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*まとめUP2 ~最終話まで~

*最終話のその先が気になる人はあとがきに補足のお話あります。

『最後じゃと?けちけちせずにもっとよこせ。ワシを誰だと思っているぅ。ひぃっく。三角帽子がおちゃめな土の精霊じゃぞぉ。よこさぬというのなら、どういう目に合うのか』

 ……。

「どういう目に合わせるんですか?私がお供えしなければ、二度と味わえませんけど、どういう目に合わせるつもりですか?私は、今日はこれでおしまいと言いましたよね?明日以降も、飲みすぎない程度にお供え続けようと思っていましたけど、そうですか、残念ですね」

 脅されたって怖くないよ。散々幽霊にひどい目にあわされてきたからね。10日くらい寝込んだこともあった。あの時は……そうだ。なんかぶつぶつと念仏を唱え続けてなんとか助かったんだっけ。……死ぬかと思ったよ。それからは、何かあったら除霊できる人を呼んでほしいと……隆にお願いしたんだっけ。

 ……うん。親は不気味がるだけで、霊のことも半信半疑だった。寝込んでいるときも、病気だろうと。病院には連れて行ってくれた。……ただし、ぶつぶつと念仏を唱え続ける私を見たきららの「叔母様、精神病院に連れて行った方がいいんじゃないですか?」という言葉で。もう少し続いたら入院させられるところだった。

『う、ぐぐ、ぐぐ、ワ、ワシは三角帽子がぷりちぃな土の精霊。土の妖精たちの王じゃ。……人に無理強いをさせるような悪い精霊じゃないぞ、いい精霊じゃ。な、ユキ、信じておくれ、ワシ、ひどい目に合わせたりしないからの?』

 ノームおじいちゃんがウルウルと目を潤ませている。

 ……あれ?おかしいな。なんだか、私がとても意地悪なことをしているようになってません?

 まぁ、なんだか、うまくできていることは確かなので。

 ローポーションの入っていた空瓶を取り出し、出来上がった魔力回復薬を詰めていく。

 これで劣化せずに保てるんだったよね。んー、これ、なかなか手間がかかる作業だ。

 2週間の間に、とりあえず売りに行く分……あと、今日みんなで飲む分と。あとはみんなで作業しよう。あ、あとノームおじいちゃんの分。

 1日1瓶でいいよね。……あ、そうだ。

「ノームおじ……ノームさん、なんか少し大きめで綺麗な石とか一つ用意してもらえますか?」

『ん?なんじゃ?人間が宝石と読んでいる石でも欲しいのか?よし、飛び切りのを用意してやるぞ。ののーん』

「あ、いや、宝石じゃなくていいです。ってか、宝石興味ないんで」

 私の言葉とほぼ同時に、どーんと、人の頭くらいの大きさの透明で透き通った石が出てきた。

 ……うん、これは水晶、水晶ということにしておこう。ダイヤモンドなわけないよね……。あはは。

 全部まとめて収納袋に入れて、戻る。

「ネウス君、えーっと、一緒に来てほしいんだ」

 作業中のネウス君に声をかける。

「ユキとならどこでも行くよ」

 ニコニコと返事が返ってきた。

「ユキお姉さんどこへ行くの?」

 ミーニャちゃんがちょっと寂しそうな顔をするので、さっき入れ替えた魔力回復薬の瓶を取り出す。

「ほら、見てミーニャちゃん。みんなで一生懸命作った魔力回復薬ができたのよ!」

「おお、マジか!すげー!」

「モモ、飲むぅ~」

 ドンタ君とモモちゃんが私の手に持っていた瓶に手を伸ばしてきた。

「うん。みんなで飲みましょうね!」

 アルコール度はほとんどないはずだからモモちゃんが飲んでも大丈夫だと思うけれど、もし、アルコールの匂いを嗅いでも倒れちゃうようなタイプならいくらアルコール度が低いといっても危険だ。

 今はエリクサーが手元にあるから、何かあってもすぐにエリクサーを飲ませれば大丈夫なはず。

 作業の手……と足を止めて、出来立ての魔力回復薬を口にする。

「お……いしい……」

 ミーニャちゃんが幸せそうな顔をする。

「うめぇ、俺、生きてきた中でこんなうめーもん飲んだの始めただ!」

「モモも、おいちー」

 ネウス君が私の顔を見た。

「ユキは、すごい……」

 首を横に振る。

「違うよ、ネウス君。みんなで作ったんだよ?私じゃないよ?今もほら、皆で作ってるでしょう?ネウス君が木にのぼってマナナの実を収穫してくれなければできなかった。ミーニャちゃんたちが実をつぶさなければできなかった。ドンタ君がつぶした実を樽に移してくれなければできなかった。それから、モモちゃんとおばなさんがカビないように毎日丁寧に攪拌してくれなければできなかった……みんなで作ったのよ?」

 ドンタ君が嬉しそうな顔をする。

「……魔力がないのに、こんなうめーもんが作れるんだな」

 ドンタ君の言葉に首を横に振る。

「違うよ、魔力がないのに作れるんじゃなくて、魔力がないから作れるんだよ。魔力回復薬は、作っているときに少しでも魔力が流れてしまうとうまく作れないらしいし、実際、前に飲んだ魔力回復薬よりおいしくできてるよね?」

 おばばさんが涙を落とした。

「魔力がないから何もできない……人として半端で、生きている価値がなくて、街の貴重な資源を減らすだけの存在など街におけないと追い出されたワシらが……」

 貴重な資源?ずいぶん豊かに見えたけれど、そうでもないのかな?

「そんなワシら魔力無しができることがある、いいや、ワシら魔力無しじゃなければなしえない、良質な魔力回復薬づくり……。ふ、ふふ、皮肉なもんじゃ……」

 おばばさんの声が震えだす。

「魔力のないワシらが、魔力のある者の役に立つものを作り出す……じゃが、もし、ワシがこのことを知っていれば……知っていれば、街を追い出されるようなことも……ワシは……魔力が無いだけじゃない、本当の無能じゃ……。ワシが何も知らなかったせいで……」

 周りにいた天に昇って行った小さな霊たちを思い出す。

 ああ、いくつもの命がおばばさんの元を去っていった。

 魔力回復薬を作ることを知っていれば、確かに救えた命かもしれない。

 でも、違う。知らなかったからって、責められることじゃない。

 小さな霊たちは、恨んだり妬んだり苦しんだりして空に行けなかったわけじゃないよ。

 みんな、おばばさんのそばを離れたくなかったの。もっと一緒にいたいって。

 大好きだって。離れたくなくて、いたの。

 それって、おばばさんがどれほど子供たちを愛して慈しんで、大切に育ててあげたか……。

 おばばさんは、自分にできることを精一杯していた。この環境で、できることを……。

 ネウス君もミーニャちゃんもドンタ君もモモちゃんも、みんないい子で育ってるし。

 それなのに、私……。

 もしかしなくて、懸命に生きてきたおばばさんに……「魔力が無くてもできることはある」と教えているつもりだったけれど……。

 それは「できることがあるのになぜやらなかったんだ」という責めているような言葉にも感じていたのかもしれない。

 知らないことが罪?知ろうとしないことが罪?現代社会ではすぐに「ググれ、調べろ」みたいなことを言う人がいる。

 自己責任、知らない方が悪い、騙される方が悪い、情報に踊らされる方が悪い……。

 違う、違う、違う、違う!

