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追放者ファリン、宣戦

「お前は何者だ? それに、なぜ我らを襲う?」微笑を浮かべる影と対峙したクレッサ女王が、ついに声を叩きつけた。


その男は顎を上げ、嘲りを深める。「忘れたのか? お前の亡き伴侶が、渾身で打ち倒そうとした男を?」と、狡猾な響きを帯びて言う。


クレッサの瞳が見開かれる。しかし口を開いたのは、次の瞬間、モルガナだった。


「……ファリン。違うかしら?」問いというより糾弾のような平板な声。


男はキュラ、カエル、アストラ、そしてモルガナへ目を走らせる。嘲笑はやがて懐旧の笑みに変わった。「モルガナか? 本当にモルガナなのか。ずいぶん大きくなって……おいおいおい。で、こんな所で何をしている?」骸翼の奇妙なフェイ――ファリンが首を傾げる。


モルガナは顎を引き上げ、腕を組む。つい先程までファリンが取っていたのと、驚くほど同じ構えで。「それはこっちの台詞よ、ファリン。出てきた理由を、説明してもらえる?」冷ややかに迫る。


ファリンは片眉を上げ、口角を釣り上げた。「……モルガナ。お前、父親そっくりになったな。冷徹で、要点だけ」短く笑い、首を振る。モルガナは顎を固く保ち、氷の視線で射抜く。彼は頭の先から足先までを眺め、薄笑いを絶やさぬまま呟く。「――答えを聞くまで、引かない顔だ」


モルガナは沈黙する。ファリンはさらに一度首を振り、乾いた笑いをこぼした。アストラは隣のキュラへ困惑気味に目配せをする。アッシュボーンの頭――に見える男が、のうのうとモルガナと雑談しているのだ。


「誰なんだ、あいつ?」アストラが囁く。キュラは肩を竦めるしかない。


クレッサ女王が再び声を発した。怒りと戦慄の理解が鋭く混ざった声で。「ファリン……ファリン! 追放されたはずでしょう! イグニス卿が“お前の面倒は見る”と誓った!」と叫ぶ。


ファリンの邪悪な笑みが戻り、女王へ視線が据えられる。その眼差しの純粋な悪意に、クレッサは思わず身を引き、二人の近衛がすかさず前に出て氷杖を構えた。


「そうとも、イグニスは“面倒”を見てくれた!」ファリンは嘲る。声が一段高くなる。「イグニス! フフ……フ、ハ――」狂気じみた独白に堕ちかけた瞬間、アストラの視界の端で、モルガナの顎の筋がぴくりと強ばり、両拳が脇で固く握られる。


「ファリン。追放の条件に背いたわね」モルガナの声が、その笑いを断ち割った。


ファリンは振り返る。先の柔らいだ表情は消え、おもては厳しく尖る。「どうする? お前が俺を罰するか? 父上と同じく、もう一度追放すると?」嘲弄を滴らせて言う。骸の翼が苛立ちに震えた。短い張り詰めた沈黙――ファリンは視線でモルガナをねじ伏せようとしたが、最後に瞬きを一つ、怒りに顔を歪めて首を振った。


「必要とあれば」モルガナの声音は刃のまま。


ファリンの歯と指が軋む。「そうか。やはり父親の焼き直しだ。――己の“血族”をも、躊躇なく迫害する」歯の隙間から唸る。


その棘が刺さったことを示す唯一の徴は、モルガナの上唇がわずかに痙攣したことだけだった。


クレッサ女王の視線は、モルガナとファリンの間を素早く行き来する。覚悟を固め、前に出た。「お前の因縁は私にあるのでは、ファリン!」女王は声を張る。彼の意識を己へ引き戻す。


ファリンは女王へ目を移し、薄く笑って瞼を閉じる。「では――最初はお前だ」瞳が開き、パイロ・フェイ特有の内なる火が灯るようにぎらつく。彼は踵を返し、モルガナへからかうように片手を振って見せた。「モルガナ。会えて嬉しかったよ。――こういう終わり方で残念だが」そのままアッシュボーンの群れへと溶け込み、最後にほとんど聞き取れない声で命じる。「片づけろ」


「ファリン!」モルガナは炎剣を握り直し、怒りを噴き上げて叫ぶ。


アストラは跳ね起き、遺物の左手で巨刃を固く握る。キュラは構えを落とすことなく、低く身を沈めた。クレッサ女王は近衛に引かれて前線から下がり、カエルは杖を呼び出して突き構える。アッシュボーンが唸りを上げて殺到した。フロスト・フェイは一糸乱れず杖を下げ、列に波紋が走る。怯えはしても崩れない。鋭い氷の穂先がびっしり並ぶ“壁”が、魔の群れを拒む。悪魔が突っ込めば、戦士たちは震えながらもその場で受け止めた。


