歪んだ時空の招待状
☆登場人物☆
・鎌谷善水……かまやよしみず
高校二年生。男子。言動にやや冷たい部分がある。身長が高い。
・沢渡惟花……さわたりゆいか
謎の少女。長い銀色の髪を持つ。基本的に明るい。善水が大好き。身長が低い。
・水沢透……みずさわとう
高校二年生。男子。サッカー部員。善水と仲が良い。髪は茶色。
・岡村美菜……おかむらみな
高校二年生。女子。優しい性格だが、人には言えない趣味があるらしい。セミロングな金髪。
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・鎌谷善治……かまやよしはる
善水の父。善水にとって反吐が出るほど嫌いな相手。NGOに所属している。
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「善水う。これを見ろよ」
とある学校の日の休み時間に、ほんの少しのモノクロイラストが文章と共に印刷されたプリントを片手に話しかけてくる茶髪の男がいた。
「なんですか、これ」
俺よりも先に、すぐ隣にいる惟花が反応していた。
「やまのボランティア……。老若男女関係なく、同じ顔をした人たちが空き缶やら汚い包装紙やらと戯れていますね」
「惟花、その言い方はなんだか悪意を感じるぞ。確かにそう見えるが」
透の見せてきた紙には、「体力のある学生さん大募集。山のごみ拾いに参加しませんか。今週の水曜日の午前九時から正午まで」などと書いてあった。
その内容をとらえた俺と惟花は、同時に、
「はっきり言おう。こんなものは誰も行かない」
「面白そうですね! ご主人様と行ってもいいですか?」
と答えていた。
「おい、惟花。行くなら一人で行けよ」
「なんでですか! 私とご主人様はいわば一心同体。落花流水。ご主人様はいつだって私と一緒に行動する義務があるのです!」
「ああ、朝っぱらから見せつけてくれるねえ、あんたら」
「いや、ただ迷惑なだけなんだが。しかもこれ、平日の午前中って、授業があるじゃんか」
「そう! そこなんだよ!」
透が、近くにいた男子生徒に両手を合わせ低頭し、空間を空けてもらうと、そのスペースに近くの椅子を引っ張り出し、片足を踏みつけて叫んだ。
「堂々と授業がサボれる千載一遇のチャンス。ボランティアなら学校から許可が下りるだろ。このチラシも、平日にやるにもかかわらず、わざわざ学生さん大募集と書いてあるんだ」
「サッカー部といい、お前はサボることしか頭にないんか。俺は反対だぞ。授業を受ける方がよっぽどらくちんだろ。しかも、どうせそういうイベントは高齢者しか集まんねえよ、今時。ニュースのボランティア関連の報道とか見てみろ。子供なんて百人に一人いるかいないかだぞ」
「あのねえ善水。僕がせっかくお前らの為に気を利かせてやってるって言うのに。ちょっと耳を貸せ」
俺は心底くだらないと思いつつも、透に左耳を向けてやる。
「お前と惟花ちゃん、まだ付き合ってからデートの一つも挙行してねえだろ。とにかく君たちカップルはもっといろいろな場所に出かけて、様々な思い出を作らなくちゃいけない。特に善水はインドア派だからな。こういう機会でもないと面倒くさがって惟花ちゃんをほったらかしにするだろ」
「ま、まあ、せっかくのデートの内容がゴミ拾いであることに目をつぶれば、確かに一理ある……」
まあ、俺と惟花との距離を縮めることが目的なら、透ははっきり言って邪魔なだけなのだが、この件の提案主を無下にするのも俺の中の良心が看過できなかった。
「よし、決まりだな。惟花ちゃんも来るだろ。なら今のところ三人か。おーい、美菜。話があるんだけど聞いてくれないか」
透は、まだ写し切れていない板書をせっせとノートにメモをしている美菜のもとへ、小走りで向かっていく(片足を椅子の上に乗っけたままだったことを忘れていて、転びそうになりながら)。
