第48話:地下の脈動と、見習いたちの結束
「……おい、小娘。断言するが、この学園の石畳の下では今、何者かが巨大な『ストロー』で世界の魔力を啜り上げている。……我の肉球が、地下深くで蠢く『循環の種』の、不規則かつ暴力的な心音を捉えたぞ。……これは、平穏という名のデザートが、メインディッシュ(大惨事)の前に片付けられようとしている兆候だ」
魔導院の調査官・ゼノンが去った後、アルマは急いで仲間のキャスカ、ジャム、アリスを呼び集めた。
学園の地下深く、通常は厳重な封印が施されている『循環の間』へと向かう螺旋階段は、冷たく湿った空気に包まれている。
階段を下りるごとに、壁に埋め込まれた魔導灯が不規則に明滅し、アルマの持つ杖が、見たこともないほど激しく黄金色の火花を散らしていた。
「……信じられない。私たちが砂漠から命がけで持ち帰ったあの種が、学園を飲み込もうとしてるなんて……」
キャスカが、腰の剣をミシリと鳴らして唇を噛む。
「……でも、エドワード先輩や学園長はどうしているんですの? ……こんな異常事態、放っておくはずがありませんわ」
アリスが不安げに周囲を見渡すが、地下回廊には彼女たちの足音以外、何の気配もなかった。
「(……フン。……おそらく、あのゼノンという化石の術中だろうな。……。……魔導院の調査官ともなれば、一時的に学園の全権を掌握し、外部からの干渉を遮断することなど容易い。……。……おい、アルマ。……。……前を見ろ。……扉の向こう側に、……この世ならざる『輝き』が溢れ出しているぞ)」
ノアが鋭く警告を発した瞬間、回廊の終着点にある巨大な鉄扉が、凄まじい風圧と共に吹き飛んだ。
「――っ!? ――みんな、伏せて!」
アルマが叫ぶと同時に、扉の奥から眩いばかりの、琥珀色の魔力の奔流が溢れ出した。
それは光でありながら、まるで砂嵐のように重く、触れた者の魔力を強引に引き抜こうとする『吸魔の旋風』。
「……膨らめ、拒絶のシャボン! ――外からの力に、負けないで!」
アルマが杖を突き出し、四人を包み込む巨大なシャボン玉を展開した。
砂漠の遺跡で培った「内圧の維持」の技術。外部の吸魔現象に対し、自分たちの魔力をシャボン玉の内側で循環させ、一方的に奪われるのを防ぐ防御壁だ。
「……。……。……。……見事だ、見習い諸君。……。……まさか、これほどの密度で魔力を固定できるとはね」
光の渦の中心に、ゼノンが立っていた。
彼の足元には、アルマたちが持ち帰った『循環の種』が、巨大な植物の根のように床を這い、周囲の魔力を吸い上げて、不気味に脈動する結晶体へと成長していた。
「……ゼノンさん! ――今すぐそれを止めてください! ――このままだと、学園の生徒たちの魔力まで吸い尽くされてしまいます!」
「……。……。……止める? ――いや、これは必要なプロセスなのだよ。……。……魔導院の結論は出た。……世界は今、枯渇に向かっている。……。……ならば、一度すべてを更地に戻し、この『種』を核として、新たな魔導の理を再構築せねばならん。……。……そのためには、この学園という豊かな『苗床』は、これ以上ない生贄なのだ」
ゼノンが冷酷に言い放つと、結晶体から放たれる吸魔の圧力が、さらに一段階跳ね上がった。
「(……おのれ、傲慢な老いさらばが。……。……世界を救うために世界を壊すと? ――笑わせるな! ――それは真理の探求ではない。……ただの『整理整頓』だ! ――アルマ、今こそ、貴様のシャボン玉が『欠陥』などではないことを、この時代遅れの老害に証明してやれ!)」
「……うん。……。……私、砂漠で学んだんだ。……。……魔法は、誰かを犠牲にするためにあるんじゃない。……。……誰かと繋がるために、あるんだって!」
アルマの叫びに呼応するように、キャスカ、ジャム、アリスが、アルマのシャボン玉の膜に手を添えた。
彼女たちの微弱な魔力が、アルマのシャボン玉を通じて一つに重なり、七色の輝きとなって地下空間を照らし出す。
「(……。……。……。……おい、ゼノン。……。……よく見ておけ。……。……貴様が『生贄』と呼んだ彼女たちの志が、……貴様の愛する古い魔法を、今ここから、根底から書き換えてやる!)」
ノアが牙を剥き、アルマの肩から黄金の粒子を放つ。
地下の最深部。
見習い魔法使いたちと、歴史を統べる魔導院。
世界の未来を懸けた、静かだが激しい『理』の衝突が、今、幕を開けたのである。
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