第十章、結託
卸本町の蜃気楼、パターン2(過去からの訪問者)オリジナル
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柿本ハウスにて..。
夜を迎えて柿本ハウスでは、信管を抜かれた良子がいた。
その良子とは逆に、台所で楽しそうに料理を作る、直子が居た。
ジャガイモを剥きながら、昔の50年代のアメリカの曲を、
日本人がカバーした歌を口ずさみながら、料理をしていた。
直子は良子の姿を見て、「オイ!オイ!オ~イ!」と、読んでも信管を抜かれた良子は、
返事をしなかった。
直子、「大槻 良子!、返事をしろ#!」。
良子、「.......」。
直子、「あんた、私も昔は金持ちの娘だったから、あんたの気持ちは解るけど、
物より者を失うと辛いでしょ!。
私も父が経営していた紡績会社が倒産して、貧乏暮らしになった時には、
差ほど悲しみは無かったけど、借金地獄で母親が寝ずに働いて、
過労で肝臓悪くして、亡くした時には今のあんたみたいに、路頭に迷ったわよ」。
良子、「......」、黙りに入っていた。
直子、「謝りなさいよ、いい加減意地っ張るのも、終わりにしないと、
あんたの大事な春菜は、戻って来ないわよ!」。
良子、「もう何を言っても、春菜は戻らないわよ!」と、囁いた。
直子、「死んだ訳でも無いのだから、土下座してでも戻るなら幸せよ#!」と、
怒る直子の生い立ちに比べれば、大した事では無いのであった。
直子、「それにあんた幸せじゃない!、昔下ろした子供が、あんたの幸せを導いて、
こんなデカイ財産築かせて、まだあんたに貢献して、あんたを案じていたのだから」。
良子は急に泣き出し、「私がわがままだったのよ!、あの子に甘え過ぎていたのよ、
何でも言う事聞かせ過ぎた。
あの子だって、私が補った義理があるから、素直に私に従っていたのよ」。
直子、「あんたどうしたのよ?、なんでそんなに情け無くなったのよ?」。
良子、「へ?」。
直子、「先週までの良子、あ~ややこしいけど、あんたから言わせると、
43年前になるの?、物凄く賢くてテキパキ仕事をこなして、
寮でも私の男関係で、ちょくちょく男が寮に来ると、追い払っていたでしょ!。
『ここは女性寮で、男が来る場所じゃない#』って、
しつこく付き纏う男を、大分追い払ってくれたけど、
今のあんたは情けないわね~」と、呆れた。
良子、「は..春菜にはその事は、言わないでよ..」。
直子、「春菜には、言わなくて良いのね!」。
良子、「誰にもしゃべるな#!」。
直子、「縁の下の延棒くれたら、考えて上げるわよ!」。
良子、「解ったわよ」と、素直に応じた。
直子はコケタ。
そして、「ちょっと#!、貧乏暮らしの良子と、金持ち良子の差が激しいわね!。
断然貧乏暮らしの良子の方が、強かったわよ#!」。
人間捨てる物が無い方が、強いと言う証明だった。
良子は、またしくしく泣きながら、「今日春菜に言われたの、
『貧乏暮らしの良子さんの方が、良かった』って」。
直子、「私もそう思うわよ!、守りに入っていない良子の方が、頼もしく見えたけど」。
良子、「何が変わったのだろう?、私には理解出来ないのよ!」。
直子、「良子だけでは無く、この世の中があまりに便利過ぎて、
それに頼り過ぎで、身も心も貧弱に成っているのよ!。
それに人間臭く無いから、刺激も無さ過ぎて、熱くなれないのよ人生に!。
もっと人任せにしないで、世間に何言われ様が、自分が作り出す仕事を、貫き通さないから、
世の中就職難だのなんだの言っているけど、
人の顔色伺っては、他人と同じ様に並ばないと不安なんて言うから、
個性が無くなって、この面白味もへったくれも無い、世の中を造り出すのよ#!」。
良子、「そうか!、私は私を守り過ぎていた訳だ!」。
直子、「あんた本当にボケたわね!、そんな事も気付かないの?、年取り過ぎで」。
良子、「でももう遅いわよ、春菜は私から離れてしまったから..」。
直子、「あんた本当にボケが来てるわよ!、気付かないの?」。
良子、「は?何が...」。
直子、「あんたの産んだ、実の娘ではないのに、
あたかも産んだ母親以上に、生意気な口を叩くあんたは、
単なる春菜に義理と恩を着せた、悪い上司の様な存在だと、世間は見ているって言う事」。
初めてこの良子さん、自分を省みる事が出来た。
すると言い様の無い、切なさが込み上げた。
するとスクっと立ち上がって、このキッチンルームから出て行った。
それを見た直子は、「あの女、本当に根性無くしたわね!。
これだけ私に言われたら、もうとっくにタンスの上の、
洗面器が飛んで来るのに、あの頃の良子の方が、
喧嘩しがい有ったけどね」と、呆れてしまった。
その頃、春菜は。
杉浦家で晩御飯を食べていた。
香織、「春菜ちゃん遠慮しないで、いつも家に来るみたいに、食べてね」と、
とても嬉しそうに答えた。
春菜、「花嫁修業に来たのに、叔母さんに御馳走されてしまって、済みません」と、頭を下げた。
