81.呪う?救う?
真実が明かされていく中、ルイス殿下の具合が悪くなり…
ルイス殿下の顔色はまだ悪く私の手を離さない。こんな時なんて言ってあげれば良いのか分からない私。静かな部屋で殿下と2人っきり。
少し前なら殿下と2人っきりなんてあり得なかったが、病の事を知りショックを受けている殿下を放っておけ無かった。
「私は…次期王となるべく努力し、この国の平穏を守る我が一族を誇りに思っていた。しかし我が身に巣くうこの病の真相を知り、全てが崩れ去ってしまった」
殿下はそう言い肩を震わす。私より大きい殿下は闇夜に怯える子供の様だ。
『今は慰めも励ましも違う気がする』
そんな事を考えながら殿下に寄り添っていると、少しずつ殿下の手の力が抜けてきた。
安心していたら程なくしてジン様と父様が部屋に戻り、少し間を置いてリアンド殿下とディック様が戻り再開する。
そして今度は父様がバンディス家の歴史を話しだす。話した内容はバンディス領の歪みの森が元はヤマト一族の村だった事。そしてボルディン家がヤマトの民を襲った後に大陸を統治し初代王となったと話した。
「ヤマトの一族はボルディンに与する事を拒み、当時のバンディス家当主はボルディン家に協力しヤマトの村を襲撃。襲撃を受けたヤマトは一夜にしてこの世界から消えてしまった」
「消えたとはどういう事ですか?」
驚いたディック様が聞くと咳払いをした父様は眉間に皺を深めこれ以上は話せないと言った。やはり全てを知ってもらうには陛下に話してもらう必要がある様だ。
座り直した父様は次に血の病が発症した経緯を大まかに話し、次に漆黒の乙女の召喚の話をする。そしてバンディス家の娘が贄となり、異世界から漆黒の乙女が渡ってくると話した。
途端に3人は顔色を無くす。そしてルイス殿下は急に立ち上がり深々と頭を下げ
「私達を救う為に大切な娘を贄し、救ってくれた事を感謝する。…いや感謝でなく謝罪すべきだ」
「殿下。王族が家臣に頭を下げてはなりません」
父様はそう言いルイス殿下に頭を上げる様に言うが、ルイス殿下は何度も謝罪を繰り返した。するとリアンド殿下とディック様も謝罪する。
少し困った父様は
「貴方方が何か過ちを犯したのではなく先祖の業を背負ってしまったのです。見方を変えれば被害者でもある。それに陛下の許可なく話す事は出来ませんが、ヤマト迫害は我が家も関与しているので…報いだと思っております」
その言葉にやっと皆さん頭を上げ気まずそうに着席する。こうして父様の話も終わり真相を知ったお三方は心なしか窶れている。取りあえず病の経緯が分かり、次はどうすればこの負の連鎖を断ち切れるか考えだしたようだ。暫くの沈黙の後に
「この病がヤマトの民の呪いだとしたら、何故ヤマトの血を引く乙女が遣わされるのでしょう。呪いたいのか救いたいのか真意が分からない」
首を傾げたディック様がそう言うと、ジン様と父様は全ての文献を調べたが知る事はできなかったと言う。話は行き詰まり皆さんが考え込んでしまい、応接室は嫌な沈黙が続き物音ひとつたてれないくうきだ。
どの位経ったのだろう。その沈黙を破ったのがリアンド殿下だった。
「これ以上の情報は無さそうですね。ボルディン王に窺うか…若しくは先代の乙女とユーリの日記を先に調べた方がいいのかもしれません」
リアンド殿下のその言葉に父様が難色を示す。
『そんなにユーリの日記はヤバいものなの?』
あまりにも父様が渋るから皆さんの表情が曇る。するとルイス殿下が陛下から借り受けたアイーナの日記を開示するといい、明日また集まる事になった。取りあえず今日はこれ以上の話は出そうになくお開きにしようとジン様が話すとディック様が
「ミーナ嬢や他の乙女が渡って来た時に、何か託された物は無かったのですか?」
「!」
ディック様はヤマト側が意志を伝えてきたもおかしくないと話した。確かに呪うだけでなく救おうともしているのだ。何か意図が有るはずだ。するとディック様の言葉を聞き父様が
「先代までの乙女が渡って来た時の所持品は残っておりませんが、ミーナがこちらに来た時の所持品は保管してあります」
そう言い父様が席を立つとジン様も立上り、あっという間に退室してしまった。恐らくあの隠し部屋に行き、召喚時に私が持っていた荷物を持ってくるのだろう。
暫くすると父様が戻りテーブルにあの箱を置き開けると3人が覗き込む。所持品は以前あの部屋で見たが、メッセージらしきものは無かったはず… 父様の許可を得た3人は所持品を手に取り
「このぬいぐるみの腹部が固い。何か入っているのでは?」
リアンド殿下がぬいぐるみを触りそう言うと、ぬいぐるみから音がし驚いたリアンド殿下はぬいぐるみを落とした。落ちたぬいぐるみは私の足元に転がり無意識に拾い上げると、またぬいぐるみから音がし
『ƑƂƢƲƳХЕегѥѳƤ』
聞いたことも無い言葉に皆さん首をかしげる。でも何故か私にはその言葉が分かった。
「何故理解できるのかは分かりませんが、恐らく"中を見てみて"と言っているのだと思います」
そう言いぬいぐるみのお腹の辺りを探る。堅い物が入っているが何か分からない。ぬいぐるみを凝視していたら横で見ていたリアンド殿下がぬいぐるみの背中部分を撫でる。すると
「ここは他の縫い目と違い縫い合わせの部分が分厚い。ここから開くのでは?」
そう言い背を何度も撫で、背の縫い合わせを指でつまみ引っ張ると
”ベリベリ”
と聞いたことも無い音がして背の部分が開いた。中を覗き込むと堅く白い箱状の物と、ハンカチ大の布切れが1枚出てきた。それを手に取ったジン様は驚いて
「この布には文字が刺繍されておる」
そう言うと慌てて部屋を飛びだしていった。そしてぬいぐるみに入っていた白い箱を取り出すと、ディック様が多方向から観察し音の出る仕組みを調べていた。その横で父様と私は布に刺繍された文字を解読しようとしたら
「こっこの本を使い翻訳なさい」
息を切らし戻ってきたジン様はそう言い分厚い本を父様に渡した。その本の背表紙には【ヤマトの文化と歴史】と書かれ、ジン様があるページを開くとヤマトの文字が載っていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。
Twitter始めました。#神月いろは です。主にアップ情報だけですがよければ覗いて下さい。




