第一話 ポンコツ鍛冶師レイン
読み方は、は↑どう↓のつるぎです。
この世界は4つの大陸と小さな島国が転々として構成されている。島国はどれも未開とされており、4つの大陸にはそれぞれ大きな帝国がある。
それぞれの帝国はどれもその国特有の資源を持ち、各国がその覇権を巡って争いあっており、大なり小なりいざこざが絶えず起こっていた。
しかし、何故か大陸の間には強力な妖異が巣食っており、大陸間の移動を妨げている為、容易には行き来する事は出来ない。それが幸いし、国と国との大きな戦争となる事は殆どの無く、人々は日々の暮らしを妖異から守る事に集中し、穏やかに過ごしていた。
大陸西端。鉄と蒸気の国、ガルディア帝国。
山脈をくり抜いて作られた鉱山都市グレンバルでは、今日も朝から金槌の音が鳴り響いていた。
カン、カン、カン――。
熱せられた鉄を打つ音。炉から吹き上がる火花。汗と煤に塗れた鍛冶師たちが、無骨な腕で鋼を叩き続ける。
その中で、一人だけ明らかに異質な青年がいた。
「うおっ!? あっつ!!」
真っ赤に焼けた鉄を床に落とし、青年は情けない悲鳴を上げた。
周囲から盛大な溜め息が漏れる。
「またか、レイン」 「お前、本当に鍛冶師向いてねぇな……」 「剣を打つ前に、自分の指を鍛えろ」
笑い声が工房に広がった。
レインと呼ばれた青年は、苦笑いを浮かべながら頭を掻く。
「いやぁ、今日はちょっと火加減が――」
「毎日言ってるぞ、それ」
即座に返され、再び笑いが起きた。
レイン・クラウゼル。十四歳。
鍛冶工房『黒炉亭』に所属する見習い鍛冶師である。
……もっとも、“見習い”という言葉すら怪しい腕前だったが。
「おい、レイン」
低い声が工房に響く。
笑い声がぴたりと止まった。
奥から現れたのは、筋骨隆々の老人だった。片目に古傷を持つ大男。黒炉亭の主であり、帝国でも名の知れた鍛冶師――ガンツである。
「は、はい親方!」
「お前、注文の包丁はどうした」
「えっと……九割くらい完成してます!」
「昨日も同じ事を聞いた」
「…………」
ガンツは無言でレインを見下ろした。
やがて大きな溜め息を吐く。
「お前は昔から妙な癖がある。鉄の声を聞こうとしすぎる」
「鉄の……声?」
「剣も包丁も道具だ。使う人間がいて初めて意味を持つ。だが、お前は鉄そのものを理解しようとしてやがる」
レインは少しだけ視線を落とした。
「……駄目ですか?」
「駄目とは言わん。だが、そんなもんに拘る鍛冶師は大抵ロクな死に方をしねぇ」
その言葉だけ妙に重かった。
レインが何かを言い返そうとした時だった。
――ガタン。
工房の入口から大きな音がした。
「……ん?」
全員の視線が向く。
そこには、一人の男が倒れていた。
薄汚れた羽織。
擦り切れた草鞋。
腰には一本の刀。
しかし、その刀は刀身の腹の部分で折れており、半分だけになっている。
「……なんだコイツは?それにこの身なりは一体?」
誰かが呟く。
ガンツは膝をつき男の刀を取り、まじまじと見つめると驚愕した。
「なんだこの鋭さは…。それにここまで薄く叩き上げられてこれほどの硬さとしなやかさ…!」
ーーガンッ。
「ぬぉっ!」
集中していたガンツは突然男に手を掴まれ声をあげた。
ぼさぼさの黒髪の隙間から覗く目は、死人のように濁っている。
「……水をくれ」
掠れた声だった。
「おいっ!誰か、水を持ってきてやれ!」
ガンツは部下に指示を出した。
「あ、ぼくが持って来ます!」
レインは水樽から柄杓で水を掬い駆け足で男の元に近づいていった。
すると男の懐から小さな動物が飛び出してきた。
「キューン」
「うわッ!」
バシャっ!
驚いたレインは柄杓の水を男の頭とガンツにぶち撒けてしまう。
「水をくれとは言ったが、コレは違うと思うんだが…。」
男は顔を拭いながらその水を急いで啜った。
「ご、ごめんなさい!」
「…レーイーンーッ!」
ガンツは右拳をワナワナと震わせ怒号をあげるのであったーー。