 絶対に、おばばさんは悪くない。

 誰もが同じ環境で同じように情報を得られるはずがない。生きていく、ただそれだけがとても過酷なこの場所で……。それでもおばばさんは多くの子供たちの面倒を見ながら、子供たちが笑うことも失わずに……育ててきた。

 それがどれだけすごいことなのか。

「おばばさんは、無能じゃないです」

 この思いをどう伝えればいいのか。

「じゃが、ワシは……あの子たちを……もし、ワシがユキのように……」

 ああ、やだ。私の存在が、おばばさんを否定する。違うよ、ごめんなさい。私にはとてもまねできないすごいことを、何十年も続けてきたおばばさんこそすごいのに……。

 ああ、そうだ。そうだよ。

「あの、私も、無能ですっ。ただ、私には、ほ、ほら!【指輪出てこい】」

 収納鞄から急いで荒野で拾った赤い石のついた指輪を取り出し、土の精霊からもらった……というか無理やりはめられた契約の指輪の隣の隣、左手の人差し指にはめておばばさんに見せる。

「ほら、私は無能だけれど、精霊様が付いてるから、精霊様に助けてもらっているの。魔力回復薬の話も、精霊様がいなければ分からなかったことで……」

 まぁ、ディラに教えてもらったんだけど。ディラは精霊ということにしてあるから、嘘をついているわけではないよね。うん。

 しかし、指にはめた赤い石の指輪。こうやって比べてみると、土の精霊の契約の指輪に本当にそっくり。違うのは石の色だけだ。

 おばばさんが、私の指輪を見てきょとんとしている。うーん、そうか。

「精霊のノーム様、ちょっと地面を揺らしてください」

 指輪にそれらしく話しかける。

『お安い御用じゃ!それゆーらゆら』

 すぐにノームおじいちゃんがフラダンスみたいな変な動きをすると、それに合わせて地面がゆれ始めた。

「すげー、すげー!」

 ドンタ君がゆらゆらしてる地面の上で飛び跳ねる。

「精霊……様のお力か……」

 おばばさんが地面の揺れが収まっると、信じられないという顔を見せた。はい。そうです。偽物精霊ディラは何もできない……いや、金縛りくらいはできるけれど、本物精霊ノームおじいちゃんはすごいみたいです。

 とはいえ、魔法と精霊の力との差もよく分からないので、本当にすごいのか人間にもできちゃうのか分からないけれども。

「いまのは、地の精霊のノーム様のお力です。えーっと、この茶色いのが契約の指輪で……」

 赤いのはなんか適当にはめただけで。契約の指輪じゃないんだけれど、いくつも契約してるっぽく見せたらすごいなぁと思って、おばばさんが自分が無能だったからと、もう責めないでいてくれるかなと……思って。

「そうか……精霊様に……この魔力回復薬のことも教えていただけたんじゃな……感謝をせねば……」

『感謝の気持ちなら、それをワシにお供えするんじゃ!』

 ……おじいちゃんが、教えたわけじゃないでしょう?ディラが魔力回復薬のことは教えてくれたんだから……。

 ああ、でも。

「そうそう、これ。これが土の精霊様の化身ね」

 さっき出してもらったでかい透き通った水晶だと思い込みたいダイヤっぽい石を取り出す。

 ディラは剣についてることにしてるから、皆は疑うこともなかった。

「綺麗ですね」

 ミーニャちゃんがうっとりして見ている。

 うん、ダイヤだと思うと怖いけれど、それは、爪の先の大きさですらすごい金額で、そら豆サイズになったらもう、なんていくか人生何回生きられるのかって金額になるのを知ってるとね、人の頭サイズのダイヤ……いったい、いくら……って考えちゃうからで。

 そういうのなしで見れば、そうね。キラキラと光を反射してとてもきれい。

「これが、土の精霊がいるのか?」

『違うぞ、ワシは地上のどこへでも瞬時に移動することができるんじゃ!そんなちっぽけな石の中なんかにおるわけなかろう!土の精霊をなんじゃと思っとる!』

 おじいちゃんがぷんすかしてる。なんか、ドンタ君の頭の上に現れてポカポカ小さな手で殴ってる。

 こら!子供をたたかないのおじいちゃんっ!

「じゃぁ、お供えはこの石の前にすればいいのか?」

『お供えじゃと?なんといい子なんじゃ。よし、ワシ、加護をあたえちゃうぞ。これで、何かあれば土の妖精たちが助けてくれるぞ』

 なでなでと瞬時に態度を変えてドンタ君の頭をなでまわすノームさん。おじいちゃん……本当、なんていうか、こう、自由だよね……。

「うん、そうね。1日に1本……。魔力回復薬をお供えしてあげるのよ。みんなで1本だからね?土の精霊様は、これくらい小さな体をしているから、あまりたくさんは飲めないの」

『そんなことはないぞ!いくらだって飲めるんじゃ!ワシに、いっぱいお供えしてくれてええんじゃよっ!』

 と、ドンタ君の耳の穴に向かって訴えるおじいちゃん。聞こえてないけどさ。ドンタ君には。

「わかった。じゃぁ、皆でお供えしよう!」

 ドンタ君の言葉に、魔力回復薬をモモちゃんとミーニャちゃんとドンタ君3人で1本、石の前において手を合わせた。

「お供えいたします。お召し上がりください」

 あ!もう今日はすでに飲んでるんだけど、仕方がない……。

『うひょーい!やった、やった』

 石の前にすっ飛んでいき、供えられた魔力回復薬の瓶に抱き着くおじいちゃん。

「おさがりをいただきます」

 と、ひょいっと瓶を持ち上げるドンタ君。

 あ。

『ワシのじゃ、ワシの!何をする!』

 そうだった。土の精霊には、中身を出してお供えすること、現物がなくなるからおさがりはいただけないことなどを説明。……してる間にも、おじいちゃんはお代わりを要求。でもって、えーっと、自然に減っているように見える魔力回復薬が面白くてモモちゃんがガン見。なくなると面白がってまたついでいる。

『ええ子じゃ。お主にも加護をあたえてやるぞ』

 なでなでとモモちゃんの頭をなでるおじいちゃん。

 土の精霊の加護……やっす!

