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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第34話:決戦前夜、秘密の買い出し部隊

「……よいか、小娘ども。そして新入生の迷い子たちよ。……明日の学年対抗戦、我らの前に立ちはだかるのは、魔法の天才ではない。……胃袋を直接揺さぶる、あの『眼鏡の料理術』だ。……奴は必ず、試合の最中に最高級のツナ缶、あるいは脂の乗った肉を投入してくるだろう」

決戦を明日に控えた夜。

学園の寄宿舎、アルマの部屋に、特訓を共にした八人と一匹が集結していた。

キャスカ、ジャム、アリスの二年生トリオに加え、リリ、レオ、ポプリ、ルルの後輩たち。

ノアは、アルマの机の上に積み上げられた「王立アカデミー・周辺商店街マップ」を肉球で叩き、厳粛な面持ちで告げた。

「(……そこでだ。……我らは今夜、学園の検閲を掻い潜り、王都で最も腹持ちの良い『高密度・超圧縮食材』を調達せねばならん。……戦いの最中に空腹を感じれば、我らの負けだ。……逆に言えば、試合開始時に胃袋を『真理の壁』で満たしておけば、奴の誘惑などただの雑音に過ぎん!)」

「ノア……それ、要するに『試合前に死ぬほど食べておこう』ってことだよね?」

アルマが溜息をつきながら突っ込むが、ノアの言葉に新入生たちは目を輝かせた。

「お腹がいっぱいなら……お肉の匂いにも負けない……。……素晴らしい作戦です、ノア先生!」

レオが感極まったように拳を握る。

「……でも、ノア。……寮の門限はもう過ぎているわよ。……風紀委員のエレーヌ先輩が見回っているはずだし、どうやって外に出るの?」

キャスカが窓の外を気にしながら尋ねる。

「(……フフ。……甘いぞ、なまくら剣士。……我を誰だと思っている。……この学園の構造解析(という名の抜け穴探し)において、我の右に出る者はいない。……アルマ! ――リリ! ――今こそ、あの『出汁のシャボン玉』の応用編だ!)」

ノアが指示したのは、アルマとリリの「シャボン玉」で、一行の姿と気配を包み込む『光学迷彩(および消臭)バルーン』だった。

「わかった! ――いこう、リリちゃん! ――膨らめ、隠密のシャボン!」

「はいっ! ――パフ・ステルス・バリア!」

二人が杖を振ると、部屋の中に巨大な透明の膜が広がり、八人と一匹を丸ごと包み込んだ。

この膜の中に入れば、足音も、そしてノアの隠しきれない「ツナへの執着心」という名のオーラも、外部には漏れない。

「(……よし。……これより、王都商店街『深夜の爆食いツアー』を開始する! ――目標は、一晩中腹に残るという伝説の『魔導餅まどうもち』、および『岩塩漬けの巨大マンモス肉』だ! ――突撃ィ!)」

一行は、シャボン玉に包まれたまま、夜の廊下を音もなく(実際にはノアの鼻息が凄まじかったが)移動し始めた。

夜の王都商店街。

昼間の賑わいが嘘のように静まり返った石畳を、透明な巨大な玉が転がっていく。

「(……見ろ、あそこだ。……二十四時間営業の魔導具店『ケットル屋』。……あそこには、職人ケットルが開発した、一度食べれば三日は空腹を感じないという禁断の非常食『テトラ・パン』があるはずだ)」

「(ノア……それ、食べ物っていうか、もう魔導具だよね?)」

一行が店に忍び込むと、案の定、店主のケットル先輩が徹夜でパチンコ玉を磨いていた。

「おや、アルマちゃんたちじゃないか。……こんな夜中に、透明な玉に入って何してるんだい?」

「(……職人よ。……説明は省く。……貴様の『テトラ・パン』を、八人分……いや、八人と一匹分、至急用意しろ。……対価は、このアルマが書いた『ノアのブラッシング券・十枚綴り』だ)」

「(ちょっと、ノア! 勝手に私の名前で券を発行しないでよ!)」

「がっはっは! 面白い、その取引乗ったよ! ……はいよ、これが特製テトラ・パンだ。……重いから気をつけてな!」

渡されたのは、見た目は小さな四角いパンだが、手に持つとレンガのような重厚感がある代物だった。

一口噛めば、口の中で魔力が膨張し、瞬時に胃袋を物理的に占領するという、まさに「空腹対策の最終兵器」だ。

その後も、一行は「マンモス肉の串焼き」や「超濃縮ヤギミルク」など、ありとあらゆる「重たい」食材を買い漁った。

リリもレオも、初めての深夜の買い出しに興奮を隠せない様子だ。

「……アルマ先輩。……なんだか、悪いことをしてるみたいで、ドキドキしますね」

リリが小さな声で囁く。

「……そうだね。……でも、これも明日の勝利のため……。……。……というか、ノアが食べたいだけな気もするけど……」

深夜二時。

全ての調達を終え、一行は再びシャボン玉に揺られて学園へと戻ってきた。

だが、校門を潜ろうとしたその瞬間、月光を反射して光る「眼鏡のレンズ」が、彼らの前に立ちはだかった。

「……。……おかしいね。……この空間、湿度が0.03パーセント上昇し、かつ『高カロリーな炭水化物』の共鳴反応が検出されている」

エドワード先輩が、夜食のカップ麺(魔導式)を手に、門の前で佇んでいた。

「(――っ!? ――しまっ……! ――あの眼鏡、深夜の夜食タイムに出くわしたか! ――アルマ、シャボンの出力を最大にしろ! ――存在を消すのだ!)」

「(む、無理だよ、ノア! 荷物が重すぎて、魔力が安定しないっ!)」

シャボン玉が、プルプルと震え、今にも弾けそうになる。

エドワードがゆっくりと眼鏡を指で押し上げ、一行がいる「何もないはずの空間」を見つめた。

「……。……まあ、いいか。……今夜は、私も『最高級の煮干し出汁』に集中したい気分だ。……明日の朝、君たちがどれほど『重厚な胃袋』を持って現れるか、楽しみにしているよ」

エドワードはそう呟くと、それ以上は追及せず、闇の中に消えていった。

「(……ふぅ。……危ないところだったな。……眼鏡の奴、わざと見逃したのか、それとも単にカップ麺に夢中だったのか……)」

「……どっちにしても、助かったよ。……さあ、みんな。……明日の決戦に備えて、この『テトラ・パン』を胃に詰め込んで寝よう!」

「おーっ!!」

こうして、最弱パーティと後輩たちは、翌日の「空腹の罠」に対する完璧な(?)備えを完了した。

だが、彼らはまだ知らなかった。

テトラ・パンの「三日間空腹を感じない」という効果が、翌朝、彼らの身体を想像以上に「重く」し、物理的な動きに支障をきたすことになろうとは。

「(……うぷっ。……。……アルマ。……。……我、……少し……食べ過ぎた……かもしれん……)」

「(……今更遅いよ、ノア!!)」

決戦の朝は、すぐそこまで迫っていた。

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