春のおとづれ(「あたたか企画」参加作品)
この作品は遠井moka様が企画されている「あたたか企画」の作品になります。
春……
それは生命の息吹きが満ち溢れる季節……
暗い土の中であたたかな陽射しが降り注ぐその時を求めて……
多くの生き物たちが今か今かと待ち望んでいる。
私もそんな生き物の1つ……
青い空のもと、眩しい太陽のような花を咲かせることを夢見ながら……
静かにその時を待ち望んでいる。
ああ、早くあたたかくならないかな?
外の世界は一体どうなっているかしら?
私の胸は来る季節に備えてとても高鳴っていた。
しかし、外の世界はまだまだ寒い。
こないだなんか、雪が降ってきて茎が凍ってしまうかと思ってしまった。
こんな状況ではまだまだ蕾を広げることはできない。
…
…
…
外の陽射しが大分あたたかくなってきた。
私の身体に小さな生物たちが這いまわる。
とてもくすぐったくて思わず蕾を開きそうになった。
少しだけ……少しだけ……
私はどきどきと胸を高鳴らせながら静かに蕾を花開く。
ああ、とても良い香りがする。
外の空気はあたたかでたくさんの生き物たちの生命で満ち溢れていた。
私が憧れていた外の世界……
なんと美しいのだろうか?
ほんの僅かな隙間から見える夢の世界に一気に蕾を開きかけた。
だけど、外の空気はまだまだ寒い。
もっとあたたかくならなければ……
私は時折吹いてくる寒風に身体を揺らされながら……
少しずつ……
少しずつ……
私の中に流れる体液をギザギザに尖った葉の隅々まで通わせるように静かに花びらを開いていく。
…
…
…
私が花びらを満開にさせた頃、外の世界はとてもあたたかくなっていた。
私の頭上では綺麗な蝶々が青い空を楽しそうに舞っている。
いいな、いいな……
私にもあんな綺麗な羽があれば、あの美しい青い空を飛び回れるというのに……
私は蝶を羨ましそうに眺めながら左右に身体を揺らした。
空を飛ぶ彼らに気付いてもらえるように……
大地に繋がれて動けない私の代わりに愛を届けてもらうため
彼らの好む生命の蜜を宿らせながら……
必死で身体を振っていると甘い香りに惹かれるように彼らが私の下へとやって来る。
お花さん、お花さん、あなたに溜まった美味しそうな蜜をくださいな。
蝶々さん、蝶々さん、良いですよ。
代わりにこの愛の結晶を届けてくださるならば……
蝶々の足にたっぷりと花粉を巻き付けると再び大空へと舞い上がる蝶々を見送った。
私の思いが他の誰かに届くことを夢見ながら……
…
…
…
誰かに送った愛の結晶が再び私の下へと返ってくる。
私はその愛を受け止めながら多くの子供たちを育んだ。
そして、あたたかな風が吹き始めると私はその子供たちを憧れた青空へと飛ばしていく。
真っ白な雪のようなふわふわとしたあたたかな綿毛に乗せて……
さあ、坊やたち、お行きなさい。
私の知らない美しい世界へ
私が見られなかった青空の彼方へ
このあたたかな風と共に……
満足そうな笑顔を浮かべながら私は大空彼方へと飛んでいく子供達をあたたかに見送った。
※今回は『タンポポ』を擬人化させてみました。
春のあたたかさが伝わってくれれば嬉しいです。




