第53話:擬態は通用しない──俺には
9日目:ミリロの町近辺:街道外れの森
<変態機動>を森でも試しつつ、めっちゃ高速で逃げる。
うおぉお!?
<変態機動>めっちゃ使いやす!
スゲー良いわこれ。
手・腕だけでなく、太ももからアンカーを射出して、全身でバランスを取りつつ、空中を行く。
「キュー!」
頭に乗ってる兎さんも、耳をパタパタさせてスピードを楽しんでいる。
これくらいでいいかな。
速すぎると、採取が出来ない。
<神の残せしブーツ>に、風系の力をアップデートし、速力上昇及び、エアクッションを仕込んでみた。
空中に仕込む、障壁も上手くなってきたな。
この辺で、一旦ゴブリン隊を森に放ち、アウトのとっちゃんは左手に装備。
魔鳥達は空へと放ち、フォルトゥーナは右手に装備。
「キュー!」「へ!? なんでオイラも抱えられてるんスか!?」
目標、敵ゴブリンの群れ。
まずは右手!
「人外の魂完全燃焼! ホーン・ドリル・アターック!」
「キュキュキュー!」
全身で捻り運動を作り出し、フォルトゥーナに伝えて、射出!
回転して、ゴブリンとの距離を食い付くし、着弾!
ゴブリン・リーダーにクリティカルヒット!
「左手! 逝ってこい!」
「なんか漢字が違くないっスか!?」
左手の投擲武器たるアウトをぶん投げる。
アウト、ランチ・アウト!
グーパンチがゴブリン・ソードマンの顔に直撃!
勢い余って頭突き!
両者共倒れだ!
「ほれほれがんばれー」
<投擲>しつつ、回復を飛ばしていく。
<念動力>でアウトの動きの補助をしつつ、フォルトゥーナの動きも見る。
見て、視て、診尽くす。
うむ、<幸運>って、スゴい。
攻撃当たらないのに、受けるときはクリティカル。
敵にしたら、最悪だわな。
しかも指揮系統を潰したから、上手く連携できずに翻弄されて、同士討ちすら発生してる。
「おりゃー! <グーパンチ>っス!」
うんうん。よくやってる。
スキル化したから、グーパンチの動きも良くなってるな。
ただ1つの武器だ。それだけを磨かせる。
フォルトゥーナは、基本的にキックだ。
強化された後ろ足による一撃。
そして、<操角術>による、角攻撃。
白い体毛に埋まるように付けられた、黒い登録証。
<錬金術>で、風による防護と速力アップを付けた。
また、爪と牙でも攻撃している。
威力は低いが、引っ掻きと噛みつきで、翻弄している。
うさぎにも、牙は有るのだ。ん? なんか既視感。
危ないところを<投擲>したり、魔術を放つ。
支援して、格上の相手と戦わせる。
数も多く、質も、<レッドカード>による弱体化で相手の方が強い。
いや、アウトは元々弱い。
だからこそ、経験値は多い。
フォルトゥーナは殆ど被弾しないが、少しは掠めている。
<幸運>による干渉限界だ。
「キュッ、キュー!」
実戦により、動きは良くなっていく。
アウトも、グーパンチしか出来ないとバレて、拳にだけ警戒されている。
「アウト、気にせずお前は行け。回復はきちんとしてやるから。
一気に打ち込んでみろ」
「わかったっス! うおー!
砕けオイラの必殺<究極願望的殴拳打>!」
名前はカッコいいが、形にもなってない、単なるグーパンチ。
力を込めて、ちょっぴり動かせた氣力を使ったグーパンチ。
「あぎゃー!」
アウトの グーパンチ!
敵ゴブリンGは棍棒で防いだ! 貫通ダメージ小!
敵ゴブリンGのカウンター!
