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姉妹のトラブルは終わらない

 ズドォォン!!

『GOGAAAAAAAAAAA!!』

 その瞬間外から揺れる程の轟音と雄たけびが鳴り響いた。

「クロエ!?」

 外から響く衝撃と轟音に、剣を引き抜きながら家から飛び出す。


「クロエ!」

「お姉ちゃん!逃げて!」

 家から飛び出して目に入ったのは、全身を歪に歪めた化け物と頭から血を流すクロエの姿。

 その化け物はオークの体躯に獣の皮で出来たような服を纏うも、その頭はオークのそれでは無くまるで肉塊を無理やり混ぜ合わせたかの様に蠢いていて、脳やピンクの筋肉がむき出しになっていた。

 そしてこちらに警告する為オークから視線を外したクロエに、オーク擬きは手の戦斧を振り下ろそうとする。

「クロエェ!」

 仙気術で足を強化し地面を蹴る。振り返るクロエが振り下ろされる斧に目を瞑り衝撃に備えるが、代わりに金属と金属がぶつかる耳障りな音が響く。

「ふっぐぐぐ!!」

「お姉ちゃん!」

 間一髪間に滑り込んで斧を受け止めるに成功したが、鍔迫り合いでは単純な膂力差でエスティアは押しつぶされそうになる。

「らぁ!」

「ガァ!?」

 剣を横に流しオーク擬きの体勢を大きく崩し、その隙にクロエを抱きかかえ大きく後ろに後退する。

「クロエ、あいつどこから現れたの?」

「現れたんじゃない、いきなり死体が立ち上がったの」

「死体が!?」

 エスティアもクロエも死体が起き上がるなんて聞いたことが無い。だが事実目の前のオーク擬きは徐々に整形されつつある頭から除く眼球で二人を射抜く。

「どうみても殺し損ねたって感じだけど...」

「でもオークって再生能力持ってないはずだよね」

 目の前のオークは段々と頭部の肉が整形され、頭の形が分かる程度には収まっている。

「とにかく!今はあいつ倒すよ!」

「分かった!援護は任せて!」

 二人は闘気を満たし構えると、オーク擬きも雄たけびを上げながら突進してくる。


「ジャベリン!」

 剣を地面に突き刺しプラーナの槍の波を向かわせるも、オーク擬きはそれを涼し気に受けながら尚突進してくる。

「うっそぉ!?」

 そしてそのまま振り下ろされる戦斧を横に転がることで回避すると、エスティアの後ろに控えていたクロエが魔術を行使する。

「我が作り出すは獄炎の槍!穿て!【フレアランス】」

 作り出された3本の炎の槍が勢いよくオーク擬きに打ち出されるも、オーク擬きは戦斧を薙ぎ払い2本を弾き、残り1本を左腕で受け止める。が痛みに悶える所か嘲笑うかのように悠々と腕を払う、すると徐々にに脚や腕の傷が塞がりだす。

「全然効いてないよ!?」

「それなら!」

 エスティアは全身をバネの様に跳ねてオークの頭蓋に剣を突き立てる。

「ひぃ!」

 だがしかしオーク擬きは倒れる所かエスティアを掴んで地面に叩きつける。

「っ!がはぁ!?」

 そして地面に埋もれ見上げるエスティアにオーク擬きはその戦斧を振り下ろそうとして。

「暴風よ!吹きすさべ!【エアインパクト】」

 クロエが放った風の衝撃波でオーク擬きは数歩後退し、その隙にエスティアは後ろに下がり立ち上がる。

「頭に剣突き刺したのに死なないってヤバいでしょ」

「不味いよ、私も魔力が心細くなってきた」

 二人は悔し気に眼前のオーク擬きを睨みつけ、中途半端な火力では倒しきれないと結論付ける。

「私の剣じゃ倒しきれないけど、クロエなんか良い魔術ある?」

「残りの魔力全部使っちゃうけど...」

「ならお姉ちゃんが時間を稼ぐからなんか凄いのお見舞いして!」

「分かった!」

 エスティアはそう切り出し、一気に肉薄する。

 オーク擬きはそれを外から戦斧を振り抜くが、エスティアは身を屈め潜り込む。

「おらぁ!!」

 オーク擬きの胴体をプラーナで強化した剛腕と剣戟で切り上げ、オーク擬きは振り抜いた右手を返しエスティアはそれを鎖を地面に打ち込み身体を固定しかつ仙気術で強化し受け止める。

(クロエはまだ時間かかりそうかな)

 チラリと後ろに目を向ければ、クロエの周囲にはいくつもの法陣が展開され、神々しい光を放っている。

「GAAAAA!!」

「うるさい!」

 雄たけびと共に幾度も乱雑に振るわれる戦斧を、時に受け止め、時に流し、時に躱す。

 一呼吸する間もなく振るわれる連撃にエスティアの身体は軋み悲鳴を上げ始める。


(どれくらいたった!?まだかかるの!?)

