野獣とのランチ
ローレンス・ゴーリーは確かに体の大きなクマのような男だった。髭は“ある程度“整えられているが社交界では長く、ボサボサの範疇だろう。
服装は問題ない。カッチリとした正装で“服装だけは”清潔感がある。しかし不格好に伸びた黒い前髪は目に入りそうな長さで少しばかり鬱陶しい印象を受けざるを得ない。前髪の隙間から赤い目が時折チラチラ見えた。
シルビアの最初の見合い相手がローレンスだったならば間違いなく出会ってすぐに断りの手紙を侍女に書かせていたことだろう。
(女性に慣れてないとかのレベルではなさそう)
シルビアは紅茶を一口飲んだ。
(でも…)
少しだけ微笑む。
(リピアの好みではないわね)
それがなによりである。
リピアは筋肉ムチムチのガッチリした殿方よりはスラリとした殿方を好んで捕食する傾向にある。幸い社交界のお坊っちゃま方にはその手の痩せ型の方が多い。
ローレンスは明らかに前者だ。
軍に所属しているという前情報はサマンサから聞いている。彼が野蛮だの野獣だのと言われる由縁もここにあり、貴族のお坊っちゃんは好んでガチの方の軍隊に入ったりはしない。学園で騎士コースを選んだとしても戦場にはあまり出向かないエリート組になるからだ。
ローレンスは異例だが自ら望んで戦場に赴いているらしい。恐らくは彼のお父上が軍のお偉方であることも関係するだろうと推測できた。英雄と呼ばれる彼のお父上も自ら望んで戦場に行き、叩き上げでのし上がっているのはこの国では有名な話だからだ。
趣味で鍛えた筋肉とは明らかに違う。
元々背が高い上に筋肉がつけばクマのようにもなってしまうのも仕方ないのか。
ちなみにシルビアの元々の好みも細みの男性像だったがリピアの再三に渡る食い散らかし…いや、あっさりと食い散らかされていく男どもを散々見てきたシルビアにはもはや好みなどという細かな概念はなかった。
心底愛してくれていると思われた元婚約者すら姉妹を最後の最後まで見抜けずに退散したのだから仕方ない。期待は敵だ。油断は出来ない。
「ここまでは遠かったか?」
「1時間ほどですわ。ローレンス様の方がお時間かかったのでは?」
「まぁ2時間ほどだな…」
正直あまり会話は弾んでるとは言えなかった。
口下手なのだろう。明らかにこちらを伺う素振りが多い。言葉遣いは紳士的とは言えないが気取ってるよりかは話しやすい。
大貴族はもっと横柄かと心配していたが杞憂だったらしい。
問題は彼がシルビアを気に入っているかどうかだ。わざわざ貴族お見合い御用達のレストランに招待してくれたことから乗り気でないわけではないと信じたい。例え用意したのが彼の家の使用人だとしても。
内装も外装もきらびやかなレストランはもちろん個室だった。食事は大変美味しかったし、今出されている茶菓子や紅茶もとても美味しい。
もうほとんど今日のお見合いの工程は終わっているというのにこれといった手応えはなかった。
しかしシルビアから断るつもりはない。
今日会って彼のことはある程度気に入ったし、なによりサマンサの見立てを疑うことはしたくない。
彼女の“情報”はいつだって正確なのだ。
問題はローレンスがどう思っているか。
シルビアは窓の外に目を向けた。
広く美しい庭園が広がっている。流石はお見合い御用達。今の時期は薔薇が良く咲いている。
「お庭を歩きませんか?」
シルビアはローレンスに声をかけた。
久々過ぎて設定が思い出せない…書きかけ多すぎてどれがどれやら…少しずつ整理したいです(願望