第81話 ダンジョンワンダラー
目の前で泣きじゃくっていた灯里ちゃんの呼吸もようやく落ち着き、規則正しいものに変わった。
そろそろ帰還しようと、柔らかな髪に置いていた手をそっと離す。
――そんな時だった。
「っ!?」
足元から嫌な気配を感じ取った俺は、灯里ちゃんを抱え上げながら、弾かれるように前方へ転がった。
「――ティ、ティアちゃん!? どうしたの!?」
目を丸くしている灯里ちゃんの声に応えるよりも先に、俺はすぐさま背後を振り返る。
だがそこには何もなく、特段変わった様子もない。
ただ風に揺れる草木があるだけで、人影も、魔物の姿もない。
「気のせい? いや、違う……」
一瞬。ほんの一瞬だけ、紫色の残滓が小さく消え去ったのが見えた。
「……あかりちゃん。多分だけど、いま攻撃を受けたと思う。それに、言ってなかったけど、ここには何かがいるよ」
「な、何かって!?」
否。正確に言えば、何かがずっと居た……が、正しいだろう。
灯里ちゃんを撫でている最中に気づいたことだが、とてもどす黒い視線が、いつからか俺たちに向けられていた。
(さっきの嫌な気配――おそらく、この視線の持ち主に、何かをされかけたんだ)
首を左右に振り、邪悪の出どころを探すが見つからない。
今この瞬間も、こちらをジッと観察するような視線を感じる。
「舐めるな! 超集中 !!」
アイドル魔法の一つであるこの魔法は、俺の集中力を飛躍的に上昇させる。
意識が一点の曇りもなく研ぎ澄まされ、空気の揺らぎが、葉擦れの音が、周囲の全ての情報が脳内に解像度高く展開されていく。
腕の中の灯里ちゃんを隣に降ろし、目を閉じて周囲を探る。
この状態なら、僅かな違和感さえ見逃さない。
「――そこだ! 竜の衝撃波!!」
背後を振り返り、森の一角にある木の上に広範囲衝撃波を遠慮なくぶつけた。
バキバキと木々がへし折れる音と共に、そこから何かが飛び出してくる。
「ケケケケケ!!」
俺たちの目の前に現れたのは、道化の衣装を纏った人形のモンスターだった。
赤や青といった原色の布地がパタパタと乾いた音を立て、不気味な動きでゆらゆらと揺れている。
顔にあるべき場所には漆黒の仮面がはめ込まれ、そこからノイズ混じりの嗤い声が漏れていた。
「このモンスターは……?」
「私も見たことないよ! ――え、うそっ!?」
灯里ちゃんが奴を見た途端、喉を詰まらせた。
「どうしたの、灯里ちゃん?」
正面を警戒したまま、視線だけで彼女を追う。
その顔は血の気が引いており、信じられないものを見るかのように、震える手で眼前の奴を指差した。
「あ、あのモンスター。LDカメラの鑑定に、レベルが337って出てるの。それに、あの称号って……」
「――え?」
これまで聞いたこともない高レベルの情報と称号という言葉に、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
一体どういうことだろうか。LDカメラを持ってきていない俺にはその画面が表示されない。
(灯里ちゃんの様子が尋常じゃない。一体何が見えてるんだ……)
灯里ちゃんの萎縮しきった様子に警戒レベルを跳ね上げた俺は、自前の鑑定スキルを発動させる。
「見透かす瞳!」
金色に輝く瞳で揺れ続ける奴を見据えると、衝撃の結果が映し出された。
名称 :ダンジョンワンダラー【ユニーク】
レベル:337
称号 :【大量探索者殺し】【世界のダンジョンを巡る者】
◆ドロップ品
・ダンジョンワンダラーの魔石
「こ、これは……」
人がモンスターを倒したらレベルが上がり、ステータスが成長するように。
モンスターもまた、人を倒せばレベルが上がり、成長していく。
それは称号も同じで、ある偉業や一定以上の基準を超えたものに与えられるとされている。
【大量探索者殺し】
そしてこの称号は、10年前のインスタントダンジョンで猛威を振るったデーモンロードが持っていたことで有名だ。
当時のデーモンロードを倒した魔石からは【大量探索者殺し】の文字と、とても高いレベルが表示されていたそうだ。
まさに今、そんな災厄の偉業を成し遂げたモンスターが、俺たちの前に立ち塞がっていた。
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数日前からリアルの方で少しバタバタしているため、明日は初めての予約投稿を試してみます。
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