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十五従軍征  作者: 魂馬 一心
第一章 十五の春
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第一幕 山の沈黙

その年、山は静かすぎた。


李征は物心ついたときから、桐柏の山を読むことを覚えていた。父が生きていた頃、罠を仕掛けながら教えてくれたことだ。鳥が急に鳴き止めば、獣が動いている。獣が動かなければ、もっと大きな何かが動いている。山は嘘をつかない、と父はよく言った。人の声よりも、山の声を聞け、と。


だから、山鳩の声すら聞こえないその朝、十四の李征は妙な胸騒ぎを覚えて竹籠を背負ったまま足を止めた。


——静かすぎる。


村を囲む峰々は、いつもと変わらず青く霞んでいた。朝靄が谷間に低く這い、日の光が斜めに差し込んで、木々の輪郭を金色に縁取っている。何も変わっていないように見える。だが、いつもなら峠の向こうから聞こえてくるはずの隣村の犬の遠吠えがない。薪を割る音もない。鶏さえ鳴かない。李征は息を止め、耳を澄ませた。風の音すら、どこか遠い。まるで山ひとつ隔てたその向こうで、何かが息を殺して、こちらを窺っているようだった。


背筋を冷たいものが這い上がった。うなじの毛が逆立つのが自分でもわかった。


「気のせいだ」


そう声に出してみても、自分の声だけが妙に大きく響いて、かえって不安を煽った。李征は竹籠の紐を握り直し、罠の見回りを急いだ。父の死後、この仕掛けが母と幼い妹を養う数少ない手立てのひとつだった。急がなければ、獲物は他の獣に横取りされてしまう。それだけを理由に、自分に言い聞かせながら、湿った落ち葉を踏んで斜面を登った。


一つ目の罠は、空だった。それはよくあることだ。李征は特に気にも留めず、次の罠へと足を進めた。


二つ目の罠も、空だった。それも、まああることだ。だが、いつもより息が上がっているのに、李征は気づいていなかった。


三つ目の罠の前で、彼は足を止めた。


縄が、切られていた。獣が暴れてちぎれたのではない。刃物で、一息に断ち切られた跡だった。切り口はまっすぐで、迷いがない。踏み荒らされた下草には、何かを引きずったような筋が残り、その先で唐突に途切れている。まるで、何かを持ち去った者が、途中で自分の足跡を消すことを思い出したかのように。


李征は、喉の奥が急に渇くのを感じた。心臓が、耳のすぐ裏で鳴っているように大きく脈打つ。周囲を見回したが、人影はどこにもない。ただ、木々の隙間から差し込む光の筋だけが、静かに揺れていた。


罠の脇の樹に、目をやる。幹に、まだ樹液が滲むほど新しく、何か文字らしきものが刻まれていた。深く、迷いのない刃の跡。まるで祈るように、あるいは呪うように、几帳面に彫り込まれている。


字は読めなかった。母がこっそり教えてくれる文字は、まだ数えるほどしか知らない。だが、その形には見覚えがあった。数日前、市で見かけた、行商人の荷の布にも同じ形の文字が染め抜かれていた。あのとき、大人たちは誰も彼もが、それを見て、見なかったことにした。目を逸らし、足早に通り過ぎた、あの態度だけを李征は覚えている。


李征は樹皮にそっと触れた。指先に、まだ乾ききらない樹液がつく。冷たかった。まるで、この樹自体が、ついさっきまで誰かの体温に触れていたかのように。指先を離しても、その冷たさだけが皮膚に残った。


——誰かが、ついさっき、ここにいた。


峠の向こう側から、こちら側へと。


そして今も、まだ近くにいるかもしれない。


李征は初めて、山の中で「一人でいること」を恐ろしいと感じた。それまでは、この山のどこにいても、父の教えに守られているような安心があった。だが今、その安心がひび割れていくのを、はっきりと感じた。竹籠を背負い直し、振り返らずに家路を急いだ。背中に、誰かの視線を感じながら。木々のざわめきひとつひとつが、後ろから追いかけてくる足音のように聞こえた。


その日の夕方、村に痩せこけた行商人の一団が現れた。土埃にまみれた身なりで、井戸端に膝をつき、粥を恵んでほしいと、深く頭を下げる。母は快く粥を分けてやった。李征は、家の陰から様子を窺っていたが、その一団の中の一人と、一瞬だけ目が合った。


微笑まれた。


理由のない、あまりに自然な微笑みだった。それが、かえって李征の背筋を凍らせた。まるで、李征が朝に見たものを、この男もすべて知っているかのような、そんな微笑みだった。


彼らが去ったあと、井戸端に残された茶碗の底に、あの文字と同じ形の印が、ひっそりと描かれているのを、李征だけが見つけた。指でなぞろうとして、途中で手を止めた。触れてはいけない気がした。


その夜、李征は眠れなかった。天井の闇を見つめながら、何度も同じ光景が瞼の裏に蘇った。切られた縄。冷たい樹液。理由のない微笑み。すべてが、まだ形を持たない不安として、胸の底に沈んでいった。

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