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若姫リリーの結婚

「あんた達、夫婦だって言うけど、タグをしてないね?駆け落ちかい?」

リリーとルカは、帝都で家を借りるために大家と話をしていた。

「はい……実は、ルカが貴族のお嬢様に見初められてしまって。」

リリーが目を伏せてこぼす。

「なるほど。良い男振りだもんねえ。」

大家のおかみさんは、幼馴染の許嫁が貴族に横恋慕された図を勝手に想像して、2人に肩入れした。

「毎月先払いで家賃をお納めしますので、貸して頂けませんか?」

ルカが懇願する。帝都の雑踏から少し離れた家具付きの借家で、リリーが気に入っているのだ。

「わかった。いつから住むんだい?」

「できれば明日からでも」

「じゃあ、今月分の家賃は明日からの日割りで。

ベッドは置いてあるが、布団は自分で用意しておくれ。」

「それから、一緒に住むなら、きちんと結婚してタグをつけることを勧めるよ。」

「あの、そのタグはどうすれば入手できるんでょう?」

「ああ、他国から来たんだね?

神殿に申し込むと結婚式までに作ってくれるから、式の時に首から下げるのさ。神様に認められたってことで信用が上がるから、少しお金はかかるけどやった方がいいよ。」

「そうなんですね!さっそく神殿に行ってみます。」

「それにしてもあんた達、姿は良いし気品もあるし、お貴族様じゃないのかい?」

「え?あたしは八百屋の娘ですよぉ」

「俺も飾り職人です」

「そうかい。それなら食いっぱぐれないね。帝都で頑張りな」

「 「ありがとうございます」 」

リリーとルカは、大家と別れてその足で神殿に向かった。

「たまに着けてる人がいる銀のプレートって、既婚者の印なんだね」

「結婚してても着けてない人もいたけど、新婚の時しか着けないのかなあ?」

話しながら神殿の門を入ると、神官が出迎えてくれた。

「あの、結婚式をしたいのですが。」

用件を告げ中に招かれると、キラキラした金色の光が2人に降ってきた。

「おお、素晴らしい!神様に歓迎されていますよ!」

「結婚式でしたね?おめでとうございます。

タグに彫るので、こちらにお二人のお名前を書いて下さい。裏側に住所や緊急連絡先を入れることもできますが、どうなさいますか?

元々は戦で身体は滅んでも魂が家族の元に帰れるように願いを込めて入れるものでしたが、今は皆さん愛のメッセージを入れたり、ご自由になさってますよ」

「それならわたしは彫って欲しいな」

「では、それもここに書いて下さい。」

リリーがペンを取ると、ルカが「何を書くんだ?」と覗き込んだ。

そこにはルカも知っているラトナタ語の祭文があった

「女神の御許へ」。

「俺も付いて行っていい?」ルカが聞くと

「来てくれるならね」と嬉しそうに言われたので、ルカも同じ言葉を入れてもらうことにした。

あの世まで一緒に行きたいなんて……思わず口走った言葉の意味に気付いて顔を赤くしているルカとニコニコ上機嫌のリリーを微笑ましく見ていた神官が

「お2人は他国の方ですよね?今後こちらにお住いになるんですか?」

「はい。先程家の契約をしてきて、これから仕事を探すつもりです。」

「失礼ですが、どのような職種で?

先程、神の祝福が降りてきましたし、よろしければ神殿からご紹介しましょうか?

