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Passionate Sympathy  作者: 梅衣ノルン
第2章 Precious Sensation
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実像と残像の逢着

☆登場人物☆


・鎌谷善水……かまやよしみず

 高校二年生。男子。言動にやや冷たい部分がある。身長が高い。


・沢渡惟花……さわたりゆいか

 謎の少女。長い銀色の髪を持つ。基本的に明るい。善水が大好き。身長が低い。


・水沢透……みずさわとう

 高校二年生。男子。サッカー部員。善水と仲が良い。髪は茶色。


・岡村美菜……おかむらみな

 高校二年生。女子。優しい性格だが、人には言えない趣味があるらしい。セミロングな金髪。


・????


・鎌谷善治……かまやよしはる

 善水の父。善水にとって反吐が出るほど嫌いな相手。NGOに所属している。


・????


・????


・????


・???


・???


・???


・????


・??


 規則正しい周期の揺れが、目的地まで導く。

 早朝のせわしさの面影を何一つ残さず、住宅街を横目に独走する箱の中に、ただ俺たち四人だけがいた。

「という訳で、これが電車だ。頭に叩き込んでおけよ、惟花」

「電車くらい誰でも知ってます」

 隣に座る惟花がふくれっ面を浮かべた。

「ふーん。ところで、ちゃんと切符は持ってるか? なくしたら電車から降りられないからな」

「もちろん私のポケットの中に……、中に……」

 それから三十秒ほど手をわさわさと弄んでいた。惟花の表情が見る見るうちに青ざめていったことは、あえて記述するまでもない。

「しゅ~りょ~。お前だけボランティア終了の時間まで、駅で待機な」

「なんでですか!」

「なんでですか、って聞いてくるお前の方がなんでだよ……」

 俺がそう言うと、俺から見て、惟花をはさんだ先に座る美菜が、いつになく真剣な表情で、静かにこう諭してきた。

「善水君。惟花ちゃんはまだ私たちの世界のことをよく知らないんだから、そこに付け込んで、いじめたらダメだよ」

「切符を無くすこととはあんまり関係ないような気がするけどな……」

「そういう問題じゃないよ。ほら、惟花ちゃんの今の気持ちを想像してごらん」

 俺は惟花の方へ顔を向ける。すると、思わず両手を伸ばして抱き込んでしまいたくなるほど瞳に涙をうかべて、こらえていた。

「わ、私、本当に一人ぼっちで待たないといけないんでしょうか、三時間くらい、ずっと……。ご主人様、こんなドジな私が彼女で、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません……」

 この、のぼせたように少し赤くなった顔と、グルグルと渦巻く感情を熱く流す湿った瞳を見て、チクチクどころかグサリグサリと、俺の真っ赤に光る心臓が次々と刺突されていく。

「わ、悪い。ちょっと事前の説明が不足していたかも。悪い。謝る。許してくれ。駅で待てと言ったのは冗談だ。駅員とちょちょっと会話すれば、多分大丈夫」

 つっかえつっかえとしか話せない。自分で思うより独占欲の強いらしい俺は、透と美菜の目線が混在するというだけで、こうなってしまうのだった。

「まあ、切符をなくした私が悪いんですけど」

 明らかに機嫌を損ねてしまったみたいだ。

 幸い、雨雲が空にフェードインしたり、世界が崩れていく予兆を感じたり、といったことはなかった。

 本当に辛い気分にはなっていないことを確認できた安堵に心をくつろがせる一方、まるで他人の心を覗き見しているようなこの状況を、あまり受け入れられたものでもなかった。


 電車から降りて間もなく、臭いの無い、田舎の澄んだ空気が肌に触れた。

 駅に着いた後、ご年配の駅員に事のいきさつを説明したら、数分の拘束の後、あっさりと惟花を通してくれた。

 惟花の気分はまだ晴れない。

 気まずいので、女子二人に先行してもらうことにした。

「透。どういう文句で美菜をボランティアに連れ出せたんだ?」

「なんだ、何を聞いてくるのかと思ったらそんなことかよ。このボランティアってただゴミを拾うだけの簡単な作業だし、近くに規模は小さいけど小学校もあるからさ、その児童たちが参加するんじゃないかって言ったら、あっさりと」

