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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
100/106

100:『その日がやってきた!』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語


100『その日がやってきた!』





 いよいよロケの日がやってきた。


 ロケ現場は荒川の堤防と河川敷。


 自転車を連ねて堤防に登ったら、早咲きの菜の花の中にロケバスが来ていて、ADさんやスタッフの人たちが忙しそうに動き回っていた。



 梅の蕾も、まだ硬い二月の末日だけれど、まるで春の体験版のような暖かさだった。


 はるかちゃんは、まだロケバスの中なんだろう、姿が見えない。


 そのかわりロケバスや、撮影機材が珍しいのか、乃木坂さんがチョロチョロ。わたしたちに気づいても知らん顔。



 やがて、一段下の土手道を黒塗りのセダンが登ってきた。



「あ、あの運転手さん、西田さんだわよ!」


 夏鈴が手を振ると―― おお、戦友 ――って感じで、西田さんが手を振り返してくれる。


 五十メートルほど手前の土手道で車が停まると、運転席から西田さん。助手席からサングラスの男の人が出てきて伸びをして、西田さんが後ろのドアを開ける。


 伸びをしてサングラスをとった男の人は……ゲ、高橋誠司!?


 右のドアからは、キャピキャピの女の子が出てきて、目ざとくわたし達を見つけて駆け寄ってきた。


「お早う、乃木坂演劇部!」


「あ……ども」


 だれだろ……と、考えるヒマもなく、その子はロケバスの方へ。途中で気づいたように振り返って、戻ってきて挨拶した。


「NOZOMIプロの上野百合です。よろしくね!」


「上野百合って……?」


「まどかが言ってた新人さん……」


「たぶん……」


 似てる……と思いながら、三人とも口にはしなかった。


「おはよう、乃木坂の諸君」


「「「あ、お早うございます」」」


 上野百合に見惚れていたら、高橋誠司が、すぐそばに来ている!


「ほんとうは、姉妹揃って、うちの事務所に入れたかったんだけどね」


「え?」「じゃ?」「やっぱり!」


「お姉ちゃんの方は、アメリカに逃げられちまった」


「え?」「妹?」「アメリカ!?」


「河川敷のロケだっていうから、寒さ対策してきたんだけど、要らなかったなあ」


「はい、春の体験版です!」


「うまいこと言うねえ、さすがは個人演技賞! セーブデータは製品版でも使えますってね」


「「ハハハ」」


 わたしたちを煙に巻いて後ろ手でバイバイして行ってしまった。


 袖口から極暖が覗いていた。




 そうして、驚くことがもう一つ。




「あ、潤香先輩!」



 潤香先輩が、紀香さんに手をとられながらやってきた。


 さすがに立っているのは辛そうで、折りたたみの椅子が出された。


「ありがとう和子さん」


 それは、西田さんのお孫さんだった。


「お互いの、再出発の記念にしようって。お嬢の発案なんです」


「アメリカって聞きましたけど?」


 夏鈴が目を輝かせる。


「はい、九時半の飛行機です」


「向こうでも、演劇部顧問やるのかなあ!」


「きっと海兵隊!」


「いえ、サキお嬢様と替わってニューヨーク支社でお勤めになられます」


 勤めるどころじゃない、たぶん支社長。TAKEYONAで聞いてしまった印象はそうだ。


「あ、たぶんあの飛行機」



 紀香さんが指差した空にはJALの後姿。手元のスマホを見ながらだからトレースしていたんだ。



「わたし、あなたたちに発表したいことがあるの。お姉ちゃん、ちょっと手をかして」


「大丈夫、潤香?」


「うん。この宣言は立ってやっときたいの」


 潤香先輩の真剣さに、わたし達は思わず気を付けしてしまった。



「わたし、この四月から、もう一度二年生をやりなおす」



「それって……」


「出席日数が足りなくて……つまり落第」


「学校は、補講をやって、進級させてやろうって言ってくださるんだけどね、潤香ったら……」


「そんなお情けにすがんのは、趣味じゃないの」


「一学期の欠席がなければ、いけたんだけどね……」


「怒るよ、お姉ちゃん。これは、全部わたしがしでかしたことなんだからね」


「先輩……」


 わたしも胸がつまってきた。


「ほらほら、まどかまで。わたし、この留年ラッキーだったと思ってんのよ。だってさ、あんたたちと、もう二年いっしょにクラブができるじゃない。いっしょにがんばろ! 今度は全国大会!」


「は、はい!!」


 元気に返事して、見上げた空には、もうJALの後姿は見えなかった。




☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

芹沢 紀香       潤香の姉

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

貴崎 サキ       貴崎マリの妹

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長

峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長

高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩

柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

乃木坂さん       談話室の幽霊

まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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