 どんな効果があるのか知らないけれど、でもあれだ。どうせほいほい与えるんなら。

「ノームさん、その魔力回復薬を作ってるネウス君やミーニャちゃんやおばばさんを加護しなくていいんですか?何かあれば作り手が失われますよ?」

『おお!そうじゃ!その通りじゃ。加護じゃ、加護。何かあってからじゃ遅いからの!土の精霊の加護があれば、100歳まで無病息災うむうむ。土の妖精たちが守ってくれる』

 へ?

 いや、意外とすごかった。加護。本当にそんな効果があるなら、この地で生きる人間にとってはすごい力だよね?

「じゃぁ、今日の分はこれで、これが明日の分で、念のため5日分置いていくね」

 と、魔力回復薬を5本ミーニャちゃんに手渡す。

「5日分?ユキお姉さん、どういうことですか?」

「ああ、うん。街に行って売れるか試してみるね。売れたら、それで必要なものを買ってくるから。ネウス君一緒に行ってくれる?」

「もちろん、俺はユキとどこまでも一緒に行く」

『僕も、僕も地獄の底までついてく!』

 ディラ、私できれば天国に行きたい。地獄に行くなら一人で行ってくれる?逝きそうにもないけど……。

「じゃぁ、準備をしましょう」

 片道2日往復4日。念のため1日余分に5日分。2人が飲むものと食べる物。多少は荒野で得られるかもしれないけれど……。

「ローポーションがあれば水分も栄養も取れるから、1日3本の15本と」

 って、瓶だもんなぁ。それなりの重量になるなぁ。4キロくらいか。うーん。どれくらいの重量持っていけるかな。10キロなら、なんとか行けるか。

 とすると、食糧……は、ろくなものがそもそもないので、謎の葉っぱを干したやつとか。そうそう、すっぱいけれど、ビタミン取れそうだからレモの実をスライスしてドライフルーツにしてある。ヤムヤムの実のドライフルーツもある。2週間の間にマナナの実の収穫と並行して他の実を保存食として加工していったのだ。実は渋柿っぽいものも発見したんだ。食べられないとディラが言うけれど、もしかして干し柿にすれば甘くなるんじゃとイチかバチか実験中。風通しが良くて温度が上がりすぎない場所につるして干してある。それに、確か渋柿から作った柿渋ってタンニンがすごくいろいろな効果があるんだよね。防虫防腐に強度アップなど木と紙で作られる日本家屋や和傘なんかに活用されまくってきた。最近では、ノロウイルスにも効果があるって、殺菌効果も期待できる。口臭予防歯磨きにも入ってたり……。抗菌消臭防虫。なんか役立ちそうだよね。作り方はだいたい覚えてるけれど、実が青いうちに収穫しなくちゃいけないんで、今回は作れなかったけれど。

 と、準備を進めていく。

「んー、あんまり無理してたくさん持って行ってバテてもダメだよね……」

 5日分のローポーションと食料。それから布1枚。あとは10キロ程度の重さ……になると計算すると、魔力回復薬が10本。

「10本か。1本いくらくらいになるんだろう。帰りは売った分は軽くなる……けど、飲んだローポーションの瓶は持ち帰りだよね。帰りもあんまりいろいろ買って帰れないか……。」

『収納鞄に入れればどれだけでも持ち歩けるよ?』

 ディラがドヤ顔をしているけれど。

「うん、収納鞄がなくても、これから先……そう、私がいなくなった後、10年先も20年先もずっと続けられる方法を作っておきたいの」

 ディラが泣き出した。

『ユキがいなくなるなんていやだー』

 はいはい。ちょっと泣いてて。準備の邪魔だから、話しかけられるよりその方がいい。

「ネウス君はとどれくらい持てそう?」

「うん、この倍……いや倍の倍はいけると思う」

 え?

 40キロも?

「無理しちゃだめだよ。ほんの一瞬持ち運ぶんじゃなくて、ずっと持って長い距離を歩かないといけないんだから、途中で疲れちゃうような量を持って行っちゃだめなんだから」

「んー、大丈夫だと思うよ?なんだかローポーション飲んでるからか、ずいぶん力が付いたと思うんだ。ほら」

 ネウス君が私をひょいと抱き上げる。

「全然平気。ユキも抱っこしてても街まで行けるよ」

 ニコニコと笑うネウス君。

 う、うっわーっ!

 人生初の、人生初の、お姫様抱っこを、こんなことで経験してしまった。

『ローポーションじゃないよ、僕のおかげだからっていうか、ネウス、ユキを放せっ、ユキを抱っこしていいのは、僕だけなんだぞ!』

 ……聞こえない聞こえない。

「疲れたら言って、いつでもユキを抱っこして運ぶから」

 ネウス君に地面におろされる。そんな情けないことにならないようにしないと!

「わ、私、お姉ちゃんなんだから、弟に面倒かけるようなことにならないようにするから!」

「俺は、いくらだってユキのために何かしてやりたいし、それに、抱っこするのが面倒なわけないよ?」

 二コリって。うん、確かにモモちゃんを抱っこすることを面倒なんて思うことはないから、抱っこ……は面倒なことではな……いや、違う、違う。

 なんだか、ディラがネウス君をにらんでる。

 ちょ、仲良くしようよ。っていうか、まぁ、ネウス君はディラのこと見えないけど、あんまり人を恨んだりすると、悪霊になっちゃうよ?

「ネウス君、私はいいから、荷物は私の倍、魔力回復薬が30本持っていけるみたいだね、あと、剣も運んでもらっていい?」

 置いていくか、持って行くか、それが問題なのだけど。

「もちろん。精霊様を運べるなんて光栄だよ」

『ネウス、いいやつ。僕大好き』

 うん、そうね。単純でよかった。

 ノームおじいちゃんは留守番。

「じゃ、行ってくるね!」

 手を振って出発。ん?振った手に、指輪が二つはまっているのが目に入る。

「そうだ、おばばさんに見せるためにはめてみたんだ……」

 赤い石の指輪。邪魔だからはずそう。

「……」

 ……は、外れない……。

 なんか、ほら、指がむくんで指が外れないとか、そういうレベルの外れないとかでない……。

「……」

 土の精霊の契約の指輪系の、外れない感じに似てる……。

『あれ?ユキ、その赤い石の指輪、もしかして、サラマンダー様の?シーマがはめてたのにそっくり』

 やだ、なんか不吉な話をディラがしてる。

 聞かなかったことにしよう。そもそもあってないし、みてないし、けいやくしてないし、関係ないよね。

 と、とりあえず、何か拾っても身に着けないということだけ覚えておこう。

 この世界、なんか不思議なアイテムがいろいろあるみたいだから。

「あ、ネウス君、ちょっとあの辺寄ってもいい?」

 現実から逃避するために、幽霊さんがふよふよしているところへ移動して、手を合わせてからその足元を掘り起こす。

 ネウス君も一緒になって地面を掘ると、ベルトや腕輪が出てきた。

『ああ、きっとダンジョン産のドロップ品だろうね。300年前の最終決戦では多くの人間が戦ったから。身に着けていた物がこの場にたくさん残っているんだろうなぁ。世界各国、すべての国が魔王討伐のために秘宝と言われるものまで持ち出した総力戦だったし、すごい逸品が埋まっていることもあるかも』

