第13話:長かった1日目の終了──ただで終わるわけがない
1日目:アルサの町:風鷲の宿
ギルド協賛の宿であり、アルサの町に幾つか有る宿のうち、中級の部類に入る。
客層は主に冒険者。食堂が併設されており、対応も良いため、女性冒険者も比較的多く止まる。
その代わり、駆け出しには厳しい値段設定。
隠形時に被っていたフードは、冒険者ギルドから出た段階で外していたが、隠形は訓練のために──怪しまれない程度に──続けて、ここまで来た。
スキルとして形になるのを待とう。
「いらっしゃい、冒険者かな?」
おっちゃんだった。
「はい。これがギルドカードです。ここをお奨めされたので」
「確認したよ。一泊大銅貨5枚だ。飯は食堂。基本料金に付いてるが、お代わりが欲しいなら別料金だ。
洗濯なども受け付けるよ、これがそれぞれの値段設定だ」
ご飯付きで5000円。ゴブリン1匹で200円だ。確かに中々のお値段。
そしてここは、大部屋で雑魚寝システムではなく、個室に、1人用、2人用、4人用となっている。
何より、ここにはお風呂が付いている。
お風呂やトイレなどは、転移勇者どもが全力で頑張ったらしい。
特にトイレに強い拘りを持っている勇者が時折現れるとか。少しは感謝してやる。
「では、とりあえず4日分をお願いします」
銀貨2枚、大銅貨1枚。
「ここには運動できる場所が有ると聞きましたが」
「ああ、裏手に有るよ。夜中朝方は禁止。あまり煩くしないこと。本格的にやるのなら冒険者ギルドで、だぞ」
銀貨を指定の場所に。大銅貨はポケットに。
「それと幾つか、聞きたいことが有るんですが」
「このあと忙しくなるから、少しだけだぞ?」
言葉とは裏腹に、にこやかに答えてくれた。
──────────
今俺は、宿の裏庭で、剣の素振り中だ。落ち着いて訓練出来る機会だ。体力も残ってるし、やっておきたい。
この世界:イリガルドでは、チップ制だ。日本では馴染みがないが、チップは世界では多いとか。
裏金や賄賂、という程でもなく、必ず渡さなければならない、という訳じゃない。
チップを渡した方が、口が軽くなったり、チェックは緩くなるが。
子供には大賎貨、大人には銅貨~大銅貨。貴族がチップを払うときは銀貨以上。
大銅貨は、一般人が払うチップとしては、中々のものであり、不自然な程ではない。
また、相手によって払う相手かは考えた方がいい。
チップ制を禁止している国も有るし、冒険者ギルドや、鑑定協会は基本禁止している。
優遇や、情報漏洩防止の為だ。個人的に受付嬢にプレゼントするのは有り──その後、質屋で似たような指輪がある、だと!?──だが、見返りを求めるのは厳禁、なのだとか。
それと、貨幣に、大、と有るが一回り大きめなだけで、貨幣は小さく使いやすい。
というか一応ギルドカードに入金してもらったのに、普通に手持ちから出したな。
まあ、そもそも足りなかったし、稼ぎはギルドカードと、手持ちに分けて持つ方が良いだろう。リスクの分散だ。
つらつらと意識の一角で考えを纏めつつ、剣を振るう。
身体を意識し、氣力と魔力をコントロールしながら、剣を振るう。
俺の持つ鋼の剣は、柄が長く、片手でも両手でも扱える少し長めのショートソードだ。
刀身は厚い訳でもなく、叩き切るのではなく、斬り裂く為の武器と言えるだろう。
剣を振るう。スキルによるアシストを感じながら、振るう。
刃を立たせるにはどうするのか。この切り方では、どのように力を込めればいいのか。
そんなスキルによる情報を、肉体に教え込む。
スキルが有る世界だ。ならば、スキル禁止や、スキル無効エリア。スキル強奪だって有るかもしれない。
スキルに頼りすぎれば、スキルを失ったときに反動が来る。
それに、スキルだけを絶対視せずに考え続ければ、窮地にて突破口を開けるかもしれない。
エルに頼りきってるのは内緒だ。しかし目をそらすことなく、対応策は考える。
氣力を纏い、剣を振るう。剣に氣力を纏わせ、振るう。
魔力よりも、氣力の方が良いな。肉体戦闘なら。魔力で感覚を強化。魔力ソナーを打ったりしてみる。魔力の球を上に投げ付けたりしてみる。
【ステータス】
生命力:2000
体力:41/205(+4)
魔力:31/215(+12)
氣力:13/221(+15)
おう、集中して取り組むと凄いな。
魔力や氣力を使い尽くすのは、寝る前にしとこう。0にするのは危険らしい。
それに、使い尽くしてから回復すると、成長するお約束。
睡眠時、安静時は魔力・氣力の回復がとても早い。というより、普段はあんまり回復しない。
特に戦闘中は、スキルなどがない限り回復はかなり微妙だ。
なんでも、リソースの殆どを戦闘に向けているから。安静時は、回復に割けるリソースが増えるから。
単純だね。
汗を拭い、着替えを洗濯に出す。夕飯の前に、風呂を浴びてさっぱりする。
風呂は遅くなると閉める。食堂の方は長くやっているし。
防音設備がしっかりしているため、騒いでいても安心して寝られる。人気の理由の1つだ。
食堂で夕飯を食べる。うん、美味しい。創造神様、有り難う。勇者ども感謝してやる。
宿の部屋。1人部屋に入り、きちんと戸締まりを確認。
今日は疲れた。早めに寝るとしよう。
ではエル。睡眠時のトライアルを頼む。
エル:了。完全睡眠を確認した後、魔力・氣力の操作、及び使用できるスキルの試用。回復タイミングなど、様々なトライアルを行います。回復タイミングを考え、爽快な起床に合わせて終了します。起床時に9割の魔力・氣力量に調整。設定通り、朝07:00にゆっくりと起床出来るようにサポートします。
この世界:イリガルドにも灯りは有る。有るが、基本的に朝は早く、夜も早く寝ることが多いらしい。俺もそれに合わせて寝るとしよう。
魔力・氣力を使い尽くす。そしてエルに睡眠導入のサポートをしてもらう。
おやすみ、エル。
エル:御休みなさいませ、マスター。
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エル:マスターの深睡眠を確認。トライアルを開始します────────────────────────────────────────────────スキル<魔力操作>、スキル<氣力操作>獲得。魔力を用い、マジックアイテム:針の治療を参考に、ソナーと回復を開始──────────────────────────────────────────────────スキル<回復魔術>獲得。スキル<無属性魔術>獲得。詠唱に関するトライアルを開始──────────────────────────────────────────────────────
1日目終了。
トライアルのまま2日目に突入。
睡眠装置:エル。快適な睡眠導入と起床をあなたに。
放置ゲー、もしくはBotシステムにより、寝ながら強くなる。むしろ寝てる方が早く強くなる。成長チート、ここにあり。




