第75話:外伝:とっちゃんのアウトな日々──1話
視点:オイラっス!
そんなわけでオイラっス。
大体アニキにしごかれまくってるグーパンチ・ゴブリンのアウトっスよ。
今日も日課になってしまっているグーパンチ1万回を終えて、紅血の間を出るっス。
1万回やらないと、出られないんス。
大変なんスけど、明らかに終わる時間が早まってるっスね。
そしたら、型を増やせって言われたっス。時間が延びたっス。スっスっス。
毎日毎日やってると、明らかに早く強くなってるのは嬉しいっスねー。
あっ、アニキが成長すると、ここ<レッドの腕輪>内の加速時間の加速度も上がるんス。
あえて明言は避けるっスけど、かなりの速度っスよ。
この前追加された二頭のお馬さん、毎日馬車を牽いて頑張ってたっス。
それをキシさんが見て、騎乗魔物が欲しいと言ってたっスね。
そのお馬さん達は確実に無理っスけど、次はなんとかなるんじゃないっスかね。
とことこ歩いて、本日のメニュー、模擬戦の場所まで行くっス。
普段は紅の部屋という訓練部屋で訓練か、軽い組み打ち。
もしくは紅血の間、別名地獄、またの名をお仕置き部屋、で修行っス。
今回は、特別に模擬戦っス。
場所は広場。
地形の有利不利は殆どないっスね。
相手は……ひぃ!?
「キュ(よっ)!」
「フォルトゥーナさんが相手っスか!?」
「キュ(そうだよ)。キュキュ(審判はエル様)」
マジっスか!?
特別枠の中でも、良い方の特別枠との戦いっスか!?
こっちミソッカス扱いの特別枠っスよ!?
『構えてください』
ダメっス!
開始時刻っスよ! 開始される地獄っスよ!
『Ready Go』
えーい!
「グーパンチっス!」
オイラの武器はグーパンチのみ。
スキルだって<殴拳>しかないっス。
だから、殴りに行くしかないっス!
「キュ」
スカッ! ごふっ!?
躱された上に、蹴られたっスよ……。
痛みをこらえて、再度グーパンチ!
スカッ! スカッ! スカッ!
ごふっ!? ごふっ!? ごばぁ!?
痛いっスよー!
全然当たらないっス!
確か、<幸運>と<回避>のシナジー効果っス。
オイラのしょっぱいグーパンチでも、当たらなきゃ始まらないっス!
どうすれば良いんスか。
こんなとき、アニキなら……。
『躱すことの出来ない速度で攻撃』
無理っス。
『躱すことの出来ない飽和攻撃』
無理っス。
『ならもう必中で叩けよ』
それっスよ!
なんか今混じった気もするっスけど、必中攻撃っス!
あくまで、躱せる可能性が有るから、躱せるんス。
必中なら、当たる!
オイラのグーパンチは、想像力と妄想力が武器になるっス。
炎のイメージが強ければ、炎のグーパンチになるんス。
オイラには、アニキからアババババされたマンガやアニメのイメージがあるっス!
その中から、必中というイメージをグーパンチに乗せて、殴る!
「殴れば当たる! グーパンチ!」
「キュ(痛い)!?」
当たったっス!
というかなめプされてた気もするっス。
それに威力も低い……。
リソースを必中に割いた分、威力の欠如っスか。
なら何度も当てるだぐぴゃー!?
「キュー!(容赦しないよ)」
あれは投擲武器<ツェール>!?
ひゃー!? 本気になったっス!
うさぎさん怖いっス!?
投げられるアレに当たると、一時的に不幸になるんス!
なんとか避けないとって、もう当たっちゃってるっス!
ぴぎゃ!? ぷぎゃ!? あだっ!?
何度かグーパンチも当ててるんスけど、当ててもダメージを流されてるっス。
威力低い上に、通しにくい。
その上、ダメージも蓄積して。
……あれ?
この程度のダメージなら動けるっス。
アニキの方がきついっスよね?
攻撃も、もっと苛烈で選択肢多いっス。
まだまだー!
グサッ!?
調子に乗ったっス!
角あるんスよ!
まさか伸びるんじゃなくて、飛ばす!?
額からニードル・ショットっすよねそれ!
「キュ(目は止めといてあげる)」
嬉しくないっス!
連射までは出来ないみたいっすけど、こっちより動き早い上に、ツェールは来るわ、角は飛ぶわ。
きついっス!