「ダンジョン産のドロップ品って、スライムを倒して出てくるポーションみたいな?」

『そうそう。何らかの効果がある品で、鑑定してみないと効果は分からないけれど、劣化もしないし人の手で壊すことはできない。モンスターが相手なら破壊されちゃうけれどね』

 そうなんだ。

 ネウス君が首をかしげる。ディラの声が聞こえないからね。

「うんと、貰ってもいいみたいよ?ベルト、ネウス君に似合いそう。ああ、それに、これ、剣を納める場所が付いてるよ?これなら、手に持たなくても剣を持ち運べるね」

 腕輪は……デザインが微妙なので収納鞄にぽいっと。

 てな感じで歩くこと2日。

 なんか、ネウス君と一緒に街から歩いた時とは大違いで。色々な話をしながら、拾い物しながら気が付けばついてた感じだ。

「あっちだよ」

 ネウス君が街をぐぐりと囲む結界?のある場所を目指して歩き出した。

 そういえば、街からぽーんと放り投げられたので、近くの様子は全然分からなかったんだ。結界は、高さが3mほどの塀の上に伸びてる。

 3mほどの塀がぐるりとまず街を囲っているようだ。

 系の一部ににドアのようなものが付いている。

 そういえば、薬をもらいに行くためにネウス君は街を目指していたし、おばばさんは火が消えたら何かを渡して魔法で火種をもらうようなことも言っていたし、街の中の人間とのやり取りを何度かしたことがあるのかな?

 ドアをノックすると、ドアについている小窓が開いた。

 すぐに小窓に、小太りのおじさんの顔が出てくる。

「けっ、外民が何の用だ?拾い屋か?買い取りなら反対側だ」

 外民?って、街の外の人間のこと?

 魔力ゼロ意外にも、人が街の外にいるの?

「拾い屋じゃないけれど、買ってほしいものがあるんだ」

 ネウス君の言葉に、小窓の向こうのおじさんがめんどくさそうな顔をする。

「はぁ?拾い屋じゃない?っていうか、お前ずいぶんいい顔してるが、何の罪で外民になったんだ?」

 小窓が閉まり、ドアが開いた。

「天上民の人妻にでも手を出したか?いや、手を出された方かな、どちらにしても、怒りを買うようなことしたお前が悪いがな、ゲヒゲヒゲヒ」

 とてつもなく馬鹿にしたような笑いを漏らす。

「買ってほしかったら、その綺麗な面を、地面にこすりつけな」

 おじさんが、木の棒……いや、槍の木の部分でネウス君の頭をぐいっと押した。

 何、このおっさん。

 服装は、制服みたいな服……そうだ、城らしき場所で見た護衛っぽい人と同じような服を着ている。

 見張り?

「あのっ、買ってほしいものがあるのは、私の方です」

「なんだ、変なもん顔に付けて。馬鹿にしてるのか?」

 は?

 変な物って眼鏡だよね。なんで眼鏡をかけてることがバカにしてるにつながるの?っていうかネウス君の顔のこととか、何?顔にコンプレックスでもあるわけ?

「すいません、馬鹿にしてるわけではなくて、それで、買ってほしいものはこれです。効果の高い魔力回復薬です」

 袋から瓶を1つ取り出して見せる。

 太ったおじさんはまっすぐと私の手の魔力回復薬に視線を向ける。

「はっ。なるほどな。分かったぞ。買い取りにいかずに、裏口で売りつければ偽物だとばれずに済むとおもったのか?」

 はい?

「残念だったなぁ、魔力回復薬がホイホイと手に入るわけがねぇと馬鹿でも知ってるよ。そんなうまい話しに騙されるわけねーだろ」

 槍の先で、瓶をガツンとはじく。

 ごろりと地面に瓶が落ちた。

 拾って、ドアに近づき、街の内側に投げ入れる。人は入れないけれど、物は行き来できるようだ。

「偽物じゃないです。試してみてください」

「毒だろう?騙されねぇよ。と、いうか、残念だが、俺は解毒魔法も使えるからな」

「……もうちょっと頭を働かせてくれません?あなたに毒を飲ませたとして、私に何の得があるんですか?売りたいものも売れずに、お金も何も手に入らない。むしろ、毒ですといって誰か飲ませたい人がいませんかと売った方がお金になりません?」

 しまった。あんまりやり取りがうっとおしくなってちょっと本音が駄々洩れになった。頭を働かせてくれませんなんて馬鹿ですかと言ってるようなものだ。さすがに失言だった。

 かっと血が上ったように顔を赤らめるおっさん。

「その通りだな。試してみるとするか。魔力回復薬だろう?ということは」

 おっさんが右手の平をこちらに向けた。

「魔力を減らす必要があるなぁ【風の針】」

 ひゅんっと風を切る音がしたと、思った時には、眼鏡が何かにはじかれて飛んで行った。

「ユキ!」

 生暖かいものが頬を伝う。

 ネウス君が心配そうな顔で私を見てる。

『ああああっ!なんてことを、あいつ許さない!ユキの、ユキのかわいい顔に傷をつけるなんて!ぜったい、ぜったい、地獄の果てまで追いかけて始末してやるっ!』

 いや、だから、地獄に行く気満々なのはなんだろうね。ディラ。できれば天国に行って頂戴。

 そうか。頬を切ったのか。

「なんだ、可愛い顔してんじゃねーか。初めからその顔見せてれば……そうだな、脱げよ。脱いで買ってくださいってお願いすれば、何か恵んでやるよ」

 スパンと、ディラが飛び出し、華麗におっさんの頭に回し蹴りをかました。

 剣から3mも離れていたのに。すごい勢いで飛び出したからなのか。蹴りは、見事におっさんの頭を空振りした。

『くそうっ、許さない、許さないっ』

 ディラが怒りに我を忘れている。

 ……ふふ。ありがとう。幽霊になってまで、人ために本気で怒ってくれるなんて。ディラはいい人……いや、幽霊だね。

 ネウス君も、すぐに飛び出していきそうな表情をしているので、右手で制する。

「早く、飲んで本物だと確認して。本物の魔力回復薬なら買ってくれるんじゃないの?それとも、あなたはビビりなの?毒だったらどうしようと怖くて飲めないの?」

 煽るような言葉を口にする。だって、このままじゃいつまでもおっさんは飲まないような気がしたから。

「はっ、誰が怖いものか!」

 瓶のふたを開け、一口ごくりと魔力回復薬を飲んだとたんに、おっさんが目を見開く。

「ほ、ほ、ほ、本物の魔力回復薬っ!」

 慌てて、ふたをもとに戻す。

「本物だと分かってら、買ってください。それなりに価値があるんでしょう?」

 ふっとおっさんがにやりと笑った。

「それなりに価値が……か。何も知らない愚かな外民がっ!その辺で見つけたんだろう?運がよかったな。これ一つあれば、一生遊んで暮らせる価値がある」

 え?