「えっと、さっきの話は聞いてたけど、やっぱり授業の方を優先したいし……」
美菜は、まるで相手に許しを請うているように見えるくらい、申し訳なさそうにかぶりを振る。
行動の節々に見える美菜の心優しさは、たまに尊ささえ感じる。
「まあそういうと思ったけど、実は……」
透は、俺にしたように耳打ちをする。
「じ、じゃあ行く!」
透の言葉が特効薬のように効いたのか、美菜は突として快諾する。
コロっと意見を変えるのは、美菜としては珍しい。何を吹き込まれたのか、是が非でも聞いてみたいような、どうでもいいような。
「それじゃあ、僕は先生に伝えてくるよ」
透はこちらに向きもせず、やはり足早に職員室へ向かっていった。
ふと美菜を一瞥すると、どうやらとんでもない僥倖に恵まれたみたいに、恍惚の表情を浮かべていた。
「惟花。なんで美菜はあんなに幸せそうなんだ?」
「わ、分かりません……」
禁忌の領域に触れるのは嫌なので、話しかけるのはよしておこう。
「なあ鎌谷。水沢のやつはいったいどうなっちまったんだ?」
とある男子生徒が話しかけに来た。
「あいつはいつもどうかしてるだろ」
「友達なのに辛口だなあ、鎌谷。それにしても、彼女ができたらしいな。おめでとう」
「そりゃどうも」
「一緒の部屋に住んで、寝食を共にしているんだって? いやあ、生きていると絵空事のようなことも現実に起こりうるんだなあ」
その発言を聞くや否や、口にお茶を含んだ仮想俺が3Dモデルのように活現し、盛大に仮想液体をぶちまけた。
未曾有の危機が訪れんとしているこの状況に、俺の弱き心は限界まで圧砕され、ただ身の震えに自己身体制御中枢部位が揺れ動くばかりであった。
「またまたご冗談を……」
「透が言ってたぞ。もしかして、まずかった?」
もっときつく箝口令を敷いておけばよかった。
「後で鍋に入れて食ってやる」
「ちなみに学校じゅうの生徒に言いまわってたぞ」
「なるほど。まあ俺の逮捕は免れない、か……。釈放された後、みじん切りしてから旬の野菜と一緒に鍋に入れて十分に煮込んだ後食ってやる」
しかし、俺のもとに逮捕状は来ないのは変だ。
「そ、そんなに怒ることだった? 別に普通じゃね? そのくらい」
「普通って、何が」
「相部屋すること」
息を吸うように言ってのけた。
「失礼な物言いをお許し願いたいのだが、お前は頭がおかしいのか? 頭のねじがさびついてんのか?」
「僭越ながら、自分は至ってノーマルだと存じている。それに俺以外の誰も、文句なんて言わないさ。信じられないなら同じ話題を他の奴らにも振ってみろよ」
「惟花、ちょっと来い」
「いきなり手を繋いでどうするおつもりで……あ~れ~」
俺は教室じゅうのクラスメイト達に、さながらゲームのタイムアタックのように、迅速に正確に尋ねまわった。
誰もかれも、「羨ましい」とか「別に問題ないでしょ」とか「憧れるシチュエーションだ」とか「意外とどうでもいいところを気に掛けるんだな」とか「ふへ、ふへへへ、惟花ちゃんの生写真撮り放題とかいいじゃないですか……! いいですねえ……!」とか(最後のは一人だけだが)、呑気な意見しか言わなかった。
あまつさえ、女子までも。
「なあ惟花。この状況はどういうことだと思う」
「写真を撮るのはいいですけど、恥ずかしい写真はNGですからね、ご主人様!」
「うん、今そんな話はしていない」
「どちらかというとご主人様の方がおかしいような」
確かに、この場において、周囲と全く違う倫理観を持っているのは俺だけだ。つまりこの空間では俺の方が異常で、周囲は正常ということか。
まったく嚥下できない現象だが。
まあ、なにやら俺は神から赦しを受けたみたいなので、ありがたくこの状況に身を置いておくことにしよう。




