっ――」

 私の腕の中で、ウサギのぬいぐるみが、爆発するような鮮やかなピンク色の光を放ち始めた。

「ひゃぅっ!?」

 あまりの眩しさに、私はウサギをベッドに放り出す。

部屋中を乱舞するピンク色の魔力の粒子は、まるでポップスターのステージ演出のようにキラキラと輝き、甘い苺のような香りが室内に満ちていく。

 光の奔流がゆっくりと収まり、視界が晴れていく。

 ベッドのシーツの上、そこにいたのは――。

「――んっ、ふぁ。やっと彩花お姉ちゃんに会えたぁ……!」

 ピンク色の髪を、高めのツインテールに結った美少女。

 ウサギのような長いリボンを頭につけ、フリルたっぷりのあざと可愛い衣装をまとった、どこからどう見ても最強のアイドルのような女の子だった。

彼女はパチリと大きな瞳を開けると、私の姿を捉えた瞬間、満面の笑みを浮かべて猛烈な勢いで飛び込んできた。

「彩花お姉ちゃん! お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんっ! うち、ずーーっとお姉ちゃんにギュッてされたかったんやからねぇ!」

「ひゃぅっ!? わ、わわっ!?」

 ドサリとベッドに押し倒され、私はその少女――新しく生まれた妹に、全身で抱きすくめられるのだった。

こんばんは。

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