 1本で一生遊んで暮らせる?

 えーっと、大量にあるんだけど……。なんでそこまでの価値が?

「いいや、運がいいのは、俺か。これは、俺がもらってやる。消え失せろ外民」

 え?

「ちょっと、買ってくれるんじゃないなら、返してください!別に一生遊んで暮らせるお金なんていらないけれど、取り上げられるのは」

「うるせー、さっさと立ち去れ!立ち去らないならどうなっても知らねーぞ【風の槍】」

 また、呪文だ。

 ひゅんっと風を切るような音。

 目の前に、私をかばうように両腕を広げて立つディラの姿が見える。

 そうして……。さらに、その前に立つネウス君。

「ぐぅっ」

 小さな唸り声をあげて、ネウス君が後ろに倒れてきた……私の手の中に。

「ネウス君っ」

 口から一筋の血が流れ落ちる。

「ユキ、逃げて……」

 私の眼鏡を飛ばしてほほを傷つけたのは「風の針」だと言っていた。今度は「風の槍」。魔法の風の槍でネウス君は……。

 顔を近づける。大丈夫だ、息はしてる。

「エリクサー」

 収納鞄から取り出し、指にエリクサーを垂らしてネウス君の口に触れるのと、ネウス君の舌が私の指をなめるのとはほぼ同時だった。

 意識を失っていたと思ったけれど、意識があった?

「許さない」

 ネウス君はすぐに立ち上がると、ディラの剣を鞘から抜き取り、地面を蹴った。

「僕のユキを傷つけた、再び傷つけようとしたお前は、絶対に許さないっ!」

 え?ネウス君が自分のことを僕って言った?今の言葉はまるでディラみたいだよ?

 ネウス君が剣を振り上げて振り下ろす。

「馬鹿が、剣など届くかよっ」

 おっさんが、2mほど後退する。剣が届かない位置。そうだ。外から入れない限り、剣が届かない位置の人間に攻撃を加えることはできない。

 魔法が使えない私やネウス君は手も足も出ない。

「馬鹿はそっちだ!僕を誰だと思っている!」

 え?

 今の言葉、誰?ネウス君だよね?ディラじゃないよね?誰?

 振り下ろした剣の軌道に沿って、壁が崩れ落ちた。おっさんの服もスパンと切れている。薄くなりかけていた髪の毛が飛び散り、体だけは何らかのガードをしたのか切れてはいない。が、後ろに吹き飛んでみっともなくしりもちをついた。

「もう一発行くぞ!はぁーーーっ」

 ネウス君が剣を構えて壁に向かって振り上げた。

「今のは何の音だ?」

「これはどうしたことだ」

「敵襲か?外民が攻めてきたのか?」

 壁の向こうに騒ぎを聞きつけて兵たちがやってきた。

「そ、そうだ、あいつらが突然襲ってきた」

 おっさんがしりもちをついたままこちらを指さした。

「違うわ!私が売りに来た魔力回復薬を、取り上げて、私たちを追い払おうとしたのよっ!」

「何だって?魔力回復薬?」

 兵の一人が、しりもちをついたおっさんが手に持っていた小瓶に気が付いた。

「それは……本物なのか?」

「まさか……」

 袋から魔力回復薬をもう一本取り出して、壁の中に投げ入れる。

「本物よっ!そいつが飲んで確かめたんだもの。本物だと知ったとたんに、私たちを攻撃し始めた。嘘だと思うなら、今入れたものを試してみればいいわ!」

 兵の一人が瓶を拾い上げてほんの1滴手に垂らしてなめた。

「ほ……」

「どうした?」

「本物だ!しかも、噂で聞いているもの以上だと思う。1滴しかなめていないが、魔力が全回復した……」

「陛下にご報告を」

 ざわざわと兵たちがざわめき、何か合図のようなものを打ち上げる。

 おっさん兵が手に持っていた小瓶と、投げ入れた小瓶は少しだけ立派な服装をした兵が手に持った。上官とかいう立場だろうか。

 すぐに、目の前に陛下とおつきの者たちが姿を現す。

 魔法かな。転移系の何かなのか……。

「陛下、あのものが、魔力回復薬を売りに来たと……」

「魔力回復薬だと?本物なのか?」

 またこのくだりか。

「はい、確かに。確認いたしました。お疑いならば鑑定魔法の使い手に鑑定させましょう」

 陛下のおつきのものが小さく頷いて近くにいた者に命じた。

 すぐに鑑定魔法とやらで魔力回復薬を鑑定したようで、その結果を陛下に耳打ちする。

「なっ。最上級魔力回復薬だと?まさか、実在したとは……それも、2本も……」

 すごく驚いた顔をしている。

 2本も?

「どこで見つけた」

 陛下が私の顔を見た。

「お前は、魔力ゼロの低級民……」

「今の言葉は取り消してください」

 低級民という言葉に反応する。

「生意気な。もうよい。さっさと魔力回復薬を置いて立ち去れ」

 陛下の言葉に、周りの者たちが魔法を放つ体制に入った。

 何なの。

 何なの。何なの。

 鞄から、魔力回復薬を取り出す。

「まだ、持っていたのか!よこせ!」

「なぜ、渡さないといけないのですか?低級民だから?魔力ゼロだから?」

 もう、怒りのメーター振り切れました。

 売るのはあきらめます。

 いいです。街の人たちと交流はあきらめます。

 無理です。

 魔力回復薬のふたを取って、ごくごくと飲む。

「ばかが、何をする、やめろ!それがどれだけ貴重なものか分かっているのか!」

 という言葉をに、ネウス君が落とした袋を拾い、さかさまに向ける。

 ばらばらと、魔力回復薬が袋から落ちる。30本くらいある。

「貴重ねぇ?へぇ?そうなんですか」

 瓶を一つ手に取って、再びふたを開ける。

「やめろ!それ一つあれば、街の封印を1年は維持することができる。それだけあれば、何年封印を維持することができるのか、分かっているのか!」

 陛下が叫ぶ。

 封印て、そのベールの話だよね?

 ……そう。維持するのに魔力が必要なんだ。魔石の魔力ではもう維持できなくて、人が魔力を注いでいたりするのかな?

 あれ?だとすると……。

 ちょっと待ってよ。

「もしかして、魔力が無いと、食糧が作れないんですか?」

「当たり前だろう!」

 やっぱり。

「食料を作るために魔力を使わないといけないし、封印を維持するために魔力を使わないといけないしで、魔力が不足し始めてるんですか?」

「そうだ!だが、その魔力回復薬があれば、魔力を回復して注ぎ込めば問題は解決する!」

 ……もしかして、私ときららが異世界から召喚された理由って……。

 聖女だとかそんなことではなく、本当に、純粋に、魔力があるということだけが目的だった?

