それぞれの独白
~~~~~オットゥーレンザ・カレントストーン視点~~~~~
いやはや、入学早々大変な状況になったものだ。
ただでさえ成人済みの身で学園に通うのは肩身が狭いというのに、実技試験の結果が散々だったものだから針の筵の気分だな。
まあ学園内でどれだけバカにされようとも我慢はできるが。
……問題は、このまま実戦試験まで赤点をとってしまい退学にでもなろうものなら、今度こそ母上に殺されてしまうということだ。いや冗談抜きで。
アニザが赤点をとった時も一度目は勘弁してもらっていたが、二度目にはボコボコにされていたしな。追試で合格していなければ本当に命がなかっただろう。
その対策として、ラインの口車に乗る形で魔法の鍛錬を続けているが……。
正直言って、かなり楽しいと感じている。
ラインに回路を解放してもらって以来、これまでなんとなくでしか操れていなかった植物たちを、まるで統率の取れた軍隊のように指揮することができるようになってきた。
植物たちにも個性があり、積極的に蔓や幹を振り回して攻撃するのが得意なもの、待ち伏せして罠にかけるのに長けているものなど、適切に運用すれば一方的に相手を蹂躙できる。
気のせいか、植物たちの意思のようなものも感じ取れるようにも思えてくるから不思議だ。
時々、気を利かせるように指示にない行動をとることもあるし。単にまだ上手く扱えていないだけかもしれんが。
……今度の実戦試験には軍事部門の全生徒が参加することになっている。
当然、アニザの班も。
我々に必要なのは圧倒的な好成績。
それこそ、他全ての班を蹴落としてでも一等賞を獲らなくては退学は免れない。
そうなればアニザも無事では済まないだろうが……。
私もまだ死にたくないので全力で潰させてもらう。
……ホントにスマン。許せアニザ。
~~~~~ゴルディア・シャルクル視点~~~~~
『死ぬとこだった』
ここ最近オレの中でトレンドになってるセリフ。
比喩じゃない。油断してると本当に死ぬ。タスケテ。
なーんでオレ、こんなに頑張ってんだろうな?
オレには特別な才能なんかない。
努力なんて無駄ムダ。んなこたぁこれまでいやってほど思い知ってきたことだろうが。
ただブラブラと気ままに楽しく学園生活を送れればそれでよかったのに。
なんで、今更になって……。
オレは侯爵家の面汚しらしい。
面と向かってそう言われたわけじゃないが、多分親父もお袋も弟もじいやも使用人たちも誰も彼もそう思っていることだろう。
……なんせ婚約者にすら愛想尽かれた挙句、そのまま婚約解消されたバカヤロウだしな。
オレの魔法適性は『風』と『構築』。
オレの回路を解放した魔術師いわく、『風』の才能はまぁぼちぼちだが『構築』のほうは未知数だとか。
構築魔法は魔力でできた道具や武器を作り出す魔法だ。
一応それなりに鍛えてはみたものの、せいぜいフォークみたいな小さく単純な道具を作るので精いっぱいだった。
なんせ構築する物体のイメージが少しでも破綻すると不格好な道具しか作れないからだ。
一から設計図を頭の中で組み立てて、それを形にするってのはものすごく難しい。
まだ手作業で木でも削って作るほうがよっぽど楽なくらいだ。
『本当かどうか定かではありませんが、大昔の構築魔法使いは鋭く立派なヒレを張って大海原を駆けたり、またある時は大きな翼を広げて大空を我が物の如く飛び翔けたらしいです』
『そうか……! なら、オレにも同じことができるかな!?』
『もしもできるのなら、とても素敵でしょうね』
可愛い婚約者にいいトコ見せようとして『君のためならなんでもできる』『いつかこの魔法で背中にでっかい翼を作って、君と一緒に大空を飛んで見せよう』なんてバカな約束しちまって。
翼どころか羽一本作ることすら難しい。翼なんて一生作れる気がしないのに。
それでも意地になって何度も何度も練習した。
婚約者から『少しだけでもいいから会いたい』『次はいつ会えますか』と逢瀬の催促の手紙が送られてきても、翼を作って空を飛べるまでカッコ悪くて会うわけにはいかないと思って……。
バカヤロウが。
空を飛ぶだなんて、んなもんあの子だって本気にしちゃいなかっただろうに。
『うそつき』
『私のためならなんでもできるって言っていたのに』
『なぜ、会ってくれなかったのですか』
