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第2話 お披露目

 俺は抜刀の構えを取る。

 狙うのは上の騎手ではない。騎手の首まで刀は届かない。

 狙うのは馬の首だ。『将を射んとする者はまず馬を射よ』というありがたい教えに従ってみよう。


「オラァ!」


 掛け声と共に槍を振りかぶる黒鎧の騎士。


 馬の首が間合いに入った瞬間、抜刀する。


 ――――――。


 音は無かった。瞬く間――という表現も正しくないかもしれない。()()()()()()俺は抜刀していて、()()()()()()馬の首は落ちていた。


「なっ!?」


 騎士は驚き、声を上げる。


「ちっ」


 ミスった。

 首を落としても、馬の勢いは死なない。あと数歩で馬体は崩れるだろうが、その数歩の内に激突する。幸い、騎手は馬の首が落ちたことに驚き、攻撃の手を止めている。馬の突進さえ躱せばいい。


 俺は横に転がり、馬の突進を避ける。馬は数歩走った後、崩れた。騎手も転げ落ちる。


「貴様……何をしたぁ!!」


 槍をこちらに向け、突っ込んでくる騎士。

 突っ込んでくるのなら、ただ待てばいい。


 騎士が槍を突き出してくる。俺はその槍を、抜刀術を使い真ん中辺りでぶった斬る。


「はやっ……!? 否、速いなんてレベルじゃ!?」


 抜刀後の返しの一撃で、騎士の喉を掻き切る。


「ごぱぁ!?」

「初めて人を斬ったが、存外……柔いもんだな。ん?」


 喉を斬られても、騎士は目を血走らせ、殴り掛かってきた。


「しぶてぇ」


 刀を鞘に収めると同時に、抜刀術を発動。鎧ごと胴体を切断。今度こそ確実に命を絶つ。

 それにしても喉を斬られてもひるむことなく向かってくるとか、化物だな。


「……これで俺も立派な人殺し、だな」


 改めて戦場を見渡す。

 一方の軍は戦国時代を思わせる和風の甲冑を着ており、もう一方は西洋風の鎧を着ている。鎧騎士たちは基本白い鎧を着ているが、ポツポツ黒い鎧の騎士もいる。


 押しているのは騎士軍団の方だ。騎士たちは雷や炎などを作り出し、次々と武士たちを焼いていく。それに対し武士たちは弓矢や投げ槍で対抗するも、鎧に弾かれてしまっている。


 俺は武士側だろう。この格好からするに間違いない。


 俺の武器はこの抜刀術のみ。


 騎士たちの魔法(?)に真っ向から対峙しても間合いの外から嬲られて終わり。狙うは奇襲。相手の指揮官を奇襲で潰し、こっちの軍の士気を上げる。


「すっげー!!」


 背後にある死体の山から声がした。

 ……よく見ると、死体と死体に挟まれて、生きている人間がいる。


「君すごいね! 何者!? 黒鎧(くろよろい)を刀で斬るとか、すっげー! アレってすっげー硬い素材で出来てんでしょ!」


 声の主は死体の山から這い出る。

 そばかすが特徴的な好青年だ。死体に紛れて死んだふり決め込んでいたのか。


「僕、感動しちゃった! 何アレ! 一瞬でさ、刀を抜いてたよね!?」

「……お前、敵軍の大将首がどれかわかるか?」

「大将首? それは……黒鎧(くろよろい)のどれかかな。どれかはわからない」


 どうやら白い鎧は下っ端、黒い鎧は上官、って感じらしい。

 片っ端から黒鎧を辻斬りしていくかな、と思ったら、甲高い角笛の音が響いた。


「全軍撤退ー!」


 黒鎧の騎士の一声で、騎士軍団が去っていく。

 すでに夕暮れ。夜戦を避けたのか。


「なんとか今回も凌げたね~!」

「今回『も』? 前にもこういう戦いがあったのか?」

「へ? そりゃもう何度もあったじゃない。ここ抜かれたら不知火は終わりだもんね。絶対死守しないと」


 やはり防衛戦か。攻め込んでいる雰囲気じゃなかったもんな。

 ここは平野だが、騎士たちが去っていた方向の真逆側、武士たちの遥か後方にデカい門が見える。


 ……あそこが要所か?


 ダメだ。知らないことが多すぎるな。

 昔、異世界転生を題材にしたアニメーションを見たことがあるが、基本的に西洋風の世界を舞台にしていた。でもいま目の前にいるのはどっから見ても日本人っぽいし、格好も武士。相手が魔法らしきものを使っていたから戦国時代にタイムスリップしたわけではないとわかるけど……。


「お前、名前は?」

「僕は安彦(やすひこ)。友達からはヤスって呼ばれているよ」


 明らかに和名だな。


「そういう君は?」

「俺は……」


 なんだろう?

 前世の名を名乗ろうか? いいや、それじゃ後々ややこしいことになりそうだ。


「名前は……」

「空蔵吉数(きちすう)、だよね?」

「え?」


 ヤスは俺の下半身の方を見て言う。


草摺(くさずり)に書いてあるよ。自分の名前を書くなんて真面目だね」


 ホントだ。白い字で書いてある。剣道部みたいだな……。


「おい」


 白馬に乗った女に声を掛けられた。

 腰に刀を差しており、甲冑の類を着ておらず、着物と袴を着ている。歳はまだ二十歳を越えていないのではないだろうか。まだ『少女』という言葉が似合う外見だ。黒い髪のミディアムヘアーで、紫色の瞳だ。せっかく整った顔なのに、不機嫌そうに顔をしかめているため、嫌な迫力がある。


天草(あまくさ)凛音(りんね)様……! す、凄い……妖刀衆(ようとうしゅう)の方だ」


 よくわからないが、ヤスの反応を見るに凄い人物らしい。


「そこの黒鎧はどういうことだ? なぜ死んでいる?」

「それは彼が斬ったからです!」


 ヤスが意気揚々と俺を手で指し示す。


「嘘をつくな」


 女剣士は冷たい瞳を向けてくる。嫌悪感が顔に出ている。


「黒鎧をそんな鈍刀(なまくらがたな)で斬れるものか。褒賞(ほうしょう)が欲しいからと言って、嘘は感心しないな」

「嘘じゃないです! 彼は本当に……」

「もうよい。その黒鎧と死体には触れるな。私の手のモノが回収する」


 女剣士はぱっからぱっからと去っていったとさ。


「ご、ごめん……僕がちゃんと説明できていれば……」

「いいさ。うまく説明できなかったのは俺も同じだ」


 目の前でこの鎧を更に切り刻めば良かったかな。まぁいい。過ぎたことだ。


「とりあえず……帰ろうか。不知火の里に」

「そうだな」


 待ち望んだ戦場。戦乱の世。この抜刀術を遺憾なく発揮できる。

 だが、ただバーサーカーのように暴れ回る気はない。俺は俺の抜刀術に誇りを持っている。その誇りを穢さないよう、悪事や私利私欲に使う気はない。俺が行くべき戦場、この抜刀術を発揮する場は見極めないとならない。


 そのためにもまずはこの世界、この国について知らないとな。

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