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未返却魔導書と科学のススメ  作者: 藤本 天
85/85

79P科学と魔導の交響曲Ⅸ

久しぶりの投稿です。

待っていた方にはお待たせしました!!

初めて読む方にはようこそ。

「あ~、くそ」

一方、騎士科の生徒たちと一緒に図書館に吹っ飛んできた大人達(アダルトズ)

彼らは、それ(・・)をみて一様に落胆した顔をした。


彼らの周りを彩るのは濃い緑と原色の花弁を高貴な女性のドレスのように優雅に纏う花々。

むっと鼻腔を支配する土と緑、わずかな水の匂い。

どこか毒々しい亜熱帯の密林(ジャングル)のように思える場所に彼らはいた。


自分たちが密林を模した温室のような場所にいると、気づいたアヴィリスは一瞬ホッと顔を緩ませた。

王立学院図書館内の温室と言えば、図書館最上階のユーリの隠れ家だ。

そこからならば、図書館の外に出る事は容易い。

「なんだ?ここは」

首を傾げるロランに身を強張らせ周りを油断なく警戒するチャーリーとマックス。

彼らの様子から見るに、本当にユーリは図書館で暮らしている事を秘密にしているらしい。

(だが、緊急事態だ)

ユーリには申し訳ないが、一度図書館から出て『断罪人』のルファル魔導師と連絡を取ることが先決だ。

隠れ家の場所をばらすことになるが、あとで許してもらおう。

「ロラン司書……あれ?」

少しばかり視線を逸らした刹那、ロラン司書の姿が消えた。

「え?ロランさん?」

マックスとチャーリーも怪訝そうにあたりを見回す。

しかし、あたりの風景は極色彩の絵画のように凪いでいた。

さわさわと木々の枝葉が揺れる音しかしない、美しい極色彩の密林の中言い知れない緊張感が漂う。

「まさか、『番人(ガーディアン)』達が動いてるんじゃ」

「『番人』?」

「この王立学院図書館の夜間警備設備(セキュリティシステム)のひとつで先代の図書館長がエリアーゼ館長と共に作ったとされている魔導人形(ゴーレム)たちの事ですよ」

「人形……」

アヴィリスの脳裏に緑色の巨人が思い浮かぶ。

(あれの事か?)

「昔、まだいまの図書館みたいに設備がちゃんと行き届いてなかった頃は研究熱心な魔導師たちが図書館内に無断で宿泊する事が多かったんだ」

「それに頭を悩ませた先代図書館長が魔導機に詳しいエリアーゼ館長を抱き込んで作ったのが各空き部屋に魔導人形を置いて、部屋の警備をさせるシステムですよ」

「ほう、で、何でお前たちはそんなに警戒しているんだ?」

マックスとチャーリーは油断なくあたりに目を光らせ、全身を緊張させている。

「大体、『番人』達は対不法侵入者用に作られているからな、不法侵入者へのお仕置きも込めて図書館から放り出すわけだから…、わかるだろう?」

「つまり、酷い目にあわされる、と」

なるほど、と頷いたアヴィリスは杖を出そうとして、失敗した。

「おい、無駄に魔力を消費すんなよ。ここは魔導が使えない、もしくは使いにくいんだ。魔力切れでへばった魔導師の面倒なんかみきれないぞ?」

「ああ、そうだった」

(……ん?)

アヴィリスの明晰な頭の片隅が違和感を訴えかけた。

「なぁ、さっき『番人』は魔導人形だと……」

マックスの方へ顔を向けたアヴィリスは見た。

大きな袋状の器官をもった植物のような巨大な何かが、マックスを蔦状のものでぐるぐる巻きにして袋状の器官に「あ~ん」と入れようとしている姿を。

ぱくん

「……」

その隣で、軽い何かが閉じる様な音が聞こえ、そちらを見ると大きな花が地面に落ちていた。

ラッパのような形の花が落ちている場所には、たしかチャーリーがいた気がする。

ぺとん

なんだかねばついた蔦のようなものが肩にかかった。

正直、蔦の先をみたくない。

条件反射で逃げようとした足はいつの間にか糸のようなもので絡めとられていた。

「なんっ!?」

驚いて振り向きたくなかった後ろを振り向いた、だが、そこには一面の緑が広がるばかり。

「お兄さん!!上!!」

「はっ!?」

突然飛び込んだ声に従い、上を向く。

見上げると毒々しい色の花がよだれのような液体を吐き出しながら、アヴィリスに迫ってきていた。

「うわあっ!?」

のけ反って、落ちて来た花を避ける。

「お兄さん!!」

無様に尻餅をついたアヴィリスの足下に金髪の少年が跪いて彼の足に巻き付いた糸のようなものを小さな鋏で切り始めた。

我に返ったアヴィリスは自分のナイフで足下の糸を切る。

「お兄さん、早く!!」

アヴィリスは金髪の少年に手を引かれて木々の間を駆け抜けた。

「少年、お前……」

「こっち!!」

一緒に駆け抜けた先には小さな池があった。

少年は躊躇いなく池の中に飛び込む。

「早く!!奴らが攻撃してくる前に!!」

「え?は、……!」

イオンが顔を引き攣らせる視線の先、自分の背後に毒々しい色の花や袋状の器官をもった植物のようなものがぎっしりと木々の間から顔を出し、ねたねたする蔦を自分たちに向けて伸ばしていた。