 何度もオーク擬きがクロエの方に意識を向ける所為で、距離を取ることも敵わず常に肉薄することで己に意識を集中させるエスティアは、全身に掛かる押し潰されそうな衝撃に時間の感覚を奪われ、歯を食いしばり耐える。

 何度か隙をついて反撃にオーク擬きの関節を切り裂いたりもしたが、オーク擬きの剛撃が損なわれることは無く、エスティアは諦めて防戦、時間稼ぎに徹する。


「お姉ちゃん!こっちに!」

「!!おっらぁ!!」

 幾合打ち合いを経て、漸く準備完了の声が掛かり、振り抜かれた戦斧を受け止め、最後のプラーナを全力で身体に籠め頭上に弾きオーク擬きの大きく体勢を崩し全力でクロエの元に下がる。

「生み出すは原初の灯火、巻き起こるは衝撃と畏怖。万物万象を打ち滅ぼし今一度世界の始まりを知れ」

 クロエが詠唱を紡げば光は壮大になり、まるで塔の様に高く方陣が展開される。

「【フィアットルクス】」

 瞬間世界が光に覆われた。そう思う程、クロエを起点に膨大な光が生み出され、刹那割れんばかりの轟音と衝撃に空気が焼けるほどの熱がエスティア達に襲い掛かる。

 クロエが行使したのは戦術級魔術―通称爆裂術式。本来は戦場で軍勢相手に魔術師数十人で行使する様な魔術をクロエは一人で行ったの。

「もう...無理...」

「クロエ!」

 しかしその代償は魔力欠乏として現れ、顔色は蒼白、滝の様に汗を流し糸が切れた様に地面に倒れ込む。

 しかしクロエが地面に倒れる事は無く、エスティアは抱きかかえる。

 顔を上げればオーク擬きが居た所は隕石でも落ちたのかと見間違うほどに大穴が開けられ、その肉片一つ残しては居なかった。

「......どうしよ...これ」

 しかし問題はそこではない。南門前の広場、先ほどまで多くのオークの死体が浮かんでいた場所は、周囲の建物ごと綺麗にさっぱり姿を消していた。

「確かに凄いのとは言ったけど、ここまでする?」

 生半可な攻撃では倒せないと思い、魔術で一気に倒してもらおうとは思ったが、まさか周囲一帯更地にする程の規模でだと誰が予想できた。

「え?ていうかこれ不味くない?」

 南門にオークが出現したと信じては貰えるだろう。だがしかし、周囲一帯の建物を全壊させた場合は褒められる所か犯罪者まっしぐらである。

「......よし逃げよう」

 元々街から逃げるつもりではあったのだ、そこに後ろめたい理由が付くだけ。エスティアはクロエを抱きかかえ、腰に道中ジェイドたちからもらった背嚢の中に金貨の入った袋があるのを確認し南門に向かう、が。

「貴女はどうする?」

 気配を感じ振り返れば、皆を寝かせてある家から顔を覗かせる夢魔の女の子に声を掛ける。

 少女は近くまで歩み寄ってくる。

「一緒に来るの?」

 その問いに少女は頷く。

「私達教会から追われてて逃亡中なんだけど、それでも?」

 危険な旅だと伝えてなお少女は怖気づく素振りも無く頷く。

「...分かった。じゃあ一緒に行こ」

 そうしてエスティアとクロエは魔族である夢魔の少女を連れ、文字通り逃げるように街に背を向けた。



◇◇◇◇



「素晴らしい!何と素晴らしい!!私のお気に入りの実験体を相手にあそこまで戦える技術!それにあれが捕獲対象の魔剣使いですか。それにもう一人の少女もあり得ない程の魔力量...フフフ...フハハハハハ!!素晴らしい!最高の素材だ!!」

 狂ったように笑う白衣の男は街から去る三人の少女達を気持ち悪い程の笑顔で見つめる。

「相変わらず気持ち悪い趣味してるね」

「?...はぁ、また貴方ですか。いい加減しつこいですねぇ」

 しかしそんな白衣の男は突然かけられた声に怪訝な顔を浮かべるも、その姿を見呆れたようなため息を吐く。

「あんたらが今すぐ死ねば私もいつまでもこんなことしなくて済むんだよ」

 白衣の男に話しかける女性は、闇に紛れていて姿こそ伺えないが、その声には怒気と殺気が溢れんばかりに込められている。

「それは出来ない相談です。が、今は引きましょう。連れてきた実験体も少ないことですし」

 しかしそんな事は柳に風とながす白衣の男はおどけた様に両手を掲げ、逃げ出そうとする。

「逃がすとでも?」

「追えませんよ、貴方程度では」

「ちっ!」

 逃げる男を追いかけようとする女性は突如現れたオークの群れに行く手を阻まれる。

「ご安心ください。いつかまた会えますよ、その時はあの子も立派な姿でお披露目できると思いますよ?」

「!!てめぇ!!殺す!!」

 行く手を塞ぐオークを女性は怒声を上げながら突き進むが、その肉の壁が開けた時には白衣の男の姿はどこにも無かった。

「クソがぁ!!...今は王に報告が先か...」

 女性の声が闇に響くと共にその姿は闇に溶け込むように消えた。

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