16話 ジェイルとカフェテリア
午後の授業とホームルームがようやく終わった。
あーお腹が空いた。
私、もうペラッペラの薄さになっているに違いないわ……。
授業中も、何度もお腹が鳴っていた。
見かねたクラスメイトが休み時間にクッキーをわけてくれたけれど、それだけではこの空腹を満たすことはとてもできなかった。
よし、今度こそカフェテリアに行くぞ!
食べ損ねたお昼ごはんに、おやつまで付けちゃうんだから!!
この学園のカフェテリアは、部活動に勤しむ一部の学生や、研究に精をだす教師の為に、遅くまで営業していると学園のパンフレットに書いてあった。
放課後でも食事を提供しているらしいし、男爵家からも好きなだけ食べていいといわれている。
太っ腹である。
――今のアリスは空きっ腹だが。
チェルシーはどこかへ行ったみたいだけれど、どうせ寮では同室なんだから私も勝手に行っちゃおうっと。
スキップをするように教室を出ようとしたところで名前を呼ばれた。
「アリス!」
騎士団長の息子、ジェイルである。
放課後になって、本当に様子を見に来てくれたらしい。
「ジェイル様……」
「元気そうだな。良かったよ」
「わざわざ確認しに来てくださってありがとうございます。この通りどこも痛くはありませんので、これ以上心配はいりません。それでは私はカフェテリアに行くところなので、失礼します」
流れるように丁寧な言い方で、「もう大丈夫だから帰っていいよ」と伝えたつもりだったのに。
「なんだ、もしかして独りでか? じゃあお詫びにご馳走させてくれ」
ジェイルがまさかの提案をしてきた。
全然伝わってない……。
なんで攻略対象者と『カフェテリアで放課後デート』なんてしないといけないのよ。
「いえいえそんな。ぶつかったのは私も悪かったのでおあいこです。それに、今日はお昼を食べ損ねてしまって、これからガンガン食べるつもりなので」
ガンガンを特に強調して、奢りを辞退する予定だったのに、あろうことかジェイルが食い付いてしまった。
「それはいいな、ぜひガンガン食ってくれ。じゃあ行くか!!」
なにぃ!?
この世界の人って、私の想像と反応が違い過ぎるんだけど。
それに、みんな人の話を聞かなさ過ぎませんか?
なんでもう一緒に行くことに決定してるのよ!
結局、断り切れないままジェイルと一緒にカフェテリアを訪れている。
こんなはずじゃなかったのに……。
カフェテリアは、よくある日本の学食のように、好きなメニューをトレイに乗せて最後にお会計を済ませるシステムのようだ。
アリスは限界までお腹が空いていたのと、思い通りにいかないイライラからのやけ食いで、トレイ一杯に料理を並べてしまった。
さすがに取り過ぎたかな。
でも全部美味しそうなんだもん。
ステーキ丼の大盛りにサラダ、スープ、デザートのケーキとアイスティー。
なんで丼もののメニューやお箸があるんだとかは、考えたら負けだと思う。
日本で作られたゲームの世界で、日本人の転生者ばかりなのだから、きっとそういうことなのだろう。
「アリス、こっちだ」
ジェイルが呼んでいる。
席を取っておいてくれたらしい――が。
なんでテラス席なのよぉ!
野次馬がすでに集まりつつあるじゃん!!
解放感のあるテラス席は、まわりからもよく見えるに決まっていた。
「お待たせしました。あの、自分で払おうと思っていたんですけれど、もう払ってあると言われて……」
そうなのだ。
お会計をしようとしたら、「もういただいております」と言われてしまったのだ。
ジェイルがスマートにお会計を済ませてくれていたらしい。
「ああ、気にするな」
「でも私、そんなつもりじゃなかったのでたくさん選んでしまって。きっと高かったんじゃないかと」
本当に奢られるとわかっていたなら、ステーキ丼の大盛りなんて頼んではいないし、デザートのケーキだって泣く泣く諦めていたと思う。
そんなに図々しい性格はしていないつもりだ。
「値段なんていいじゃないか。何を選んだ……」
アリスの持っているトレイを見て、ジェイルの言葉が止まった。
かなり驚いたのか、目が真ん丸になった後、盛大に吹き出した。
「ぶはっ! マジか!! いいな、その豪快さ。見習い騎士の食事より多いんじゃないか? はははっ」
ジェイルはツボに入ったのか、楽しそうに笑い続け、野次馬の観客はアリスのステーキ丼大盛りというチョイスに引いている。
何よ、令嬢はステーキ丼を食べちゃいけない決まりでもあるわけ?
どうせ大盛りなんて下品だとか思っているんでしょ?
お腹が空いているんだからいいじゃないのよ。
「いただきます」
アリスはさっさと食べ始めることにした。
ステーキソースのいい匂いが食欲をそそり、もう限界だったのである。
うっそー、さすがお金持ちの貴族が通う学園のカフェテリア!
お肉がめっちゃ柔らかい。
これはいいお肉に違いないわ。
なんて感動しながらテンポ良く食べ進めていたが、ふと目の前にジェイルがいたことを思い出した。
あまりにも食べることに熱中しすぎて、つい存在を忘れてしまったのだ。
このままでは奢ってもらったのに申し訳がない。
「あの、つい食べるのに集中しちゃってすみません。あまりにも美味しすぎて……」
「ん? 何を謝っているんだ? いい食べっぷりに惚れ惚れしてたところだ。こんなに気持ち良く食べる令嬢がいるなんてな」
「まあ私は数日前まで平民だったので。この学園にも今日編入してきたんです」
「そうか。通りで見ない顔だと思ったぜ」
たくさん奢らせてしまったという後ろめたさから、何か会話をしなければ悪いという気持ちが芽生えていた。
悲しいかな、根っからの貧乏性で小市民なのだ。
「えーと、ジェイル様のお父様は騎士団長をされていると聞きました。ジェイル様も体格を見れば鍛えていらっしゃるのは一目瞭然ですし、騎士を目指しているんですか?」
深入りをしないつもりだったのに、気付けばプライベートな話を始めている馬鹿なアリスだった。




