第3話 希望と課題とそれから
「...ん」
俺は重たい身体をソファから起こし、時計を見た。
「5:24か...」
ぼそっと呟くと奥の部屋から出てきたカゼシタに声を掛けられた。
「よぉ、坊主。しっかしはええな...まだ5時半だぜ。」
カゼシタは身体を伸ばしながらそう俺に言った。俺はゆっくりと口を開いた。
「昨夜の事は...その...すいませんでした。俺も気が気じゃなくて...」
カゼシタは一瞬驚いたような顔をした後、俺にこう言った。
「ははは!そうかそうか。タケトビの言う通りだなぁ...坊主。お前のその言葉を聞けて俺も決心がついたってもんだぁ。」
「決心...ですか...?」
困惑している俺を見ながらカゼシタは言う。
「そうだぁー坊主。不思議に思わないか?この地域の伝統に、この地域の自警団が口出すなんて。相手は神社のお偉いさんだぜ?そんな方々を相手にしてでも捜査をするなんて。」
「言われてみれば...」
俺は違和感に気付けなかった自分に苛立ちを覚えながらも、より一層カゼシタ達への信頼度が増した。
「俺らが捜査している理由は、そもそもあの儀式が正式なものではなかったからだ。理由は2つ。時期はいつもより2週間ほど早かったってのと、秘密裏に行われた事だ。」
俺は考えを整理しながら口を開いた。
「待って下さい。秘密裏という根拠はどこから?」
カゼシタは首を傾げたあと俺に言った。
「自警団と神社は一見、上司と部下のように思えるかもしれねえが、そう簡単な話じゃなくてなぁ。まあ...あれだ。詳しく話すとあれなんだが、儀式を執り行うには自警団に申請書を届け出なきゃならねえんだ。ウミノ祭のな。」
ウミノ祭自体は聞き覚えがある。毎年夏ごろ、ウミノ神社含めたウミノ町で行うお祭りのことだ。カゼシタは続ける。
「30年に一度の儀式は、ウミノ祭の最後に行うものでな。地元の奴らも見届けるんだよ。ウミノ祭は道路とか住民の私有地とか諸々...まあその辺りはタケトビに聞いてくれ...」
カゼシタは気怠そうに俺に言った。俺はしばらく考えたあとカゼシタにこう言った。
「つまり、ウミノ祭は地元の人も関わるお祭りなのに申請が行われていない。もし、あの儀式がお祭りの最中に行われたものじゃないと神社が主張しても、儀式はウミノ祭の最後に行うものだから、伝統を勝手に破ったものになり、どちらの事でもおかしい。正式なものではない。って事ですか?」
カゼシタは嬉しそうな顔で俺を見つめながら言った。
「物分かりが良くて助かるぜ坊主。物分かりが良すぎるけどなあ。それでだ、坊主。」
カゼシタが真剣そうな顔でこちらを見ながら続けた。
「お嬢ちゃんを助けたいか?」
勿論俺は迷うことは無かった。
「はい。」
迷いのない顔を見てカゼシタの顔は再び嬉しそうな顔をし、俺の肩を叩きながらこう言った。
「坊主、お前さんがお嬢ちゃんを助ける為にしなきゃいけないことは2つ。①この事件を近隣住民及び友人などに隠しつつ、ヘビノもしくはウミノ神社の目的を明かすこと。これに関しては俺たち自警団が主にやろう。そして、②星谷家の代表者を見つける事。」
「星谷家の代表?」
俺は眉を潜めながらカゼシタに聞いた。
「あぁ。儀式には生贄を捧げる方法と三代名家の代表の血を捧げる方法の2通りあるって話は昨夜したよな?現在その三代名家の一つ、星谷家の代表者が居ねえ。それを探し見つけ出す事ができたらお嬢ちゃんを助けられるかもしれない。」
一縷の希望が俺の思考をクリアにしていった。ただ、一つの疑問が浮かんだ。
「多分...ただの星谷家の人はダメなんですよね?代表者の資格ってカゼシタさんは言われてましたけど...具体的には何が必要なんですか?」
カゼシタは待っていましたと言わんばかりの形相で食い気味に俺に言ってきた。
「資格、そおー資格だ坊主。三代名家は『ガイネン』『シンコウ』とは別に『ゲンショウ』と呼ばれる属性を扱えるそうだ。ただこの『ゲンショウ』を扱えるのは一家一世代につき1人か2人なんだとか。この『ゲンショウ』の属性を扱えるものが代表者なんだ。」
「なるほど」
俺はカゼシタが昨夜に3属性あると言っていた話を思い出しながら頷いた。カゼシタは続けた。
「その星谷家の代表者を2週間以内に見つけ出し、ヘビノの目的も明らかになった時、俺たちゃは初めてお嬢ちゃん救出プランが実行できる。」
カゼシタは窓の外を見つめながらそう言った。
「もし、代表者が見つからなかった場合は...どうなるんですが?」
心の底ではどうするかなんて分かっているものの、渋々俺はカゼシタに聞いた。
「儀式はお嬢ちゃんを生贄に続行だ。」
カゼシタはこれまでにない程、真剣な声色でそう言った。
「俺次第って事ですね。やりましょう。」
俺は覚悟を決めてソファから立ち上がった。
「まずはお嬢ちゃんの自宅に行き、経緯を説明するといこうか。儀式の事情自体はご両親も知っているはずだ。」
そうカゼシタは言ったあと、トレンチコートを纏った。俺も続けて身支度をし、自警団本部を後にした。
「あれがソウ君ねぇ。本当に彼が目的を?」
自警団本部近くの山からソウたちの姿を追う者を、まだ彼らは知らない。雲をものともしない朝日が煌々と輝いていた。




