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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
第2章 『黒猫の魔導王と、美食を求める乙女たちの行進 〜淀んだ大地を七色に塗り替えろ!〜』

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第61話:真理の残響と、空腹の咆哮

「おい、小娘。断言するが、この静寂の支配者は、我らを有益な『音源』として品定めしているぞ。我の髭が、大気の震えを奪い、空間を真空の檻へと変貌させる、傲慢な知的悪意を捉えた。これは、静寂という名の冷めたスープに、我らという名の極上のスパイスを放り込み、永遠の孤独という名のメインディッシュを完成させようとしている兆候だ!」

一歩、また一歩。白く結晶化した森の奥へと進むにつれ、世界は不気味なほどに「平坦」になっていった。

足元の落ち葉は、踏めば確かに粉々に砕ける感触がある。それなのに、乾いた音ひとつ立てない。キャスカが鞘から引き抜いた剣も、銀色の閃光を放つだけで、空気を切り裂く風切り音さえこの森に奪われていた。

音が死んでいるという事実は、生命としての本能的な恐怖をじわじわと逆なでしてくる。

「(ノア、本当にやるの? ――こんな場所で生ハムなんて出して、音泥棒を誘い出せるなんて思えないんだけど)」

アルマは頭の中に直接響くノアの声に対し、必死にイメージを膨らませて語りかけた。音が消えた世界では、意思疎通はノアとの念話か、アリスが指先で描く光の文字を介するしかない。

「(フン。愚問だな。奴らは音に飢えている。だが、単なる雑音では満足せん。生命の根源的な欲望が放つ、魂を揺さぶるほどの強烈な響き。それこそが、奴らにとっての最高級のデザートだ。おい、アルマ。準備はいいか。巨大背負い袋の三段目、あの熟成生ハムの封印を解け!)」

アルマは内心で溜息をつき、ケットル先輩から譲り受けた多機能バッグの奥に手を伸ばした。厳重に封印されていた木箱を開けると、そこには脂身が真珠のように輝く極上の生ハムが鎮座していた。

その瞬間だった。

今まで地面を不気味に這い回るだけだった「黒い影」たちが、一斉に形を変えた。影は触手のように細長く伸び、生ハムから漏れ出る「香り」という名の微かな分子振動を嗅ぎつけたのだ。

「(キタッ! ノア、影が集まってくるよ!)」

「(フニャァァァ! まだだ、まだ耐えろ! 今、我の胃袋は空虚という名の真理に到達しようとしている。いいか、奴らが音を食らう瞬間、その絶対的な防御は一瞬だけ霧散する。そこを狙って、貴様の浄化シャボンに、我が胃壁が奏でる『絶叫』を詰め込んで炸裂させるのだ!)」

ノアは生ハムを食い入るように見つめ、喉を鳴らそうとする。しかし、そのわずかな喉の震えさえ、周囲の影が瞬時に吸い取っていった。

そして、森の中央にある巨大な白い空洞から、この沈黙の森の主――『静寂のサイレント・ロード』が、音もなく這い出してきた。

透明なクリスタルのような体を持つ巨大なクモのような姿。その透明な腹の中には、これまで奪ってきた森の音たちが、色とりどりの光の粒となって閉じ込められている。

静寂の王は、音を立てずにその鎌のような足を振り上げ、アルマたちを一気に切り裂こうと動いた。

「(アリス、ジャムさん! 今よ、シャボンに全魔力を注ぎ込んで!)」

アリスが純白の浄化の光を、ジャムが瑞々しい生命の魔力を、アルマの杖の先に集中させた。アルマは最大級のシャボン玉を展開し、その中心にノアと生ハムを閉じ込める。

その時だった。沈黙の世界を、内側から引き裂くような異変が起こる。

『グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

ついに、ノアの腹の虫が鳴った。

それはもはや単なる空腹の音ではない。「絶対に食う」という魔導王の執念が、音という概念を強引に書き換えた物理的な衝撃波だ。生ハムの香りとノアの飢餓感が混ざり合い、真空の森を無理やり震わせる「真理の咆哮」へと昇華した。

静寂の王が、その巨大な口を開け、ノアの腹から放たれた極上の音を飲み込もうと身を乗り出す。その欲に溺れた瞬間、無敵を誇った沈黙の結界に、目に見えるほどの亀裂が入った。

「(いっけぇぇぇぇ!! 奪われたすべての音を、今ここで取り戻せぇぇぇ!!)」

アルマの叫びと共に、ノアの腹の虫を核としたシャボン玉が炸裂した。音を食らおうとした王の口内に、浄化の光と「腹の虫の衝撃波」が逆流して流れ込む。

ドォォォォォォォォォォン!!

音のない森に、数百年ぶりとなる凄まじい「爆音」が轟き渡った。それは、閉じ込められていたすべての音が、一度に解放された瞬間の、歓喜の爆発のようでもあった。

「――っ! 聞こえる! 私の声が聞こえるわ!」

キャスカが自分の喉を触りながら、信じられないといった表情で叫び声を上げた。アリスも、ジャムも、自分の足音が地面に響く当たり前の事実に、顔を輝かせている。

しかし、戦いはまだ終わっていない。

「静寂の王」は核を砕かれながらも、奪った音を再び吸い込もうと、その透明な足を激しく暴れさせた。周囲の空間を再び白く凍りつかせ、無理やり静寂を押し付けようと抗ってくる。

「フン。おい、アルマ。我が腹の虫は、まだ一撃目を放ったに過ぎんぞ。仕上げだ! あの王が飲み込みきれなかった『真理の余韻』を、貴様の杖で一気に浄化のメロディへと書き換えてやれ!」

ノアは手近な生ハムの欠片を口に放り込み、力強く咀嚼しながら次なる指示を飛ばした。ノアが噛み砕く音さえも、今のこの森では王を削る強力な武器となる。

沈黙の森を舞台にした、音と光の狂詩曲。彼女たちのアンサンブルは、今まさに静寂の王との決戦のクライマックスへと突入しようとしていた。

「いくよ、みんな! この森に、本当の歌を取り戻そう!」

アルマの杖が七色に輝き、音を取り戻した森に新たな希望の旋律が響き渡る。静寂の王の体が、その光の音色に耐えきれず、激しく震え始めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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