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キャンバス(「冬のあしあと」企画 参加作品)


 ある日の朝……


 何時ものように朝のまどろみを楽しんでいると外から元気な子供達の声が聞こえてきた。


「おーい、こっちにも雪が積もっているぞ」

「雪合戦やろうぜっ」

 ……雪?雪だって!そんなはずは……

 狐につままれたような台詞に驚いて一気に意識を覚醒させる。


 昨日眠った時は確かに道路は真っ黒なままで雪はおろか氷すら張っていない状態だったはずなのだが……

 半信半疑のまま気だるい上半身を揺り動かすと冬眠直前の熊のように窓の方へと近づいた。


「うっ……眩しいっ!」

 窓の外には白銀の世界が広がっており、積もった雪に反射した太陽の光が寝ぼけ眼を突き刺してきた。


「マジか……」

 一夜にして様変わりした風景を眺めながら唖然とした。


 気分はさながら竜宮城から戻った浦島太郎のようであった。


「本当に積もっている……」

 次第に込み上げる衝動に圧されながら無造作に置かれた服に手を伸ばすと外に出る準備を始めた。


 普段、見慣れた景色が雪によって変貌した姿を目の当りにして外に出ずにはいられなかった。


「散歩にでも行くか……」

 遠足や運動会に向う子供のように期待を膨らませながら外へと飛び出した。


「ふあああ……寒い……」

 凍り付いた空気が肌を突き刺す。


 家に戻りたい気持ちが込み上げるも雪に対する気持ちが僅かに勝り、散歩を継続させた。


 さくっ!さくっ!さくっ!

 雪の上を一歩一歩と進む度に軽快な音が鳴り響く。そして、足の裏には何とも言えない感覚が広がる。


 冷たいような気持ち良いような……何とも不思議な気持ちであった。


 歩いた道の上にはくっきりと大きな足跡が残されていた。


「ああ……何って気持ちいいんだろうか……」

 真っ青に染まる空を見上げながら太陽の光を全身に浴びて白銀の世界を心の底から楽しんだ。


 しばらく歩いていると目の前から可愛らしき幼い子供と母親がやってきた。


 女の子は『きゃっきゃっ』と無邪気に笑いながら楽しそうに母親に質問していた。


「ねえねえ?あれはなんのあしあと?」

 女の子は雪の上に残された動物の足跡を指差しながら母親の顔を見つめていた。


「あの足跡は……リスさんの足跡かな?」

「それじゃ、あのあしあとは?」

 女の子は新しい足跡を発見すると再び質問を繰り返した。


「あれ?あれはね……ウサギさんかな?」

 母親は苦笑いを浮かべながら女の子の質問に答えていた。


 多分、本当の正解は知らないのであろう。


「それじゃ、あっちのあしあとは?」

 女の子は次から次へと新たな足跡を見つけるとその度に質問を繰り返した。


 そんな無邪気な親子の会話を聞きながら辺りの様子を見回すと栗鼠や兎の他にも狐や鹿などそこら中にたくさんの動物の足跡が見られた。


 どうやらこの辺りにはたくさんの動物が住んでいるみたいだった。


 女の子につられるように雪の上に残された動物の足跡に視線を向けているとそこには何とも素晴らしい世界が広がっていた。


 普段では見ることができない雪と木々が醸し出す幻想的な空間……

 そこに太陽の光が差し込むことであちらこちらに反射した光が空気に舞う様々な物体を浮かび上がらせていた。


 それはまるで空気中の水蒸気が凍り付く『ダイアモンドダスト』と呼ばれる現象によく似ていた。


 そんな景色に見蕩れていると気持ちが最高潮に達したと思われる先程の少女が興奮気味に母親へ話しかけていた。


「ゆきさんってほんとうにすごいのねっ」

「何がそんなに凄いというの?」

 母親は女の子の言う意味がわからずに首を傾げていた。


 一体何がそんなに凄いというのだろうか?

 俺にも女の子の言わんとする気持ちがよくわからなかった。


「だって……ゆきさんはどうぶつさんたちをえかきさんにできるんだもの。こんなおおきなえ、みたことないもん」

 女の子は円らな瞳で雪の上に残された動物の足跡を見ながら、彼らの描いた足跡を1つの作品として楽しんでいたのである。


 足跡が絵に?……確かに

 女の子の言葉を聞いて身体に衝撃が駆け巡った。


 まさに目から鱗が落ちるような思いであった。


 再び動物達の足跡に視線を戻すとそこには……とても大きな1つの作品が存在していた。


 動物の足跡1つ1つは単なる景色にすぎないのだが、景色全体を通してみるとそれは風景の一部として見事な模様が描かれているようだった。


 子供の発想力とは何とも豊かなのだろうか……

 小さな女の子に言われて初めて自らの視野の狭さを思い知らされた瞬間であった。


「ありがとよ、お譲ちゃん……」

 この素晴らしき宝物に気付かせてくれた女の子に聞こえないくらいの声で感謝の言葉を呟くと静かにその場を立ち去った。


 眩しいくらいに輝く美しい雪原の上に大きな足跡を残しながら……


 俺の踏みしめた足跡も誰かの心に残ることを祈りながら……



この物語は半分実話で筆者が北海道に住んでいた時に体験したことについて語ってみました。


正直、一夜にして路面が真っ白に染められている光景を見たのは本当に圧巻でした。


気分的にはまさに浦島太郎、昨日まで見ていた光景が何時の間にやら変えられている驚き。


そんな驚きをもとに後半は子供が持つ無邪気さについて考えて書いてみました。


子供の発想力は本当に豊かで大人では考えもしないことを思い付いてしまう驚きを表現してみましたが……上手く読者に伝わると良いなと思います。


最後まで読んでくれた方、誠にありがとうございました~♪

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― 新着の感想 ―
[良い点]  冬のあしあと企画から来ました。  雪の足跡を使って色々と想像する素敵な作品だと思いました。 [気になる点]  ジャンルが詩になっていますが、異なっていると感じました。また、好みだとは思い…
[一言] たくさんの動物たちのあしあとだなんて、本当に可愛すぎますね! そんな貴重な雪のキャンバスを見つけたら、何とかして保管したいと必死になってしまいそうです。子どもたちの発想力はすごいですよね。こ…
[良い点] 北海道出身なので!(わたしが こ、これは作者さんと握手!!と思ってしまいました。 雪のあしあとの使い方、今まで読んだ中ではど直球ストレートですごく良かったです。 [気になる点] ポイント評…
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