740話 こちらも難問発生
宇たちが都滞在中の主目的である支援者探しは、そこそこの成果を上げている。やはり大偉は醜聞も大きいが活躍も大きいので、期待を集めやすいのだ。しかし同時に、予想外の問題が発生していた。
宇たちはその問題対応に疲れてしまい、こうして焼き饅頭屋の店先に座って休憩しているところなのだ。宇の文句を飛がいなし、その横では静が焼き饅頭をハムハム食べているのを赤兎が見守っている。
ちなみに宇が物騒な愚痴をブツブツと言い始めた時点で、飛によってその席はかなり露店から離されていた。露店の店主も、宇たちの危ない会話を聞かないようにしているのが見て取れる。これならば宇たちもどこかの茶店にでも入ればいいのだろうが、都は今どこもかしこも白百合の看板に関わりがないかを調べなければならないため、もう面倒だから露店で買い食いとなったのだ。
「一店が取引停止。三店が継続する条件に、あり得ない位の仲介料の値上げだとさ」
「なんと強気ですなぁ」
宇が指折り数えるのに、飛が笑っている。この笑いは、大偉の怒りを買う恐ろしさを知らない無知への笑いだろう。
苑州は農作に向かない土地であるため、農作物の大半を余所の州から仕入れて凌いでいる。ところがその仕入れの仲介契約をしている店の一部との間で、取引継続が危うくなっていた。
ちなみに宇が挙げたいずれの店も、看板を白百合に替えた店ばかりである。支援者探しでは白百合の看板に悩まされることはなかったが、まさかこちらで罠にかかるとは思わなかった。
「足元を見てくるとか、クソだよね」
「坊ちゃん、口が悪いですぜ」
宇が焼き饅頭にかぶりつきながらも愚痴が止まらないのについて、飛の小言がうるさいが無視だ。
「契約を継続してくれた店だけでは、冬を越すのに到底足りないかぁ」
「ねぇ、他の店に行くのは?」
眉間に皺を寄せて思案する宇に、隣で同じく焼き饅頭を食べている静が提案してきた。まあ、それが真っ先に考えるべき解決策ではあるのだろうが、これもまた問題がある。
「今から余所の店を探したとして、今から苑州を賄えるくらいの農作物を用意できるとは思えないよなぁ」
なにしろ冬が来るまでそう間もないのだから、どこだって冬の間の貯蓄を集めるのに余念がないだろう。それなのに急に新規の客がやって来たとしても、望みの分だけ用意してもらえるのは望み薄だ。大偉の名前を使えば、他の取引に苑州が強引に横入りすることも可能だろう。だがそれをしてしまえば、あちらこちらで無駄に反感を買ってしまうことになる。
――それは巡り巡って、苑州の損失になるだろうな。
それ以前に、例の店たちが苑州との取引を見直しているのは、あくまで店の都合に違いない。農作物を例年通りに売るつもりで育てていた里では、苑州に収めるための作物を既に用意している可能性がある。もしそうなら、里の方では売れずに過剰在庫を抱えて大赤字となるわけで。その責任を、果たして苑州を切った店がどう説明をするかが問題だ。
このように急な手のひら返しをしてくる店なのだ、それこそ「大偉皇子が一方的に契約を切った」と言ってしまっても、里の者にはその信憑性を確かめる術はない。
「僕が子どもだから舐めているのか――いや、違うな」
宇はこの考えを自分で否定する。
舐めるというのは、双方の間で地位の認識に差がある場合に生じる摩擦だ。自分で考えている己の地位と、相手から「このくらいであろう」とみなされている地位とで、ずれがある場合に問題が炎上するのだ。これが双方の地位の認識がどの立場から見ても固定されていると、舐めるだなんだということにはならない。
つまり、苑州はつい最近まで国の軍事費を横領し続けていたことが露呈した末に大公替えとなったのだから、舐めるとか言う以前の話であろう。苑州の立場では方々へ向かって小さくなって頭を下げていて、やり過ぎるということはないくらいなのだ。そこへ頭ごなしに押さえつけられても、むしろ押さえつける方が「あんな格下相手に躍起になるとは、余裕のないことだ」と憐れまれるだろう。
だからこれは「苑州に」ではなく、「皇后の皇子である大偉に」向けての嫌がらせなのだ。強気に交渉してきた店――というか、その背後にある白百合の看板の主である叶賢妃は、助けてほしければ大偉に頭を下げさせろと言いたいのだろう。皇后に対抗心を燃やしている叶賢妃なので、皇后の皇子である大偉のこともなんとしても貶めたいらしい。