あのような光は神官の任命式でしか見たことがありません。

全面的にお2人に協力しますよ?」

「俺は飾り職人の徒弟だったので、職人の仕事を探しています。他にも調理や大工の仕事もできます。

「私は機織りと繕いものくらいしかできないので、内職を探そうと思っていました。調理の補助もできると思います。」

「それはちょうど良かった!飾り職人は腕が確かならすぐに口がありますよ。今申し込まれたタグはこういうものなのですが、彫れそうですか?」

神官が平らな銀のプレートを見せる。そこにはマルタンとエリーゼという名前が彫ってあった。

「アクセサリーも作っている普通の職人が彫ったものを、結婚式で神様にお見せして御加護を賜る流れなので、文字が彫れるなら神殿からの発注もありますよ。」

「素材は銀ですよね?この大きさで良いなら彫れると思います。」

「ご自分のタグを彫ってみますか?それを見て親方が及第点をくれればすぐに働けると思います。」

これだけなら神殿内でできますので。どうぞ、こちらに道具があります。」

神官のちょっと強引な勧誘で、ルカはその場で自分のタグを彫ることになった。

カンカンカンカンと軽快な音を立てて名前部分を掘り終わり、ルカがタグを神官に渡すと、神官は「お見事です!親方を呼んで来させますので、このまま少しお待ちいただけますか?」と神官見習いらしき子を呼んで、使いに走らせた。

「実は、飾り職人の親方は厳しい人でして、先日徒弟が逃げてしまったんです。結婚の首飾り以外にアミュレットも作って貰っているので、刻印だけでもできる人が来てくれると助かります。」

「なるほど、そういうことでしたか。俺が親方のお眼鏡に適うといいんですが」

先程の子供が息を切らせて帰ってきた。

後から壮年の男ものっそりとやってきて、

「徒弟の応募があったと聞いたが」と神官に問う。

「親方、お呼び立てしてすみません。

ある程度作れる方を見つけたので、お仕事の補佐にいかがかと、ご紹介しようと思いまして。

こちらが作品です。私の目の前で、あっという間にできました。」

親方はタグを受け取って文字を見ると、ルカに向かって

「基礎は習ってないな?」と聞いた。

「盗んで覚えろという師匠でしたのでほぼ自己流です。

教えてもらえるようになる前に放逐されてしまいました」

手取り足取り技術を教える職人などいないので、おかしな話ではない。

気難しい師匠に出ていけと言われて本当に出てきてしまうことも珍しくない。

「ここいらの同業者の弟子じゃないだろうな?」

「はい。他国からの流れ者です。」

「いつから働ける?」

「今からでも。」

「使った道具の手入れをしておけ」

やり取りを見ていた神官がにっこりして言った。

「採用です。おめでとうございます。道具の手入れが終わったら、親方の工房にご案内しますね。その間、お嬢さんのお仕事も手配しましょう。糸車をお貸しできるので、工賃は安いのですが、糸紡ぎはいかがですか?」

リリーも糸紡ぎの材料と道具を一式自宅に持ち帰れることになり、無事仕事が決まった。

本来、材料を買い取って工賃に材料費を上乗せした価格で製品を買って貰うものだが、神殿の信用で材料を預けてもらって工賃だけを受け取る方式にしてもらうことができた。

機織りは国によってやり方が違うかもしれないと、結婚式を済ませて、織機を見せてもらってから決めることにした。

結婚式はタグさえできていればすぐに挙げられる簡素なものだが、ルカが給金が出るまで待って欲しいと言うので1ヶ月待った。

ルカの方も、住み込みの徒弟ではなく通いの補佐として好待遇で働けている。

親方はぶっきらぼうなだけで良い人だという。

「リリー、給金をもらえたから、結婚式の服を買いに行こう」

服くらい買える蓄えは残っているが、ルカは自分の稼ぎで結婚式の費用を賄いたかったようだ。

リリーは泉の神殿の厄介事に無関係なルカを巻き込んだと思っているが、ルカは本当に駆け落ちだと思っている。

リリーを見殺しにして逃げ出す機会は何度もあったのにそうしなかったのは結局、惚れていたからだ。

リリーは「お水を飲まされた時」と言っていたが、ルカは一目見た瞬間恋に落ちていたのだと思う。

☆☆☆

ルカとリリーは異教の軍神の神像の前に額づいて神官の読む祭文を聞いていた。

金色の光が首飾りに吸い込まれていく。

2人は神前で首飾りをお互いの首にかけ、夫婦となった。

その夜、ルカが神の怒りの炎に焼かれる覚悟で初夜に臨んだことは、リリーには内緒である。

こちらで一旦完結です。

最後までお読み下さりありがとうございました。

ビターエンドの続編を付け足すかもしれません。その時にはまたよろしくお願いします。

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