アウトは頭に棍棒を受けた。
あちゃー。
まだキツいねぇ。もっとグーパンチに対する意識を変えさせないと。
せっかく<殴拳>というスキルが有るんだから。
──────────
「とっちゃん」
「はいっス」
「お前が弱いのは仕方ない。今は強くなるための時間だからな。
だが、お前はまだまだ強くなる方法を出来ていない」
「方法っスか?」
「そうだ。発想とかの問題だな。文学的アプローチをスキルに行う」
「文学的……っスか? ……!」
「うむ。察しが良くなったな。一度腕輪内に戻すので、受け入れるがいい」
「ひぇーーーっスーーー!!!」
「キュー(やれやれ)」
「フォルトゥーナはブラッシングしてやるぞ。こっちに来い」
「キュー!(わーい)」
ゴブリンの群れ殲滅を終え、一時休止。
今回、アウトには強烈な知識譲渡を行ったから、そう簡単には戻れないだろう。
他の魔物たちにも、色々と行っているが、アウトは特にアババババしてる。
アイツ、才能ないし、グーパンチ以外出来ないけど、恐ろしく打たれ強いんだ。
というか、沈むときはあっさり沈むのに、次見るとひょっこり復活してる印象だ。
世界観がアイツだけ違うのだろう。
流石はとっちゃんだ。
フォルトゥーナは大分安定してきてるな。
<幸運>もあって成長も早い。
<レッドカード>による弱体化も、<幸運>には関係ないしな。
<レッドカード>そのものも、ちょくちょくアップデートして、弱体化を小さくしている。
それとは別に、弱体化を大きくすることでの訓練アイテムにも出来るという副作用。
「キュ!」
よし、行くか。
「キュー(あっち)」
「ん? この方向が良いのか?
道順も大丈夫だし、行ってみるか」
さてさて、幸運兎さんのお手々の先には──────
「キュ?」
「あー、成る程」
目の前には、大きな樹が有る。
気になる樹だ。
魔力反応も強く、魔素の流れもおかしい。
感知関連を弄くって、目にも分かりやすく映しているが……。
これは、魔物だ。
エル:表示します。
【ステータス】
個体名:───
年齢:2
性別:不明
種族:トレント(トレント種)
レベル:44
ランク:3
トレントか。
エントではなく、トレントなのな。
ランク3だが、人間の生活圏に出没しなければ、自ら動くことは殆どないため、危険視はされない。
だが、コイツは素材になる。
樹木が魔化されてるし、杖にもなれば、建材にも有用だ。
ランク3だから、それほどいい素材ではないが、今までの木よりも明らかに良い。
狙うか。
他に面倒なものは……、確認できず。
火属性禁止。
ただし、熱は使用する。
『フォルトゥーナ、撹乱を』
『キュー!』
<解体>スキルが使える相手だな。
両手に、斧を。ノコギリはまだ作れない。
伐採用の斧。風による切れ味上昇が付与してある。
そこに、火・水・風属性から、熱に関する魔術を構築。
<高熱付与>と、<冷凍付与>を発動。
さて、行くか!
──────────
相手は樹。トレント。
顔とかがあるタイプではなく、わさわさしている樹だ。
一定以上のダメージを与え、生命力を削りきると、魂が抜けて、気にならない素材になる。
その感知は、全方向だろう。
まずは、一発。
『<魔力衝撃弾>』
着弾と同時に、強力な衝撃を撒き散らす魔術。
その撒き散らす方向を限定し、威力を高めている。
あまり素材を傷付けたくないからな。
衝撃系で攻撃。
気付いたトレントが、枝を撓らせ、伸ばしてくる!
エル:<木属性魔術>及び<操枝術>によるものと判断できます。
木属性!?
エル!
エル:ラーニング中───
よおし!
フォルトゥーナがウサしっぽをフリフリしながら挑発。
しっぽというか、お尻か?
気になっちゃった樹は枝の一部を叩きつける……が、勿論避ける。
枝を縦横無尽に振り回すが、速度はそれほどでもない。
枝だけあって、幾つもの枝分かれと、鋭い葉っぱは有るが、当たらなければどうということはない!