「ひえっ!!」

イオンが池に顔をうずめ、アヴィリスが池に飛び込んだ瞬間、木々から無数の蔦が放たれた。

池の上で獲物を逃した無数の蔦が絡み合い、解け、また木々の中に消えていく。

「ぶはっ!!何なんだ!!一体!!」

静寂が戻った池から顔を出したアヴィリスは、ぐったりと池の上に浮いた。

「南方の大陸のオアシスにいるらしい、食人植物『ハンニバル・ビブリス』に似てる。けど、デカさも動きも全く別物だよ」

げんなりした顔を池から出した少年は気味が悪そうに、ねたねたした蔦が消えた木々の向こうを見つめる。

「あ~、じゃあ、そのハンニバル何たらっていう食人植物?を模した魔導人形なんだろう。あれは」

アヴィリスと少年は恐ろしい魔の手から逃れた安堵から息を吐く。

「で、お前(あんた)、誰?」

 息を整え終わった二人はふとお互いをまじまじと見つめた。

「ほう、魔導書の文字をお前の作った液体が消した、と」

「そう、それでここの館長様が消したい魔導陣を消すために来たんだけど、はぐれちゃって……」

食人植物『ハンニバル・ビブリス』の特性を知っていたイオンの手引きで亜熱帯の密林のような場所から逃れたアヴィリスとイオンはだだっ広い回廊を歩いていた。

イオンはアヴィリス達より早くあの密林にいたが、うまく食人植物から身を隠していたらしい。そこにアヴィリス達がやって来て、一か八かに賭けて唯一無事だったアヴィリスを助け出した。のだが……。

(あんなにあからさまにがっかりした顔をされたのは、初めてだったな)

アヴィリスもここがどこなのか、出口に行くにはどうしたらいいのかわからないことを告げると、イオンはあからさまに肩を落とした。

「ああ、俺、ここまで酷い目に合わされなきゃいけないほど悪い事した覚えないんだけど…」

ユーリが聞けば激怒しそうなことを彼が口走るのを聞きつつ、アヴィリスは何となく今回の事件の顛末を予想した。

(大方、こいつの作った変な液体のせいで希少な魔導書の“紋”が消されて、そいつが魔導書の魔導を使って今回の事件が起きた。と考えるのが妥当だな)

「で、アヴィリスさん。気づいてるよな?」

立ち止まったイオンに見上げられ、アヴィリスはげんなりと頷く。

「この回廊も、魔導で歪められているようだな」

「って、ことは?」

「どこかのドアを開けないと、この空間からは出られない」

「ああ……」

イオンが絶望したように溜息を吐いた。


アヴィリスはものすごく緊張していた。

これまでの人生でここまで緊張したことなどないと思えるほどに。

ドアノブに触れる手が小刻みに震えている。そして、ドアノブがやけに冷たく感じるのは自分の手の平が汗でじっとりと湿っているからだろう。

(これがアレか。魔導学園で同期たちが言っていた緊張で胃が痛いという感覚か)

ドアノブと反対の手で胃のあたりを押さえながら、初めての感覚に感嘆していると、

「ぐぐっと一気に行っちゃってください。宮廷魔導師様」

隣から呑気な煽り文句が聞こえてきて一瞬イラっとした。

「行くぞ」

ドアを開けた瞬間に、何か出てきたらこいつを生贄にしようと、さりげなくイオンの背中に片手を伸ばしながら、アヴィリスは一気にドアを開けた。


ドアを開けると、そこはうっそうとした森が広がっていた。

しかし、先ほどの熱帯の森とはまた雰囲気が違い、どこかの山の中のような雰囲気だった。

だが、それよりアヴィリスを引き付けたのは

「…人の声?」

そう、数名の少年らしい元気な人間の声が聞こえてきたことだ。

「この声は……っ!!」

「あ、待て!!イオン!?」

走り出したイオンの金髪を追って、アヴィリスも木々をかき分け走る。

木々に囲まれるようにぽっかりと空いた、小さな広場のようなその場所。

長い尾を振り回す赤毛の狒々と、それに馬乗りになって関節技をかける赤髪の少年がいた。

「うおおおおおっ!?人間舐めんなっ!!」

「うっきーっ!!ききっ!!」

「おっしゃー!!ランク先輩!!そこだっ!!いけーっ!!」

まるで闘技場のようなその場所に、何名かの少年たちと赤毛の狒々たちが集い、ど真ん中で戦う狒々と少年を観戦していた。

その一方で

「……ポーンをここに……」

「ききっ」

「うん、そうきましたか」

少々ばかり離れた場所で車座になって、チェスを嗜む金髪の少年と狒々がいた。

奇妙な光景に唖然としていると、隣でイオンが蹲っていた。

「おい、何しているんだ?」

「俺はここにいません。俺はここにいません」

「はぁ?」

「自分の身内が、さ、サルと同レベルで争っている姿を見たら、どういう気分になると思う?」

「……」

アヴィリスは何も言わずにイオンを見、続いてサルに寝技をかけている赤髪の少年を見た。

そして、顔を両手で隠しているイオンを見下ろし、思わず口元を覆った。

「せめて、せめて、類人猿と争っていて欲しかったっ……!!」

あまりに不憫な悔恨のにじむ声に、アヴィリスは言葉もない様子で地面に伏す少年を見下ろす。

(不憫)

「3、2、1-っ」

地面に突っ伏する少年の心情を余所に、人類v.s.猿の決着がついたらしい。

「ランク・ガスパールの勝利―っ」

「一応、人類代表として、お前の身内が勝ったぞ?」

「喜べとっ!?」


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