「食料が不足し始め、魔力を供給できない魔力なしを街から追い出し始めたんですか?」

「当たり前だろう。役に立たないクズどもに食わせる余裕なんてないからな!」

 ……そうですか。

 でもね。

 瓶のふたを開けて、傾ける。

 トクトクと音をたてて、魔力回復薬が地面に吸い込まれていく。

「何をする!お前ら、あの蛮行を止めろ!」

 陛下の声に、周りの人間が私に向けて魔法を放ち始める。

 右手で左手の指輪に触れる。

「【開】守って」

『うおう!なんじゃ、ワシの大切なユキに何をするんじゃ!土人形ゴーレム、愚かな人間どもを』

「あっと、土の精霊の作り出したゴーレムが現れるから、気を付けてくださーい。降伏すれば、攻撃しないんで!」

 と、声をかける。ノームおじいちゃんにも心の中で、降伏した人は攻撃しないでねと頼んでおく。

 ちょうど、そのタイミングで、ゴーレムという土人形……でかいな。5mほどのごつごつした人の形をした岩が6体姿を現す。

「うわぁーーーっ」

「土の精霊だと?」

「助けてくれー」

 戦意喪失して逃げ出す兵に、陛下が口を開いた。

「逃げるな、そんなに街を追い出されたいか!背を向けた者は、外民だぞ!二度と街で暮らせなくなるぞ!」

 そういうことか。

 すとんと胸に落ちた。

 何故、そこまでして封印を維持するのか。

 外にモンスターが出るのを恐れているわけではないんだ。

 いいや、もしかすると、街の中の人……国民は外に出たら生きてはいけないと恐怖を植え付けられているのかもしれない。

 だけれど、上層部、陛下やその周りの人間、天上民とかいう立場の人は、外にはもうモンスターはいないということは知っているのだろう。

 それなのに、結界を解かない理由。

 権力を握り続けるためだ。

 中にいる人間は特別だと。外に出された者たちは自分たちより下の人間だと。

 外での暮らしはひどいものだと。モンスターに襲われて死ぬぞと。

 中で暮らしていたいなら言うことを聞け。そんなことをしたら外に出すぞ……みたいな、そういうために……。

 自分たちの地位を安定させるために、そのために便利な、外に出ることはできるけれど、外から中に入ることができない結界を維持し続けているんだ。

 ばかばかしい。

 なんで、犠牲にならなくちゃいけないのよっ!結界を維持しようなんてしなきゃ、魔力ゼロの人にも食べるものはいきわたったんでしょう?

 おばばさんが守りたくても守れなかった小さな命たち……。

 なんで、あんたたちの犠牲にならなくちゃならなかったのよっ!

「聖霊よ、逃げる人たちの退路を断って!」

『了解した。って、あれ?かわいいお嬢ちゃん、誰?シーマが変身したのか?ん~まぁいいや。後で話を聞かせてね~』

 え?

 今の、誰?

 真っ赤な髪をした、ちょっとチャラそうなお兄さんイケメン…が、真っ赤なマントを翻して街の中に飛んで行った。

 真っ赤なマント?

『なんじゃぁ、サラマンダーのやつ!どういうことじゃ、って、ユキ、その手の指輪』

 ああああっ、やっぱり、嫌な予感が、嫌な予感がしてたのよっ!

 仕方がない。

「逃げられると思っているの?降伏すれば攻撃はしないと言ったの。火の精霊サラマンダー様の炎で焼きつくされたい?」

 逃げていこうとした兵たちの後ろに、炎の壁が出現した。

「はったりだ、そんなもの、消せ!水魔法の得意な者たちで消し去れ!」

 陛下の声に、炎の壁に向かって水魔法を繰り出す兵たち。

『あはー。ちょっと精霊の力をなめてもらっちゃ困るというか、知らないのかねぇ、精霊というものを』

 街を覆いつくすような巨大な火の玉が空に出現した。

 煮えたぎるようなという表現をしたくなるような、なんというか、こう……ぱちぱち爆ぜた音を立てる焚火のようなかわいらしいものではない。

 何キロにもわたるような大きな、まるで太陽のような火の玉だ。

「火の精霊の力を見くびらない方がいいですよ」

『ぬぅ、サラマンダーめ!ワシの方がすごいってことを見せてやる』

 って、おじいちゃん、対抗意識燃やさなくてもいいから!

 土人形ゴーレムがむくむくと巨大化して、炎の玉に頭が届きそうに……

 ……ってね、陛下たちの戦意は喪失してる。そうだよねぇ。

「ありがとう、もういいわ」

 私の言葉で、火の玉もゴーレムも消え去った。

「精霊……まさか、精霊と契約を……その指輪は……」

 陛下のおつきの者がガタガタと震えている。

「あなた方を脅すつもりはないわ。ただ、もう、取引するつもりもなくなったけれど」

 魔力が足りなくて困っている理由が、権力維持のためなんて。

 みなが幸福に暮らすためじゃないなんて。

「と、と、取引?どういうことだ……街で暮らしたいというのならば、一時的に封印を解いて、中に入れてやっても」

 ばっかじゃないのか。

 それほどまでに中の暮らしに価値があると信じてるんだろうか。

 収納鞄から、魔力回復薬をさらに取り出す。もちろん私たちが作ったものだけ。

 持ってきただけで100本近くあるだろうか。

「そ、その大量の魔力回復薬は……」

 誰のつぶやきだろうか。

「私たち、魔力なしは、魔力がないから魔力回復薬を作ることができるんです」

 私の言葉に、おつきの者が叫ぶ。

「そんなバカな、聞いたことがない」

「聞いたことがない?昔の文献すべてを調べたことがある?まぁいいわ。とにかく、これ、私たち魔力なしが作った魔力回復薬です。まだたくさん作っている途中だし、毎年毎年同じようにたくさん作るつもりで、少しでも売れないかなと思って持ってきたんですけど」

 陛下が口を開いた。

「買う、買わせてくれ!いくらだ?」

 はぁーっとため息がでる。

「だから、取引はしません。初めから、売りに来たと言ったのに。お金も払わず奪おうとした挙句、私たちを攻撃したんですよ?そんな相手に売ると思います?確か、土の精霊の話では、他にも街があるみたいですし。街というか国かな?別のところと取引することがあって、その国が魔力が潤沢になり、他国へ攻め入るようなことがあっても、私たちのせいじゃないですからね?魔力なしと馬鹿にして街を追い出して、挙句に殺そうとして……」

 陛下のおつきのものが慌てて何か呪文を唱えた。

 陛下の前にきららが現れる。

「い、いいのか?この女がどうなっても?このまま魔力をずっと奪われ続けるのだぞ?助けたいと思わないのか?」

 きららが私を見た。

「ユキお姉さん、ずるいっ!」

 ずるい?