フォルトゥーナも、地面を蹴り、枝を上手いタイミングで蹴り、空中に張り巡らされた糸の足場を蹴り、時にはロープに捕まって「キュキュー!」と言いながら逃げていく。
イラついたように、今度は葉っぱをマシンガンのように飛ばす!
威力55! 残念! その命中率は<幸運>持ちには当たらない!
意識がフォルトゥーナに向いているうちに、こっそり近付き、斧で枝を切り飛ばす!
『<大斧轟・乱撃>』
太い主要な枝を切り飛ばしつつ、枝の根本を熱で焼き止め、冷気で凍り付かせる。
焦ったように残りの枝を振り回し、葉っぱを飛ばしてくる。
樹って、認識した瞬間から、枝を生やしたりするのは想定内だ。
火は使えないが、熱で細胞を変性、冷気で植物を凍らせる。
熱属性とか、氷属性が欲しいね。
全く、そんなに飛ばされても。
風と水のクッションで受け止めて、葉っぱを収納。
意外と使えるかな、この葉っぱ。
おいおい、火と、除草剤使わないでやってんだから、少しは感謝せぇよ?
──ビクッ!?
あれ? 殺気効くの?
挑発聞いてたし、今更かな。
振り回していた枝も、張っていたワイヤーに引っ掛かって動けなくなってるし。
新しく枝を生やすのも、時間と労力がかかるみたいだな。
さあ、大人しく。
──<解体>されな?
──────────
ふー、大変だったぜ(棒)
生命力を削りきり、木を伐採。
エルさんと、<採取><解体>スキルのサポートにより、解体していく。
<念動力>が大活躍だ。
邪魔になる枝を伐っては収納。
葉っぱも残らず回収。
禿げた樹を<地属性魔術>、そして習得した<木属性魔術>でぶっこぬき、使いやすい形状に切り裂き収納。
<木属性魔術>
木に関する魔術。
本来、人族等は習得できず、森の民や、木属性の魔物・種族が習得する魔術。
まぁ、人族というか、人間では有りませんし?
[生産]にも使えるし、良い魔術だな。
解析していこう。
ぼっかり空いた穴を、魔術で塞ぎつつ、創造したトレント(苗木)を植える。
育ったトレントは高かったよ……。
地・木属性で栄養を与えつつ、水属性でも良い栄養を与える。
栄養剤を用意しつつ、ちょっとずつ摂取するように教え込み、ついでにここでお食事だ。
戻ってきたゴブリン隊と魔鳥編隊と一緒に、昼食を取る。
食器に、トレント材を使ってみた。
うむ、悪くないな。
<レッドの腕輪>内の森区画にも、トレント(苗木)を幾つか植えておいた。
狩ってきた獲物や、刈ってきた植物、買ってきた食材を合わせてお料理だ。
<料理>スキルを使いつつ、お魚さんに水・回復魔術を。サラダや木の実に木・回復魔術をかけると、より新鮮になるし、甘味も強く出来る。
火・風属性で、念入りに加減調節。
<念動力><魔力手>で同時進行。
そうだ、魚を<レッドの腕輪>の川区画に放流しとこう。
余裕も出てきたし。
全員に食わせつつ、レベル確認。
うーん。そろそろランクアップ出来るかなー?
本格的な殺し合いを経験させてみるか?
まだ実時間で、3日くらいしか経ってないのにランクアップしそう。
うむ、俺の従魔だな。
「大将、午後からゴブリン隊はどうしますか?」
「そうだな……。よし、全員このまま付いてこい。
ゴブリンの集落を、炎が発見している。
そこに向かいがてら、お前たちに技術を教えていく。
今回真正面からお前たちをぶつけるから、覚悟しとけよ」
「ハッ!」
さて、ランクアップは出来るかな?