『私は大空を翔る翼よりも、ただ目の前にあるあなたの顔を眺めながらお話したり、一緒に過ごしたかった』
ただ俺と一緒に時間を過ごしたいという彼女の意思よりも、彼女にいいトコ見せたいだなんてバカな見栄を優先したせいで愛想尽かされてやんの。
そりゃ見限るに決まってんだろ。
バカが。オレは世界一の大馬鹿だ。
当時まだ一桁のガキだったことを差し引いても、言い訳の利かないバカっぷりだ。
婚約者に見限られてから、何をしても虚しく感じた。
同年代の奴らから『魔法もロクに使えない落ちこぼれ』とか言われても、その通りだと受け容れればこれ以上深く傷つかずに済むから、本当にただの馬鹿なドラ息子として振舞うようになった。
親身に忠告を繰り返す家族や従者たちからも呆れられて、いつしか苦言以外になにも言われなくなっていた。自業自得だ。
……それでもコソコソと自室で女々しく構築魔法の練習は続けていたが、もう空を飛ぶ翼のことは諦めていた。
そして、今。
「いぎゃぁぁぁああああああああ!!! 死ぬぅぅううううううう!!!」
「るっさいわよゴルディア! 喚いてないでさっさと風魔法とかストッパーになりそうな適当な板でもなんでも作りなさい! もたもたしてるとホントに死ぬわよ!?」
現在、オレは空を飛んで―――
否
落ちてるだけだ、カッコ悪くな。
「な、なんとか、自力で着陸できたわね……」
「……死ぬかと思った……」
土ぼこりに塗れながらなんとも無様な不時着だったが、どうにかケガ一つせずに着陸できた。
酷いもんだ。元婚約者が見たら呆れるのを通り越して失笑することだろう。
だが確かに、積み上げてきたものが大きく実を結ぼうとしていると実感できるのは、悪くない気分だった。
~~~~~リーリャ・クライン辺境伯令嬢視点~~~~~
いける、いけるわ!
このバカとの共同作業だなんてどんな悲惨な有様になるかと思っていたけれど、これが完成すれば絶大な成果を上げられる!
そう確信できるほどのポテンシャルがこの魔法にはあるわ!
これなら間に合うわ……!
実戦試験にも、そして東ザイドルによるクライン領への侵攻にも間に合う!
……待ってて、お母様、お父様。
私も姉様や兄様のように、立派に戦ってみせるから。
クライン領は魔法学園やこのマオルヴォル領と同じく、『ツチ王国』に属している辺境の領。
他の辺境伯に比べてさほど重要視されているわけじゃないド田舎。本当の意味での辺境ってわけ。
王国からしてみれば良くも悪くもない、極々平凡な領地。
でも、侵攻しようと画策する東ザイドル帝国からしてみれば、土地とヒトが豊富ならそれで充分。
土地は無理やり開拓して違法薬物なんかの材料を栽培する畑になるし、領民はそのための労働力……つまり奴隷にとして使い潰せる。
奴らにとって元々住んでいた住民やその文化なんてゴミとしか思っちゃいない。
現にクライン領の隣にあった国も、今は東ザイドルの植民地として支配下に置かれて悲惨な状況だとか。
そして今にもクライン領にもその魔の手が伸びようとしている。
新聞の記事に書かれている内容が日ごとに余裕がなくなってきていることを告げているのが分かる。
お父様が必死に抑えてくれているみたいだけれど、そろそろ限界が近いのは誰の目から見ても明らかだわ。
『仮に東ザイドルと戦争になった時、お前は足手まといになる。姉や兄のように強力な魔法を使えない未熟者だからな』
『だからさっさと荷物をまとめて出ていけ。邪魔だ。魔法学園へ入学すれば保護くらいはしてもらえるだろう。支度金くらいは出してやる』
『……おそらく、そう遠くないうちにお前は平民に落ちるだろう。その前にせいぜい地位の高そうな相手に媚びを売って庇護においてもらうなり、諦めて平民として慎ましく生きるなり勝手にするがいい』
『さあ、分かったら早く行け! 二度と戻ってくるんじゃない!!』
別れ際にお父様が告げた、最後の言葉。
何も知らない者からすれば、一見我が子を見放した厳しく冷たい言葉のように聞こえるでしょうね。
本当は、優しさに満ちた別れの挨拶。
これから死んでいく自分たちの運命に巻き込まないために、あえてそんな言い方をしているのだと嫌でも分かってしまった。
……だって、そう怒鳴って踵を返した後に顔を拭った袖が濡れているのが見えたもの。
絶対に死なせない、死なせたりするもんですか!
