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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
第2章 『黒猫の魔導王と、美食を求める乙女たちの行進 〜淀んだ大地を七色に塗り替えろ!〜』

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第84話:魔導の休息と、賢者のブラッシング

バールの夜は更け、窓の外からは街を巡回する衛兵の足音や、遠くの酒場から漏れ出る騒ぎ声が微かに聞こえてくる。

浴室から戻ったアリスとジャムが、湯上がりでさっぱりとした表情を浮かべる中、部屋の主導権は依然として、ベッドの中央で王のように振る舞うノアが握っていた。

「おい、アルマ。何を呆然と突っ立っておるのだ。先ほどの行軍で、我が至高の毛並みに付着した静電気の乱れが貴様には見えんのか? このままでは我の魔力伝導率が数パーセント低下し、明日からの真理の観測に支障をきたすぞ」

ノアが前脚をピンと伸ばし、肉球をアルマの方へ向けた。

「はいはい。要するに、ブラッシングしてほしいってことでしょ? 全く、さっきまで宇宙の掃除だなんだって言ってたのに、結局は私任せなんだから」

アルマは苦笑しながら、ケットル先輩の袋から、学園時代から愛用している魔導ブラシを取り出した。

これは毛並みを整えるだけでなく、付着した余分な魔力を除去するための繊細な道具だ。

「フン。我の手は宇宙の摂理を書き換えるためのもの。このような卑俗な作業に使うべきではない。ほら、そこだ! 耳の後ろの付け根、そこが地脈の結節点だ。念入りに解きほぐせ」

アルマが指示通りにブラシを動かすと、ノアは「ふにゃ……」と喉の奥で情けない音を漏らした。

先ほどまでの尊大な口調はどこへやら、耳をパタパタと動かし、尻尾をだらりと垂らして完全にリラックスモードに入っている。

「ノア様、先ほどまであんなに偉そうにしておきながら、アルマさんにブラッシングされると途端に締まりがなくなりますわね。まるで学園の図書館の裏にいた、ただの野良猫のようですわよ」

アリスが髪を乾かしながらクスクスと笑う。

「愚かな! これは高次存在による外部デバイスを用いた自己最適化だ。……あ、そこだ。もっと強く、真理を刻み込むように動かせ」

「はいはい、最適化完了まであと少しだからね。でも、本当にノアの毛並みって、この『循環の種』と同じで、触ってるとあったかいね」

アルマの手元で、机に置かれた『循環の種』がノアのリズムに合わせるように、静かに、そして優しく明滅していた。

種から溢れる琥珀色の光が、ノアの黒い毛先で跳ね、部屋全体に柔らかな魔力の波紋を広げている。

「種、喜んでる。ノアが丸くなると、循環が綺麗になる」

ジャムがベッドの端に腰掛け、その光の波紋を指先で追いかけながら呟いた。

学園の地下で見た、不揃いな自分たちの魔力が一つになったあの感覚。

過酷な外界での旅は、彼女たちの魔力をより鋭く、同時に深く結びつけていた。

「当然だ。我の存在そのものが、この世界の循環における最重要の媒介なのだからな。おい、アルマ。ブラッシングを止めるな。次は腹部だ。ここを撫でることを、特別に許可してやるぞ」

「あ、お腹見せた! ノア、完全に降参だね!」

キャスカが面白がって指で突っつこうとすると、ノアは「無礼者! 我の腹部は選ばれし者のみが……にゃぁぁ……」と、結局アルマの手のひらに負けて目を細めた。

学園という名の平穏を捨て、魔力枯渇という世界の絶望に立ち向かう調査団。

だが、この四人と一匹の間に流れる時間は、かつて寄宿舎のアルマの部屋で過ごした夜と何一つ変わっていなかった。

「明日からも、頑張ろうね」

アルマの言葉に、ノアは返事をする代わりに、満足げに喉を鳴らしてアルマの手をペロリと舐めた。

窓の外には深い夜が広がっているが、彼女たちが灯す循環の光は、明日への希望を確かに照らし出していた。

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