「なんで、そんなにいい男と一緒なの?ねぇ、そこの人、ユキお姉さんより、私の方がかわいいし、こっちへ来て」

 きららは、私に助けてなんて言わないとは思ったけれど。

 まさか、ネウス君に目をつけるとは……。うん、なんだかんだいって、そんなに不幸じゃないんじゃない?

「怖い!女の人、怖い!」

 ネウス君が私の背中に隠れた。

 へ?

 女の人怖い?

「ユキ、帰ろう。もう、用事済んだよね?」

 ネウス君が私を抱き上げて、街に背を向け猛ダッシュ。

 ちょ、ちょ、まって、どういうこと?なんで?

「待ちなさいよ!ユキ姉さんのくせに、お姫様抱っこされるとかありえないわ!」

 キーキーとうるさい声が遠ざかっていく。

『ん?追いかけてきたぞ?』

 ノームさんの言葉に街の方を見る。

 ああ、いいんですかね?封印の外に人たちが大量に飛び出してきてますけど。

 いったん封印を解除してもとに戻すとか言ったのかな。

「ノームさん、何とかならない?、関わりたくないの。あ、殺さないでね」

『お安い御用じゃ。魔力回復薬を守るためならなんじゃってするぞーい。ほほーい』

 あ、すごい。

 どどどーんと、20mはあろうかという壁が立ち上がり、街の周りをぐるりと囲ってしまった……。

『ワシの加護がある者は通過できるからの。問題ないぞ』

『爪が甘いね、年寄はこれだから。壁の上を通れる魔法使いくらいいるでしょ。お嬢ちゃん、見ていて。それ」

 えーっと、サラマンダーチャラお兄さんが、壁の上に1m間隔くらいで炎をともした。

『通過しようとすると炎に包まれるようにしておいたよ』

 壁の向こうから、声が聞こえてくる。

「これは俺のだ!」

「よこせ、私が先に手にしたんだ」

 ……何やってんだろうね。もしかして置いて来た魔力回復薬の奪い合い?

 まあいっか。もう、関係ない。完全に縁を切りました。

 何も期待しない。

 私たちは私たちで何とかする。

『おお、このあたりの大地の力を戻しておこうかの。あの街の魔法使いがこのあたりの大地の力を根こそぎ畑にと奪っていっておったが。壁をあやつらの魔法が通過することはない。このあたりの大地は甦るじゃろう』

 土の精霊さんの言葉に、ぽつぽつぽつと小さな光が突然無数に現れた。

「王様ぁ、この辺に住んでもいいの?」

「王様、ぼく、ここがいいや」

「王様、王様」

『妖精たちが戻ってきたの』

 つ、つ、土の妖精?

 小さな人間に背中に半透明の羽根が生えているのを想像してたのに……。

 大福くらいの大きさの、ハムスター……も、もふ、も、もふ……

「もふもふだぁ!」

 すごい、かわいい。黒くてまん丸のお目目がくりんくりんで。

「ちょっと、ネウス君降ろして」

 お姫様抱っこなんてされている場合ではない。もふらねば。

 もふらねば。

 もふらねば。

 ネウス君がきょとんとして首をかしげる。

 ん?

 あれ?

 ……まさか……。

「ディラ、降ろしてくれる?」

「あ、うん」

 やっぱりー!

「ディラ、あんた、ネウス君の体のっとったの?出ていきなさい!人としてやっていいことと悪いことが、いや、人じゃないって話か?幽霊としては正しいのか?あー、もう、」

「ごめん、怒らないで、大丈夫、ちょっと借りただけだから……あの、ネウスの意識がないときにしか借りてないから……」

 と、ネウス君の姿でディラがしょぼくれる。

 そして、ポーンと手に持っていた剣を投げると、しゅぽーんと、ディラがネウス君の体から出て行った。

「うわぁぁ!」

 意識のないネウス君は制御主であるディラがいなくなって、後ろに倒れていく。とっさに手を出して支えると、ネウス君が目を覚ました。

「あれ?俺……」

『なんだ、ディラの坊主、お前どうしてこんなところにいるんだ?』

 サラマンダーさんが、ディラの姿を見て声を上げた。

『え?ええ?誰、ですか?』

『ん?お前、私のことそういえば見れなかったな。そうか、シーマと一緒にいたけれど、見たことはなかったか、って、今は見えるのか?』

『赤いマント……まさか、サラマンダー様?』

 えーっと。

 二人は知り合いですかね?

 どうでもいいや。とにかく、もふる!

 近くにいた土の妖精ハムちゃんと目が合う。

 か、かわいい!

 そっと手を伸ばしても逃げないので、そのまま頭に触れ……。

「ああああっ、触れない、触れないよぉぉぉぉっ」

 なんてことでしょう。

 霊の姿は、幽霊も精霊も妖精も見られるのに、触れないときたもんだ。っていうか、妖精も霊体なの……?

 もふもふが。もふもふが。

『それより、ディラはなんでこんなところに中身だけでいるんだ?』

 サラマンダーさんが変なこと言い出した。

 そりゃ、300年前に……。

『最終決戦で決着がついた時点でお前たちの体は自動転送されるようにシーマが魔法をかけてあっただろう?私の炎の結界の中で、ずっと眠ったままになっているはずだが、目覚めないのはお前に心が入ってなかったからか』

 ん?

 んん?

『あ!そうだ!あの時、そうだ!びゅーんって飛ばされそうになって、剣を持って行かなくちゃと思って剣に手を伸ばしたら、体からなんかすぽーんと抜けたような?あれ?僕の体って、どっかにあるの?もう、朽ち果てたとかじゃなく?』

 ん?

 んん?

 たくさんの土の妖精ハムたちが、うんしょうんしょと土を足でちょいちょいと掘り起こす。すると、そこからなんか目が出て植物が成長していく。

 すごい、かわいいし、すごい。

 あれ?かわいくてすごいって、ディラが私に言ってなかった?

 ……そうか。ディラの目から見ると、私は女じゃなく、小動物系に見えてたってこと?

「すごいね、夢のような世界だ……」

 見る間に植物が成長して、荒れ果てた大地が緑になっていく。

 それを見てネウス君がため息をついた。

「そうだね。これだけ力のある土地ならさ、魔法なんてなくたって、麦も育つよ!ネウス君、魔法が使えなくたって、パンが食べれるようになるって、おばばに教えてあげよう!帰ったらさっそく畑を作って、ああ、でもその前に水源を何とかしなくちゃ!」

『あら、水源なら、私に任せて』

 ちょっと待って、誰の声?