「ん? なんでそんな理由で来るんだよ」

「まあ善水はそんなことよりも、自分の彼女のことでも心配しとけ」

 なんだか煙に巻かれた気分だ。

「なんか深刻な理由なのか?」

「別に。俺たちからしたら心底くだらない。まあなんだ、その筋の人たちにとってはものすごい魅力的な何かを感じるんだろうが、そういう世界のことはよく分からん」

 俺も透の説明がよく分からん。


 広告にはやまのボランティアと書いてあったが、実際にゴミ拾いをするのは、ほんの()()()だけ。

 だから、四人とも純正の普段着。女子二人は普通にロングスカートをはいている。

 こんな狭い範囲だけきれいにしても、意味はないんじゃないかと思う。というか、みんなそう思っているからこそ、本日の俺たち四人以外のボランティア参加者が、しわが入って腰の曲がった純正の高齢者が僅々五人という結果につながっているのだと思われる。

「小学生なんて一人もいないんだが」

 俺は、透と美菜に聞こえるように、はっきりと告げる。

 美菜は一瞬で生気を失った……かのように見えたが、すぐさま「やるぞ」という意思の感じられる「両手の肘を曲げて自分の身に軽く引き寄せるポーズ」をとって、持参の軍手をはめ始めた。

 カウンセラーとしての実力だけではない、真のボランティア精神というものがそこにあった。おそらく一生真似できない。

 俺たち四人がしばらく歓談で時間をつぶしていると、何の前触れもなく代表者らしき男性(これも年寄りだ)が勝手に挨拶をはじめ、一分も説明せずに参加者たちを解散させた。

 この間に、高校生の俺たちに特別に興味を示したりする者はいなかった。まるでいない者扱いされているようにも感じ、お世辞にも居心地の良い場所とは言えなかった。


 ゴミ拾い中も、男女が二人ずつに分かれる形となった。別にそれを強制されたわけでもなく、ただ自然とそうなった。

「とても学生さん大募集な雰囲気じゃないぞ。活動範囲についても、危険物とかについても、説明は一切なし」

「そうだねえ。内輪だけで適当に済ませているような」

「とりあえずこのあたりのものだけ拾っとけばいいんだろうか……」

 答えのない命題を追い求めているようで、ほんの少しだけ哲学的な気分にならなくもない。高校生としての貴重な時間を、隣の男と共に腰を曲げながらゴミを拾うことに費やしているという事実に落胆するばかりだが。

「なあ善水。今何時だよ」

「まだ始まってから三十分も経ってないぞ」

「……何時間やるんだっけ」

「三時間。だからやめておけと言ったのに。普段の学校生活がいかに恵まれているかがこれではっきりと分かったな」

 開始から三十分も経つと、だんだんと手の動かし方も足の滑らし方も、ゴミ袋に入れる動作も全て投げやりになっていく。

 ふと視界を女子たちの方へ向けると、あの美菜でさえ動きがだんだんと鈍くなっているのが分かる。他方、惟花はそこそこ身体を動かすが、まだ心のけだるさが完全に燃え切ってはいなかったようで、ゴミ袋へはわざわざ直線的に「ガゴン!」とゴミを放り投げていた。

 一方、高齢者たちは初めからゆっくりとしたペースで、一人ひとりがそれぞれの作業に腐心しているようであった。このボランティア活動の常連のような風格が感じられた。俺たちが身を置いている時間とは、全くの異質な時間が流れているようにさえ見えた。

 同じ空気を吸い続けて心が沈み込みそうになった俺は、空気を変えるために、透が反対側へ向いているタイミングを見計らって、ゴミ袋を持って単身別の空間に移動した。


 一時間が経過し、俺はよく分からない苛立ちに苛まれてきたので、勝手に休憩することにした。腕や足からメキメキとした悲鳴が聞こえてきた。

 立ち上がろうと、地面と水平に自分の顔を構えたとき、白髪の老婆を視野にとらえた。

 特に彼女を注目する用事も無かったのでそのまま立ち上がろうとしたが、偶然にも老婆が俺の目線をキャッチしてしまった。

「……あら、お兄さんは一人で作業しているんですか」

 あろうことか、話しかけてきた。

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