第51話:この世界において、蜘蛛に噛まれることによる肉体の変質は起こりうる
8日目:ミリロの町:空中
そう、空中からお届けしています。
レッドです。カメラさんはエルさんでお送りしております。
あの後、ギルドに戻り、こっそり素材と首を納品するまでは良かった。
夕方で忙しい時期だったが、あの筋肉ギルマスが一筆書いていたからか、対応も良く、別室で納品できた。
魔石が殆ど無いことを聞かれたが、そんな余裕が無かったので、首を中心に持ってきた、と答えた。
魔石は生産コースだからな。
頭目は懸賞金がかけられていて、盗賊団そのものにも懸賞金が有ったので、それを貰いつつ、Eランクに昇格。
Dランクには、試験もあるし、<直感>先生がどの依頼を選んだところで、面倒になると言っていた。
なのでその辺をスルーしつつ、戻ろうしたときに、<直感>とエルさんが反応した。
エル:このまま進むと個体名:ミスハ及びそのパーティー<銀麗の風>と遭遇します。
感知して、全力で逃げる。
MAPに統合されてる、反響定位や、<索敵>等で、ルートを割り出し逃げているのだが……。
──エル! どーにも引き離せない。詰め将棋みたいに徐々に追い込まれてるんだが!?
──エル:加護による、可能性選択で無意識に追ってきているようです。スラム街を通りつつ、このルートを推奨します。
マジかよ。スラムは確かにこちらの方向。
アイツらの素性を考えれば、こちらに来る可能性は低い。
元々スラムによるつもりだったとはいえ、随分予定を狂わせてくれるな!
纏っていた外套を、ボロに換装。
及び<隠者の半仮面>を装着し、全力起動。
<隠密・潜伏>を発動させ、<工作>先生と<超直感・観>先生のタッグで解を割り出す。
<体術>による歩行術や感知もまでもフル起動。
なぜ俺は町中で全力闘争もとい、全力逃走してるのだろうか?
訓練にはなるが、加護持ちや<幸運>持ち相手とはやりあいたくないな!
エル:次の分岐を右へ
あいよ!
──────────
「うーん、見付からないね」
「赤い髪に、綺麗な顔立ちをしていましたし、角兎と魔鳥を連れていますから、目立つ筈なんですけど」
「全く! ミスハさ……の手を煩わせるなど!」
「探してるのはこっち。あっちは悪くない。でも不思議。
ミスハが真面目に人探しをしているのに見付からないなんて」
「うん……。あの人たちみたいに悪用はしたくないけど。
人探しで見付からないなんて、久し振りの経験だよ」
「町からは出ていってないはずですけど……。もう宿に籠ってしまったのでしょうか?」
「ここまで探して居ないのならば、スラムにでも行ったのではないか?」
「ジェスはやっぱりお馬鹿。あの赤い人はスラムには合わない。
表を歩く人だとケイは思う」
「そうか? ああいうのが何か腹に抱えているものだぞ!」
「下衆の勘繰りは止めなさいジェス。ミスハ、そろそろ宿に戻りましょう?」
「そうだね。同じ宿に止まってたりしないかなぁ?」
「どうでしょう? 従魔可の宿は幾つか有りますし……。
私達の止まっている渡り鳥の止り木亭に居れば良いのですが」
「ミスハなら、有り得る」
「なら戻るとしましょうミスハ。日も落ち始めます」
「そうしようか。明日も探してみて、見付からなかったら諦めよう」
──────────
そして冒頭に戻り、空中です。
スラムを通って、情報収集と用事を済ませつつ、空を通る。
気分は怪盗だ。
青い髪を翻しながら、影に紛れて進む。
昼と夜の境は、最も影が濃くなる時間帯の1つだ。
<操糸術>と<暗器術>で、空中のラインを作りつつ、こっそり作ってみた魔力障壁を足場にしてみる。
やっぱりムズい! しかも隠蔽中だと尚更!
魔力と氣力を重ねてみる。おっ? 少しはマシだ。
風魔術をこっそりこっそり使いつつ、宿に戻る。
だが、タイミングが重要だ。
エル:今です。50秒以内に客室へ。
「おや、お帰りなさいませ」
変装を一瞬で解き、元の姿へ。
「どうも。依頼通り、夕食は部屋でお願いします。
これでたっぷりとお願いします」
「おや? 食べきれますかな?」
「ええ食べ盛りなので。ああ、実は先ほど話した人を見掛けまして。
問題にしたくないので、俺が泊まっていることは内密に」
「はい。分かりました。料理は準備できたらお持ちしますね」
「お願いします」
チップを渡し、おじさんに依頼しつつ。
さっと、客室に逃げ込み鍵をかける!
──────────
「あれー?」
「ミスハ、どうかしたの?」
「何か感じた気がしたんだけど……気のせいみたい」
「それは残念。宿の人に聞いてみたけど、赤い髪の従魔持ちに心当たりは無いみたい」
「ふむ。では別の宿だったのか。まあ、同じ宿に止まりたくは──」
「次は痛くするって言ったわよね?」
「すまん! だからその杖は仕舞ってくれ!」
「やっぱりジェスはとても馬鹿」
「早くちゃんと謝りたいなー」
一番当たってるのはアレ系重戦士ジェスかもしれない。
その他の、一番警戒している者の印象が良いものとなる。
それがレッド・クオリティー。