東ザイドルの蛮族どもなんか、これが完成したら蹴散らしてやるんだから!
それで、お父様にズバッと一言言ってやらなきゃ気が済まないわ!
待ってなさい!
~~~~~マー■■■■・■■・■■■■■視点~~~~~
どうしようどうしようどうしよう。
どうしたらいいの、どうすればいいの。
このままじゃ足手まといになってしまう。
このままじゃ、このままじゃ……!!
「よう、しけたツラしてんな」
「!?」
頭を抱えて、独りで座り込んでいると聞き馴染んだ声が耳に入ってきました。
顔を上げると、青い瞳の可愛らしい女の子の顔が……。
「ライン、さん」
……違いました。同僚の男の子、ライン・マオルヴォルさんです。
可愛い顔を雄々しく歪めて笑いながら、隣に座って話しかけてきました。
「どうしたよ、そんなゲームでセーブし忘れたまま電源落としたみたいに落ち込んで」
……言っていることの意味はよく分かりませんが、私を気遣ってくれているようです。
「いえ、その、わ、私、やっぱり、ダメかもしれません……」
「なにが? え、なんかあった?」
「何度も……何度も、自分から立ち向かおうとしても、どうしても手が出せなくて……」
「あ、鍛錬の話? あー、まあ確かに自分から攻撃できねぇってのは欠点かもな」
「ラインさんは、最悪逃げ回れればいいって言ってくれましたけれど……どう考えてもそんなわけないですよね……」
「……どうしてそう思った?」
今度の実戦試験で、私はラインさんの護衛役を務めるように言われました。
身体操作魔法を使い、文字通り肉の盾となり彼を守り切らなければなりません。
そうなると、逃げたり守るだけでは不十分です。
高速化魔法は確かに強力ですが、もしもそれを無効化するような魔法や道具を使われれば素の状態で立ち向かわなければなりません。
そしてラインさんが言うには、自分を脅威とみなす者からほぼ確定で対策をされるだろう、と。
「……いくら魔法で頑丈になっても、対策なんていくらでもとれます。こちらから相手を無効化する手段がなければ、いずれやられてしまうでしょう」
「だろうな。まあ、俺も攻撃できなくはないんだが……『加速』魔法はキッチリ魔力を消費するから弾数は限られてるし、ジリ貧になる可能性は低くねぇ」
「なら、私がやらなきゃいけないのに……どうしても、どうしても、手が、動いてくれなくてっ……!」
私が悪いのに。
相手に手を出せない私が悪いのに、なんでこんな被害者ぶって泣いているんでしょうか。
……私は、卑怯者の、最低な人間です。
だから、私は……私なんか……。
「だから私なんかじゃダメですってか? 俺はそうは思わねぇがな」
「……なぜ、ですか?」
そう問いかけると、ラインさんが立ち上がったかと思ったら私の前へ片膝をつき、跪くような姿勢になりました。
なんのつもりでしょうか、と首を傾げそうになったところで、神妙な顔で語りかけ始めました。
「そのダメだと思うご自身、そして御母堂様の状況を変えようと頑張ってきたんでしょう? 王女様」
「……え」
「マール……いえ、マーリュシア・ツチ・グラウンド様。あなたの努力は決してあなたを裏切らない。それを試験で証明してみせましょうではありませんか」
私の本当の名前を口にしながら、不敵に微笑む彼の顔は……かつてあの時、鏡に映った私の笑みによく似ているように見えました。
……ついに突き止めてしまったのですね。
私が平民ではなく、この国の第三王女だということを。
お読みいただきありがとうございます。
別に試験に臨む理由が軽い順とかではないです。はい。