なんとかツェールをグーパンチでパリィしても、不幸が加算されるっス!
うぐっ!?
肩やられた!
まずいっス、左腕が、動かない!
「キュキュー(降参)?」
まだまだっス。
でも、回復なんて出来ないっス。
というか魔術なんにも使えないっス。
どうすれば、どうすれば良いんスか。
────はっ!
『おらおら、もっと早く打ち込め!』
『いたっ!? 強すぎっスよ! 折れるっスよ!』
『もう治ってんだろ?』
『なにをいって……あれ? 痛くない』
『回復魔術を拳に付与したんだ。
殴っても回復する。便利だぜ。
だからもっと、やれるからな!』
『ひぃー!?』
今考えれば、あれはヒントだったんじゃ!?
わりとひどいことされてるっスけど、こうだ!
「殴って癒せ! グーパンチ!」
癒しのイメージ。
ゴブリンの骨格、靭帯、筋肉。
その組成と治り方。
オイラは(物理的に)情報を叩き込まれてるから、回復のイメージは精細なんスよ!
おおー、治って行くっス。
乏しい魔力に、練度なんでしょぼい回復力っスけど、イメージの力って強いっス。
「キュ」
あっ、警戒されたっス。
こっち、体力も少し戻ったとはいえぼろぼろなんスよ?
ここで、決めるっス。
集中力や想像力だって、そんなにもたない。
氣力や魔力だって乏しい。
だから、この数瞬で爆発させる。
右グーパンチには、筋力強化。
左グーパンチには、速力強化。
グーパンチ同士を打ち合わせる。
回復だって出来るんス。
なら、殴れば強化だって出来るんス。
思い込みはパワーなり。
フォルトゥーナさんが投げてくる舵輪型投擲武器ツェールを、避ける。
オイラの体捌きは上手いとは言えない。
でも、グーパンチを打つための回避なら、凄いんスよ!
加速。
足が速いとは言えない。
でも、グーパンチを打つための加速なら、凄いんスから!
伸ばしてくる角を、見極めて、避ける。
イメージはボクサーという職業。
そして蹴りを避ける。
スウェーとか言うんスかね?
さあ、決めるっス。
「キュ(うそ)!?」
放つは、究極。
構えて、殴る。
その動きだけは、最速。
「究極願望的ォォォ、殴拳打ィィィ!」
オイラの全てを込めた一撃は。
まっすぐにフォルトゥーナさんへと向かい。
その威力を。
叩き込む。
──スカッ!
「……キュ(あれ)?」
「…………あ」
あああああ!?
必中つけ忘れたっス!?
「キュー(ばーか)」
がふっ。
──────────
あれ?
ここは、広場。
あー。フォルトゥーナさんに舵輪でガツンされたんスね。
痛くない。
「起きましたか~?」
「あれ、ホリィさんスか。オイラを治してくれたんスね?」
「はい~。たんこぶ5つくらい有りましたよ~?」
フォルトゥーナさん、死体蹴りは酷いっス。
「ありがとうございましたっス」
「いえいえ~。レッド様の伝言も預かってますから~」
!?
なんスかね。怖いっス。負けたし。
というか、ホリィさんのしゃべり方はほんわかしてるんスけど。
アニキの話のときだけ怖いんスよねー。目が。
「『まずは残念だったな。元々、フォルトゥーナに分が有るとは思っていたが』」
あ、声マネ上手いっス。
そんな特技あったんスね。
「『回復グーパンチも出来たみたいだし、評価としては悪くない。
甘味を用意しといたから、後で食べて英気を
養ってくれ』」
おお!
まさかの誉める方だったっス!
あと声マネの時は普通に話せるんスね。
「『さて。多分喜んでいるだろう君に朗報だ』」
へ?
「『最後だけ、バカなミスしたな』」
ひぃ!?
このBGMなんスか!?
なんの幻聴なんスか!?
「『とっちゃん、アウト。
紅血の間10周だ』」
「えええええ!?」
「『甘味はそのあとな』以上です~」
紅血の間は1周でも死にかけるのに、10周ぶっ続け!?
マジヤバイっスよ!?
逃げ──ひっ!?
「さ~、行きましょ~」
「ぎゃぁぁああ!? モーニングが拝めなくなるっスよー!」
「これも訓練ですよ~」
目が。
目が怖いんスよー!
はっ!
まさか紅血の間に逃げ込めと!?
どこまで読んでるんスかアニキー!




