第3話 四国
帰り道、俺はヤスにこの世界のことを色々と聞くことにした。
結果として、『世界』について知ることはできなかった。あくまで聞けたのは『国』の範囲まで。と言うのも、この大陸は『鎖国』しており、大陸の外については情報が一切ないらしい。黒船来航前の日本と同じ状態というわけだ。
俺が今いる大陸は『天弦桜島』という名だそうだ。
この天弦桜島には四つの国が存在する。
『不知火』。
『亜羅水』。
『土神門』。
『風漸』。
この四国がこの島国の覇権を奪い合っている状態だそうだ。
そして俺が、というか空蔵吉数が属する国が不知火。さっきまで戦っていたのは亜羅水だそう。
ちなみにこの話を聞いている時、ヤスはずっと『マジかコイツ』みたいな顔で見てきていた。当然の反応だな。日本人が『日本って何? アメリカって? ここは東京?』って聞いているようなものだ。
「いま、俺達がくぐった門はなんだ?」
「……『登龍関』だよ! 戦場に行く時もくぐったでしょ!!」
……怒られてしまった。
「この登龍関は不知火の里に繋がる唯一の門。この門を越えて、山に挟まれた道を暫く行くと不知火の里に着く……って、今更言うまでもないよね?」
「待った。唯一の門? じゃあこの門が最終防衛線ってことか!?」
「そうだよ! だから必死に守っているんじゃないか! 君、本当に不知火出身なの!?」
……また怒られてしまった。
三国志で言うところの蜀だな。それも末期の頃の。さながら、最も軍力があるという亜羅水が魏ってとこか?
「いつまで防衛すれば諦めてくれるんだろうね……諦めてくれるわけないか……やっぱり不知火はここまでなのかな……」
いま、俺は山と山の間の大道を戦を終えた兵士たちと共に歩いているのだが、
「……やっと終わった」
「……腹減ったぁ……」
「いつまで続くんだ、この地獄」
「もう無理だろ。降伏しようぜ」
こういうのを敗戦ムードと言うんだろうな。まるで覇気がない。
普通の転生者ならば、外れの国に来た、とでも思うのだろうか。
俺は逆だ。弱小国の方が良い。大国相手の方がいっぱい斬れ……じゃない。あれだほら、経験値をいっぱい積めるからな。敗色濃厚のこの国を、もしも俺の力で立て直せたのなら、飛躍的な成長が見込めるだろう。うん。
---
里に着いた。
高い山々に囲まれた街だ。和風だ。江戸時代にタイムスリップした気分。奥にどでかい城も見える。
街にいる人たちの髪型は全然フリーダムな感じだな。男でポニーテールにしている奴とか、女性でツインテールにしている奴とか普通にいる。服装は和服が基本だが、結構多彩な着こなしがされている。イメージとしては明治時代ぐらいのファッションセンス。
帯刀はOKのようで、男は大体帯刀している。廃刀令は出されていないらしい。
「君はどこに住んでいるの?」
空蔵吉数の住処……正確にはわからないが、なんとなくはわかる。
帰巣本能ってやつなのか、体が覚えている。初見の街なのに、どの道を曲がればいいのかわかる。
「あっちの方だ」
「へぇ~! あっちの方って結構名高い家が集まる場所だよね。あれ? もしかして吉数君って、公家だったりする?」
記憶が曖昧だが、武力的に朝廷に従事する貴族を『武家』、政治的に朝廷に従事する貴族を『公家』と呼ぶんだっけか。
この世界、この国が日本と同様の様式とは限らないけども、一旦同様のものと想定して話を合わせてみよう。
「それは無いだろう。公家が戦場に出るものか」
「ん……言われてみれば確かに」
自分で言っておいてなんだが、ここまで切迫した状況だと貴族と言えど戦場に駆り出されることはあるかもしれないな。日本で言うなら、東京以外全部落とされているような状況なわけだし。
「そうそう、僕達『天草軍』は三日後にまた登龍関に集合だってさ」
聞くところによると、不知火には三つの軍があり、その三つの軍をローテーションで回して登龍関を守っているそうだ。もちろん、敵軍の規模によっては二軍、三軍が一気に出ることもあるそう。
「そうか。正確な集合場所や時間は決まっているのか?」
「里の正門に正午だってさ」
「了解。ちなみに天草軍……ということは、さっきの女が大将か?」
確か天草凛音とか名乗っていたはず。あの偉そうな女。
「そうだよ。美しかったねぇ! 凛音様!」
「妖刀衆、とか言ってたな」
「うん! 妖刀に選ばれた四人の内の一人! 天草様の妖刀『荒喰』は命を喰らうらしいよ。かっこいいよね!」
妖刀か。俺の抜刀術で斬れるかな。
「じゃ! 僕あっちだから! あの肉まん屋さんが僕の家なんだ」
肉まん!? 肉まんがあるのか……た、食べたい……。もう40年は食べてない……。
「何か用があったらあそこを尋ねて! またね! 吉数君!」
ヤスと別れる。
さて、俺もこの帰巣本能に従って帰るとしよう。
「ここか」
ヤスと離れて、遂に見つけた我が家。
「でかいな。本当に貴族なんじゃないのか……?」
塀に囲まれた屋敷だ。木造りの門扉の横に『空蔵家』という表札がある。
「なんだ?」
手が震える。体が冷や汗を浮かべる。
俺じゃない。この体が、『空蔵吉数』が怯えている……?
間違いない。ここは『空蔵吉数』の家だ。なのになぜ怯える?
いいや、とりあえず入ろう。
門を押して、中に入る。すると、屋敷の玄関扉から烏帽子を被った男が出て来た。
男は俺を見ると、強く睨んできた。
「なぜ、貴様が『正門』から入ってくる?」