 ねぇ、なんか、嫌な予感がして……。

 左手を見るのが、怖いんですけど……。

途中から改稿前になって申し訳ありませんでした。

改稿する時間と更新作業する時間が取れましたら、入れ替えますが、当面……ないので……。

最終話まで改稿前を上げておきます。

まぁ、読む分には問題なかったかと思います。

単に私が、もう少し流れを良くしたいっていう改稿なので……。


てなわけで、とりあえず最後までご覧いただきありがとうございました。

感想や評価などいただけると励みになりますです。



それでは。またどこかでお会いできれば嬉しいです(*'ω'


感想でいくつかいただいておりますが、ここで完結です。

従妹ざまぁと、これからも続くだろうドタバタと、魔力無しに明るい未来が待っていると分かったところでおしまいです。


もし、続きが気になる、もっと読みたいと思ってくださる方がいらっしゃいましたら嬉しいところです。

(*´▽`*)


あ、完結してない詐欺だという方のために、以下書いときます。

================================

 その日は突然訪れた。

「ユキ姉さんばかり、ずるい、イケメンにちやほやされるなんて!」

 脳内に響くキララの声。

 なにこれ……!

 目の前に突然黒い靄が浮かんだ。

 靄の中、目を凝らしてみれば、真っ赤な唇に、血走った真っ赤な目をしたどす黒い肌色のキララの姿が。

「き……キララ?」

 え?死んだの?キララ……幽霊?

 ううん、違う、この気配は、生霊?

「私、魔力無しのユキ姉さんと違って、魔力が高い聖女だから、だから、悪の権現であるユキ姉さんを浄化しに来たの」

 浄化?

 って、私が悪?いったい、何がどうなったらそうなるの?!

「2年かけて、やっと完成したわ……ふふふ、さぁ、ユキ姉さんこれで、おしまいよ。もう、イケメンに囲まれた生活は終わるの。元のモテない、ダサい、みじめな生活に戻ればいいわ」

 は?

 え?

 ぶわっといきなりキララの生霊の周りの黒い靄が私を包み込んだ。

「え?何、これ……!」

『ユキ!なんだ、これは!』

 ディラが黒い靄に気が付いたのか、必至にかき分けて私の元へと来ようとしている。

 ああ、そうか。これ、ディラも霊だから、干渉することができるのか。ディラが腕を払った場所の靄が飛んでいく。でも、それはすぐに元に戻ってしまう。

「さぁ、バイバイ。ユキ姉さん。転移魔法発動。元いた場所に帰って!」

 え?

 日本に?

 転移魔法?

 え?何?

 帰れちゃうの?

 ああ、でも待って、待って。

【封印解除】

 指にはまっている5つの指輪につぎつぎと触れる。

「お願い、あの子たちを守って。あの子たちを幸せにしてあげて。あの子たちがいれば魔力回復薬はずっとお供えさしてくれるはずだから、その代り、あの子たちを……魔力が無いからと酷い扱いをする人たちから……」

 次々に姿を現す精霊たちが、頷くのが見える。

 ああでも、何か口を開いているんだけど、声は聞こえなくて。

 ディラが、泣きながら手を伸ばしている。

「ディラ……」

 何を言っているのか、もう聞こえないんだ。ごめんね。

 触れることはできないディラの手に、手を伸ばした。

「ユキィーーッ」

 指先が触れるか触れないかのその時、ディラの姿が消えた。

 ああ、私、地球に帰って……。

 靄がはれる。

 景色は、見慣れたものだ。

 今にも倒れそうなあばら家。それでも2年前よりはずいぶんマシになった。

 ベールに覆われた町の周りで何とか生き延びていた魔力なしの大人たちが戻って来た。

 魔力無しの村は、今では町とそろそろ読んでもいいかな?という大きさに広がっている。

 ノームおじいちゃんの作った壁のこちら側は、金色の麦が輝いている。

 電気も魔法もない生活は多少不便はあるけれど、でもそれなりに生活している。

 ダンジョンで色々なものが取れるようにもなってきたことも何とかなる要因だ。

 いや、違う、だから、何で?日本じゃないよね?

 えーっと、キララの転移魔法が失敗?

『ふむ、大サービスしておこうかのぉ。地脈を通る転移魔法発動じゃ』

 ノームおじいちゃんがぱちんと指を鳴らす。

 どさりと、土煙を上げながら、何かが地面の穴からポッコリと出てきた。

 いや、穴が開いて出てきたと言った方がいいか。

「痛いっ」

 出てきた、麦の金色にも負けない美しい金髪が揺れる。

「え?痛い?え?なんで?痛いなんて……?」

「ディラ……なんで?」

 ディラが目の前にいた。

 ディラの霊じゃない。

 人間のディラだ。

「体に、魂が戻った……?……あ!」

 キララの転移魔法……あれって、日本に帰る魔法じゃなくて、「元居た場所に帰る」魔法……だったってこと?

 ディラが靄の中に入り込んでいたから……ディラの魂が元居た場所……体に戻ったってそういう……。

「ぷっ。ふふふ、ふふ」

 思わず笑ってしまう。

 笑いながら、目じりから涙がこぼれる……。

「ユキ、泣かないでっ」

 ディラの手が、私の涙をぬぐった。

「あ……ユキ……に、触れる…というか、この顔にあるの何?さっきまで無かったのに」

 ああ、そうか。

 やっぱり霊のディラには眼鏡は見えてなかったのかな。

「可愛い顔を見せて」

 いやいや、だから、私のどこが可愛いのかな?もう、私の魂じゃなくて、生身の私が見えてるでしょう?

 ディラが眼鏡をはずす。

「ユキ……ねぇ、ユキ……ぎゅーってしていい?」

 何を言ってるのかな。

 もう、金縛りをしたいっていうような欲求もないでしょう?

「ユキ、ねぇ、ユキ」


 その後。

 霊だったときのディラの20倍くらいディラが私の周りをウロチョロするようになった。

 えーっと。

 イケメンにまとわりつかれてずるいって、そろそろまたキララが怒り出すような気がする……。


=================================

↑こちら、スッキリしない方のためのおまけとなります。

もし、続きを!ということになった場合、これとは違うストーリーで、終わり方も別になると思われますが、でも、唐突に書いたこういう終わり方も面白いっちゃぁ面白いですね。

キララちゃんがちょっとかわいそうになってきたわ(笑)

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[気になる点] 魔力が高いだけの聖女らしからぬ心醜い聖女キララ嬢…どうなったん?? 主人公達の幸せがみれてよかったけど…欲望の塊な聖女なんて…厄災種でしかないよね。 コヤツが日本帰ってしまえばいい…
[一言] 面白かった‼️ 好みの話ですよ やっぱり悪役はいなくちゃ そして破滅する! 読後スッキリして主人公たちがほのぼのと するでしょう いいです! また楽しいワクワクするお話待ってます! 寒いなか…
[一言] 作者が終わりと言うなら終わりなんでしょうけど……彼女たちのその後が読みたくてもやもやする〜〜!!!! 何はともあれ、お疲れ様でした。他の作品も楽しませていただきます。
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