戦いは再燃した。突き刺されるアッシュボーンの屍を越え、さらに数え切れぬほどが押し寄せ、疲弊したフロスト・フェイに襲いかかる。モルガナは咆哮とともに斬り払い、その一撃ごとに悪魔を灰へ変える。母のもとへ駆け寄ったカエルは、しかし近衛に護られながら戦局を見極めた。アストラとキュラは背中合わせに一体ずつ確実に落としていく。アストラが胸を横一文字に裂き、キュラが蹴り飛ばす。すぐさま二体が左右から挟み込む。モルガナは数歩押し戻され、援けられない。キュラは鉤爪を潜って脇腹へ蹴りを打ち込み、アストラはもう一方の棍棒を剣で受け流す。振り返りざま、彼はキュラ側の足を刈る――が、目が見開かれる。巨躯のアッシュボーンがキュラを掌で掴み、宙へ持ち上げたのだ。悪魔はキュラを中庭の向こうへ投げ飛ばす。アストラが駆け出す。


アストラは短く叫び、急制動から反転して彼女を追う。凄絶な投擲の勢いで、キュラは戦場をまろび抜ける――が、空中で体を返し、二足で着地。混戦の間隙を縫ってアストラが走り寄り、彼女の腕を取って立たせる。キュラはすぐさま「大丈夫」と手を振る。


「……勝ち目がない! 多すぎる! 強すぎる……」轟音の中でも、キュラの声はアストラの耳に届いた。


アストラは周囲を見回す。彼女は正しい。絶望が、戦士の顔に刻まれ始めている。囲まれ、数で圧され、力でも劣る。――援軍が、今すぐ必要だ。


そのとき、城塞がぐらりと揺れた。フロスト・フェイもアッシュボーンも、戦いの途中で一斉に動きを止め、驚愕に顔を上げる。崩れ落ちた巨大な天板の残骸が、ふたたび震えた。


「今度は何だ!?」アストラが叫ぶ。


直後、巨大な電撃が落ち、崩落した天板の周囲を“雷の縄”のように取り巻く。天井は壁から持ち上げられ、空へと運ばれていく。誰もが信じられないものを見る眼で、宙を舞う屋根を仰いだ。やがて原因が見えてくる。上空にホバリングするストーム・フェイの騎兵が、サンダーバードの背にまたがり、槍を下げて連続的に雷を流し込み、巨大な荷を牽き上げていたのだ。天板は城から離れた方角へ押しやられ、地を鳴らして墜ちる。


ストーム・フェイが降下を始めた。最初に着地したのはジャレクとゼヴ王。サンダーバードに跨がる彼らの侵入は、まさに空からの強襲だった。ストームとフロスト――二つの軍が肩を並べ、劣勢の均衡を押し返しはじめる。ジャレクは槍で進路を穿ち、目につく悪魔を穿ち貫きながら、アストラとキュラのもとへたどり着く。


「モルガナはどこだ!」到着するなり、喧騒に負けぬ声で問う。


「分からない! 散り散りになった!」アストラが答える。


「畜生」ジャレクは吐き捨て、二人を一瞥。「無事か?」


「平気!」キュラが短く返す。


ジャレクは頷いた。「よし。気をつけろ」そして踵を返し、モルガナを求めて混戦へすぐさま飛び込んでいった。


キュラは打ち、アストラは斬る――だがアッシュボーンの奔流は止まらない。押し返すには至らずとも、連合したフェイの列は辛うじて前進を阻む。闇の泉から尽きることもなく湧き出るかのように、魔はなおも現れる。焦燥を抱えたジャレクが捜索を続けるあいだ、アストラとキュラはその場を守り切る。


行く手を二体が塞ぐと、ジャレクは槍で突き穿ち、投げ捨てる。唸り声とともに群衆をかき分ける。鋭い橙の瞳が左右に忙しく走る。朱の閃きを視界の端に捉え、彼は反射的に目を向けた。ちょうど、モルガナがアッシュボーン五体を押し退け、城塞の破れた出口から外へ消えるのが見えた。ジャレクは出口へ向かって疾走する。だがその刹那、背中の翼を掴む粗い手――アッシュボーンの爪。悲鳴を飲み込み、体勢を立て直す。振り返って腹を一突き。魔はよろめき、唸る。右上の翼に浅い裂傷――だが致命ではない。フェイにとって翼は最大の弱点、時間を食ったのは痛恨だ。


残る距離を駆け抜け、破口へ――そして、そこで足が止まる。外には、整然と並ぶアッシュボーンの大軍。高い山肌にまで列が張りつき、谷間を隙間なく埋め尽くしている。これが本当の数だ。フロスト、パイロ、ストーム、アクア――四軍を合わせても及ばぬ規模。自分が、この巨大な待ち受ける力の前に、丸裸で立っている事実が、遅れて全身を打つ。棍棒が唸り、一本がジャレクの頭上を薙いだ。彼は怒鳴り、身を反らしてかわす。投射武器の雨を必死に避け、槍の腹で敵の顔面を叩き割り、城壁外周を沿って走る。


――モルガナはどこだ。こんな地獄で。ジャレクは悪態をつきながら、なおも彼女の影を追った。

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