第十章、結託 6
卸本町の蜃気楼、パターン2(過去からの訪問者)オリジナル
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ここは山下町の住宅街。
今も何となく古風な家が立ち並ぶ町。
良子のアジトを見上げる、元同僚達であった。
里美、「あの女のアジトは、春菜が去年創った、プライベート寮だな!」。
春菜、「私の宝物の中に、良子さんが居ると思うの」。
直子、「へ~!、こんな古臭い建物が良いの?」。
明子、「ここから始まったのよ!、何もかも..」。
昭和44年から、通常時間を歩んで来た会社の同僚は、この新築な割には、
古風な建物を見詰めながら、各々で評価をしていた。
春菜はこの建物の玄関の鍵を開けて、中に入ると、玄関の下駄箱を開けた。
すると良子の会社の同僚は驚いた。
当時、この寮に住んでいた人達の名前が刻まれた、下駄箱だった為に、
何だかノスタルジックに陥った。
下駄箱には誰の靴も置いて無かったが。
春菜は良子の臭いを嗅いでいた。
春菜、「2階の突き当たりの部屋だよ!きっと...」。
そう言って、春菜は階段を上がっていった。
続いて同僚も階段を上がった。
2階の廊下を歩いて東の突き当たりの部屋を、春菜はノックした。
春菜、「お母さん入るよ!」。
そう言って、木製の薄い扉を開けた。
すると良子が、畳の上で座って俯いていた。
同僚は同時に、「み~つけた#!」と、顔が強張った。
春実、「嫌いじゃなかったんかい?、去年春菜が創った、昭和の寮風の建物」。
里美、「寮風じゃなく、そのまま私達が若い頃、住んでいた寮を再現した建物だよ」。
明子、「良子さ~ん、この始末どう対処するのよ#!」。
直子、「へ!、未来人のナウなヤングの思想は、このカビ臭そうな寮なの?」。
香織、「春菜、ここで私達と過ごした時間は、永遠の青春時代よ!」。
直子は部屋の中に入り、畳の上に座った。
直子、「でも何だか、ここの方が落ち着く」。
節子は猫を抱きながら、「古臭いけど、情緒に溢れているわね」と、周りを見回し感心していた。
すると彰浩は、部屋に入り良子の前でしゃがみ、「さてと、事情は聞いたが、
そろそろ春菜の女の幸せを、与えなければならない時が来た様だ。
でも決して遠くに行く訳ではないさ、なまじか遠くに春菜が身を置いた法が、
お袋も諦めが付くかとは思ったが、春菜の願いで、
お袋を寂しくさせたくないとの願いを込めて、勝手だが俺はあの会社の代表として、
運営を俺に任される事になった。
無論春実の店も俺が同時に賄うから、俺達夫婦と春菜の両親、
それと杉浦さん夫婦が同居する事にしたから」。
良子は驚いて顔を上げた。
春菜、「老後は共同で過ごす様、今から準備するの、
私が住んでた家は、大輔君と私が住む事にして、
お母さんが住んでいたあの、大きな家は皆んなの家にして、
将来は介護老人ホームとして、改良する事にしようって、
春実お姉ちゃんと、彰浩お兄ちゃんと同意の上、
後はお母さんの了承を得るだけになったの」。
複雑な思いの良子だった。
彰浩、「さて、後はお袋次第だから、春菜と二人だけで話をしろよ!」と言って、
皆この部屋から出て行った。
春菜は床に座り、良子と二人きりになった。
春菜、「退屈でしょ..」。
良子は俯き、「昔の私の敵を取っているでしょ!」。
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春菜、「そんな事無いよ」。
良子、「嘘..」。
その時、春菜は微笑んだ。
良子は何気なく、フォークソングを口ずさんだ。
春菜は一緒に口ずさんだ。
歌い終えると良子は、「やっと未来人の気持ちが、理解出来たわ」。
春菜、「世知辛いこの世の中って、この寮が懐かしく思えるでしょ!」。
良子、「負けたはよ、未来人!」。
春菜、「宇宙人でしょ!」。
良子は頬から一滴涙が伝った。
良子、「未来人が昔言っていたは、豊かだから幸せだとは限らないって」。
春菜、「その未来人に警告されたのに、何故一人ぼっちになったの?」。
良子、「賢の愛も取り戻した。
長男長女にも恵まれた。
昔流した子供も私の側に来てくれた。
望みの全てが叶った暁には、それを与えた者に更なる欲望を、求めてしまったのよ!」。
春菜、「永遠の灯火」。
永遠の灯火とは、心の暗夜をさ迷っては、灯火に辿り着くと欲が出て、
更なる暗夜をさ迷って、大きな灯火を探す事を意味していた。
良子、「欲望なんて、満たされていた方が、飢えが来るのよ」。
人は皆、満たされれば満たされる程、高望みをして更なる望みを抱いて、
物欲に走るが、完全に満たされると麻痺して、常に幸福の空腹感を生じるものだった。
極端な肥満も同じで、食べても食べても、満足感を持続したいが為に、
常に満腹感を得ていないと、不安感に襲われる為、食欲に歯止めが利かなくなる状態である。
それは物欲も、私生活での暮らしも同じであった。
良子、「責任感じているんだ、この状態の原因は春菜自身だと..」。
春菜、「過去に言った時、これでも5割位しか皆んなに、未来の出来事を教えていないのに、
大分影響が出たみたい」。
良子、「バブルが弾ける年さえ分かれば、色んな工夫で対処出来たから..」。
そして二人は、お互いに俯いて黙っていた。
だが春菜が、「嫌いじゃなかったの?ここ..」。
良子、「この土地買って、遊ばせて置いて、マンション建てようかとした頃、
不景気が更なる勢いで訪れて、近隣の日照権の問題も起きて、
先送り先送りで売ろうかと思っていたら、春菜が目を付けて、
会社名義でこの家建建てた。
知っていたのは私と洋子と圭子、それに春菜と以心伝心出来る春実だった。
最初は貧乏暮らしだった頃の寮を、再現した建物なんて、見る気も起きなかった。
でも最近春菜が大輔に、心が行く様になると、私はここが懐かしくなって行ったの」。
春菜、「ここでお母さんは、置いてきてしまった物が、沢山有るはずよ」。
良子は何気なく周りを見回すと、貧乏暮らしの時に、春菜と過ごした時間を思い出し、
夫の賢の事も思い出した。
18歳の頃に前世に当たる、春菜を流し、7年後この土地で賢と再会して、
前世で有る春菜が縁を取り持ち、良子の望み通りになった事。
その時、愛しかった春菜が、現代に帰ってしまった切なさと、
その反面、貧乏暮らしが日に日に豊かに成った事。
その数年後、待望の子供を産めた事。
でもやはりその反面、大富豪である事を、周りからはやっかまれ、
近所や同僚以外の知り合いから、遠ざけられて次第に自分が、
高飛車な態度を取様になると、仕事の付き合いだけで、
プライベートは誰も、付き合わなくなっていた。
この寮に居た頃は、規律を守り寮に住んでいる、同僚からも慕われていた事。
他人への思いやり、補い、優しさ、全てこの部屋に、置き去りにしてしまった事。
それは全て、バブルの様に泡となって、消えてしまった。
古き良き時代で有ろうか。
時より春風が強く吹くと、木の枠のガラス窓が、カタカタと音を立てていた。