新居
四宮はふらつく足取りで部屋を出て行く。
それを佐伯はぼんやりと眺めていた。
――慣れていそうだったけど、足が痺れたのだろうか? そもそも痺れない人っていないよな。
全く的外れなことを考えているとものの数分で別の男性が現れる。
和装の四宮と違い、きっちりスーツを着ており掛けられたメガネがすごく知的に見える。
まさにできる営業マンといった感じだった。
「こんにちは、佐伯様。私は四宮不動産の代表をしております、四宮一樹と申します。よろしくお願いいたします」
「これはこれはご丁寧に。私は佐伯浩二と言います。どうぞよろしくお願いいたします」
渡された名刺を受け取りながら頭を下げる。
「詳しい話は正宗様より伺っております。なんでもご自宅を探されているとか」
「お恥ずかしい話、今住むところがなくてですね……」
「そんな佐伯様のために家具一式も揃っている物件を集めてまいりました。こちらはいかがでしょうか?」
一樹がいくつかの不動産資料を机に提示してくる。
値段はなぜか伏せられているその資料には、明らかに佐伯が住むには広すぎる間取りが描かれていた。
「あの……」
「当社でも最高の物件を取りそろえさせていただきました。費用の方もしっかりと勉強させていただきますので、いかがでございますか?」
「……もう少し普通の物件はありませんか? その、アパートとか古家とか……」
「なるほどなるほど。確か佐伯様は術士の方ですもんね。それなら……」
一樹が少しだけ考えた上で別の資料を提示してくる。
元々準備をしていたのだろう。
先ほどより少しだけ狭い、といってもほとんど変わらない大きさの建物を紹介される。
違う点は今回紹介された建物には『特記事項あり』と書かれている点だった。
「……あの」
「やはり陰陽師なら地脈とか大事になさいますもんね。やはり気が溜まりやすい場所はあやかしが集まりやすくて問題が起きやすいのですが、佐伯様なら大丈夫ですもんね」
「――もっと普通の場所で構いませんのでなるべく安いところをお願いします」
結局色々と一悶着がありながらも、比較的安い建物を借りることができたのだった――。
◇ ◇ ◇
町外れにある歴史を感じられる平屋の古民家。
ちょっとあやかし付きのその家を借りた佐伯は早速生活の準備を始めることにした。
まずは部屋の掃除から。
ほこりっぽい部屋を箒と雑巾で綺麗にしていく。
ついでに魔物も倒しておく。
ただやはり一人暮らしで3LDKの建物は大きすぎる。
掃除をするだけでも一苦労だった。
そう思っていると四宮から受け取ったスマートフォンが突然鳴り出す。
「わわっ、っと。電話か」
床に置いていたスマートフォンを手に持つと、四苦八苦しながらなんとか出る。
「もしもし……」
「佐伯様、無事に住居が決まったのですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。わざわざそのことを連絡して下さったのですか?」
「それだけではなく、お話ししていた陰陽師の指南の件なんですけど」
「もちろん忘れていませんよ。何かお仕事ですか?」
「いえ、あやかしの気配はまだないのですが……」
四宮はそう言っているが、佐伯からしたらいくらでも魔物の気配を感じられていた。
あまり気配を探るのが得意じゃないのかもしれない。
それともあまり強くない気配だからなしと数えているのかもしれない。
「まだ若い陰陽師の卵と共に行動をして貰うことはできませんか? 佐伯様のノウハウを教えていただきたいのです」
「それくらいでしたら全然構いませんよ」
実際に異世界でも色々と魔法を教えることはあった。
それと同じだと考えると比較的楽な仕事とも言える。
「ただ、仕事の時間なのですが……」
「そうですね。教えていただきたい子たちはまだ学生なので夕方以降、でいかがでしょうか?」
「それなら構いませんよ」
それなら昼の間に仕事を探して、夕方に魔法を教えるという動きが出来そうだと考える。
もちろん、仕事が見つかったら別のことを考えないといけないが。
「それは助かります。では、挨拶がてらこのあと佐伯様のお家にお邪魔させていただきますね」
「えっと、掃除とかもまだで家具も揃っておりませんが、それでもよろしければ……」
「かしこまりました。家具は用意させていただきますので」
「そこまでしてもらうわけには――」
しかし、すでに電話は切れてしまっていたために何も言うことができなくなってしまう。
◇ ◇ ◇
しばらくすると四宮の他に見覚えのある人たちがやってくる。
「また会いましたね、佐伯様」
にっこりと笑みを浮かべているのは六条遥だった。
その隣には二宮が眉をひそませていた。
「結局四宮に捕まったんだな」
「捕まったとは人聞きが悪いですね。あくまでも佐伯様とは協力態勢を結んだだけですよ」
「……せっかくうちにお呼びして既成事実……、いえ、お仕事を紹介しようと思っていたんですけどね」
遥は頬を膨らませていた。
そんな二人とは別に知らない少年も一人いた。
常ににこやかな笑みを浮かべている、遥とほぼ同じ背丈をした可愛らしい少年だった。
「お二人は知り合いなのですね。初めて会ったのは僕だけですか」
「そちらの方は?」
「僕は一ノ瀬智也です。これからよろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げてくる一ノ瀬に吊られるように佐伯も頭を下げていた。
「こちらこそよろしくお願いいたします。佐伯浩二といいます」
「私は六条遥です」
「知ってますよ」
「えへへっ、知られてました」
嬉しそうに笑みを浮かべる遥。
「今日は顔見せのつもりですが、なにかお聞きしたいことはありますか?」
「皆さんの得意とされてる魔法はありますか?」
「俺は火の二宮だからな。もちろん火の陰陽術だ」
「僕は水ですね」
「私はその……、病気であまり陰陽術の特訓ができてなくて……。気配を探るのが得意ですよ」
「えっと、家ごとに得意な魔法……、じゃなくて陰陽術があるのですか?」
「当然だ。長年研究された結果の術だからな」
二宮が自信たっぷりに言う。
だからこそ名家が生まれているのだろう。
「そうですね。一度使っていただけませんか? 皆さんがどういった魔法を使うのか、興味があります」
視線が四宮に集まる。
「さすがに周囲に影響が出るような術は控えてくだされば、情報規制はさせていただきますよ」
「それならこれはどうでしょうか?」
佐伯が指を鳴らすと周囲一帯に結界が張られる。
中の魔法が外に漏れず、外からは気配を探られない程度の簡易的な結界。
それなりに魔法を学んだものなら誰でも使えるようなものだった。しかし――。
「はっ!? こんなに簡単に高位結界を!?」
「これって結界術ですか!? 九鬼家の……」
「さすがは佐伯様です」
「たいしたものでもないですよ。みなさんもすぐに使えるようになります」
教える予定の子達は驚きの声を上げる。
更に四宮も表情は変えていないもののジッと結界を見ていたのだった――。