今日の晩御飯は、春菜の好きなオムライスだった。
杉浦、「花嫁修業に来たのだか、養女に来たのだか、まあどっちでもいいけど」。
大輔、「オヤジ、嫁さん二人になって、良かったじゃね~か!」。
香織、「そうね!、お父さんにとっては、どちらも嫁だったわね、アハハハハ!」。
杉浦父、「何だか複雑だね~」と、首を傾げた。
皆んなは笑った。
香織、「最初から、ここに避難した方が良かったのよ!。
結局、直子が居ようが、大輔が居ようが、結果的には同じだったでしょ!」。
大輔、「良子叔母さん、俺の話を聞く耳持たないけど、意外と俺と春菜の事を、
認めてくれてはいたんだぜ!」。
杉浦父、「良子さん、大輔の事は昔から好きなんだよ!。
だいたい賢パパがやんちゃで、大輔みたいなバイク好きの、
ぶっきら棒なのが好みだから」。
香織、「良子はね、ただ単に春菜を側に、置きたいだけなのよ!。
どの男性が来ても、同じ結果なのよ」。
春菜、「今日はもう、私もどうしようも無くて、最悪な結果を招いてしまいました..」。
香織、「聞き分けが無いからね!、すでに旦那に死なれてからは、
関係会社の天下だから、遣りたい放題で春菜を従わせて、
周りに威張り散らして、春菜が居なくなれば、魂抜かれた様なもので塞ぎこむでしょ」。
杉浦父、「関係者は解っていたけどね、春菜ちゃんを取り上げれば、
良子さんは大人しくなるだろ!って事は..」。
香織、「賢さんが生きてた頃は、良子もあんなに聞き分けが無い、
人格では無かったけど、春菜を会社に置いてから、
春菜が発想するデザインが、広く認められて来た頃から、
やけに鼻が高くなって来て、更に溜めに溜めた懐かしい物を売る店を、
バイパス沿いに出して、娘の春実ちゃんに経営させたら、
才能豊富な春実ちゃん、その知り合いの今日子ちゃん、
人材の伝が豊富な里美に経営させたら、瞬く間に繁盛したのよ、
それから現在の様に、高飛車になって行ったの」。
大輔、「市内では、春実と今日子と言えば、どの年代の暴走族の総長もビビル程、
ヤバイで有名だったから、最初に春実姉さんから、お声が掛かった時は、
いよいよ何だか知らないけど、俺に頭に来たかと思って覚悟したぜ!」。
皆んなは笑った。
春菜、「それで呼び出されて、指定された場所に行って見たら、
すでに立派なバイク専用の、ガレージが出来ていて、
『大輔!、姉さんからのプレゼントだ!、好きな様に遣れ!』って、言われたんだよね」。
杉浦、「あの家計は昔から、パパもママも考える前に、行動しているんだよ」。
そんな話で夜が更けていった。
春菜と杉浦父は屋上で、天体望遠鏡を夜空に構え、星を見ていた。
春菜、「星の輝きだけは、何時までも変わらないね」。
杉浦父、「そうだね、何だかこの頃日本の大気も、大分産業が淘汰して、
綺麗に星が見える様になって来たから、皮肉だよ!」。
春菜は望遠鏡を覗き、「北斗七星があんなに近くで、輝いて見れるなんて、
タイムスリップした時以来かな?」。
杉浦父、「大分43年前の望遠鏡で、覗いたく位の輝きに、近くなって来ただろ!。
あんな倍率の低い望遠鏡でも、最新のこの望遠鏡よりも、輝いて見えていたけどね」。
春菜はその時、思いに更けた、「良子さんも、あの時の様にもう一度、
輝いてくれたら、あんな威厳ばかり先に立って、
周りから敬遠されずに済むのに」と、俯いた。
隣で椅子に座り、夜空を見上げていた大輔が、「なって言ったらいいのかなぁ?、
舐められるのが嫌だから、虚勢を張っていないと居られないんだよ!。
でもそのギャップで、一人にされると脆いけど、そんな良子叔母さんを、
包んでくれていたのが春菜だったから、誰に嫌われ様と春菜が居れば、
百人力だった訳さ!」。
春菜、「私もそう思ってた。
でも..、お母さん私には優しかったから、私も甘えてたの」。
杉浦父、「以心伝心で来てしまうと、愛情も双方向で伝わるから、絆も生まれて、
お互い触れられたくない所は、言わないと言う事だ」。
大輔、「それは叔母さんが、気付かなければ、ならない事だと思うぜ!」。
するとそこへ、香織がやって来て、ホットコーヒーを、
ここに居る人数分入れて来て、お盆に乗せて皆んなに配った。
香織、「もう麻痺しているのよ、だから今日も見境無く、
自分の感情露にして、怒鳴り散らして春実ちゃんが大変よ!」。
杉浦父、「あ~あ、直子の問題よりも、困難な事が起きて、周りはパニックだよ!」。
春菜、「叔父さんあの時、私が地下室で一人で、仕分け作業している時に、
仕事をサボりたくて、私が出て来た物置に入って、タイムスリップ出来ないか、
試していたけど、この現代に降り立たなくて良かったね!」。
香織は笑った。
大輔、「あの叔母さんと、直子さん問題にいきなり直面したら、
その当時のオヤジは、なんて答えたかだな?」。
杉浦父、「それは決まってるよ!、ヤレヤレ ┐(´д`)┌ 」。
皆んなは、大笑いだった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。