79.虚け者 ~ルイス目線~
ミーナが王都に戻った事を聞いたルイス。ミーナに会うために町屋敷に向かい…
「殿下。急ぎお伝えしたい事が…」
執務室で書類整理をしていると文官が入室許可を得ずに入って来た。執務中は集中するために火急の用向き以外の入室は許可していないというのに一体何があったのだろう。
「真か!」
ロダンダの屋敷を見張らせていた間者から、ミーナ嬢が屋敷を出て王都に向っていると知らせが入る。あと数日で最後の治療だ。早くて前日に王都入りすると思い準備はしてあったが、まさかこんなに早いとは。何かあったのだろうか?
ティムを呼び直ぐにバンディス家の町屋敷に向かう準備を指示し身なりを整える。
私はボルディン王国の王太子であるルイス。ボルディン王国の歴代の王子に現れる"血の病"を患っている。
この病は謎が多く全ての王子が罹る訳ではない。しかし運悪く発病した場合、神のご慈悲により病を治してくれる"漆黒の乙女が"このボルディンの地に現れ、病を治しこの国に繁栄と安寧を齎せてくれる。
代々この病を患った王子は完治後、必ず乙女を娶っている。慣例に伴い救ってくれたミーナ嬢との未来を夢見てきた。
「これが最後の治療か…長かったな…」
バンディス家の町屋敷に向かう馬車の中でそう呟き自分の足元を見た。治療は足の甲もしくは足首一か所を切り、そこに乙女の血液を流し込む。何度も同じ場所に処置する為、幹部の皮膚は堅くなり色素沈着したいる。傷は数センチで傷も浅く直ぐに治るが痛い。幼い頃はそれが嫌で逃げ回っていたのを覚えている。しかし治療を受けると悪かった体調もすぐ回復。成長と共に治療の重要性を理解し、あの痛みにも耐えれるようになった。まぁ…耐えれるようになった理由が他にもあり
『乙女は我らの為に身を傷付け血を与えてくれていると知ってからは、あの痛みも我慢できるようになったんだった』
そう乙女はいたって健康なのに、毎回傷を作り血を提供してくれているのだ。感謝しても仕切れない。だから病が完治したあかつきには私の手で乙女を王国一幸せにして差し上げたい。ずっとそう思い過ごしてきた。
彼女は私達に血を分け与える為、怪我や病気をしない様に領地の森の奥で過しており、17歳まで会う事が出来なかった。唯一彼女の姿を見れるのは治療の日。教会で治療は行われるが接触を禁じられ、遠くから眺める事しか出来なかった。彼女の綺麗な黒髪を見る度に、彼女の瞳に映り言葉を交わしたいとずっと思っていた。
そしてやっと成人の儀まで半年となり初めて会う事が許された。成人の儀を受ける者を招待し開かれた王家主催の舞踏会。彼女をエスコートする事になり陛下の執務室で彼女を待つ。いつも遠くからしか見た事が無く、珍しく緊張し喉がからからになり何度もお茶を飲む。そしてやっと彼女が目の前に…
顔を上げた彼女は愛らしくそしてミステリアスな面立ちをしており、今まで会った令嬢と雰囲気が全く違っていた。何より輝く黒い瞳と艶やかな黒髪が目を引き、自分の血が逆流したのかと錯覚するほど興奮したのを覚えている。
それからは寝ても覚めても彼女の事が頭を離れず、早く私の妃にしたいと願い準備をして来た…が
「何がいけなかったのだろう…嫌われてはいないと思うのだが」
そう呟き溜息を吐いた。彼女は人との交流を避け育ったせいか人見知りをする。だから私の想いに戸惑っているのだと思っていた。それに陛下にあの病を患った王子は必ず乙女を妃に迎え幸せにして来たと聞いている。という事は乙女は私に自然と私に好意を持つのではないのか⁈
「いや…冷静に考えてみると、あまり好かれていないのかもしれない」
乙女は双子の兄であるリアムには心を許している様に感じる。奴と私と何か違うのだろう。
考えるが全く分からず困惑していく。そうしている内にバンディス家の町屋敷に着いた。門扉前にはロダンダの国章が入った馬車とロダンダの騎士が居る。リアムに先を越され苛立ち馬車を降り奴に詰め寄る。するといつもは困った顔をするリアムが真っ直ぐに私を見据えて
「後少ししたらミーナ嬢が来る。その前に貴方に話しておきたい事がある」
そう言い強引に私の手を引き中庭の方へ歩いて行った。珍しい奴の態度に唖然とし抵抗せず付いていく。そして双方の騎士を下がらせると奴が
「明日、ミーナ嬢とジン殿の元へ行き”血の病”の真相を聞く。貴方も同席し知る勇気はありますか?」
「真相とは?」
「貴方も何故"血の病"が代々ボルディン王国の男系男子に発症し、"漆黒の乙女"が現れるのか疑問に思って事は無いのですか?」
「それは…」
リアムにそう言われ二の句が継げない。自分の病の事だ疑問に思い調べた事も有る。しかし何度も陛下や宰相に調べている事が見つかり、文献や資料を取り上げられた。そしてジン殿なら何か知っていると思い何度も問うたが、治療を終え王位を継げば知る事が出来ると言い話してはくれなかった。過去の事を思い出し私の事情を知らぬくせに、偉そうな口ぶりの奴に腹が立ち
「何度も疑問に思い調べようとした!何も考えて来なかった虚け者の様に言わないでくれ」
苛立ち声を荒げると、何故か奴は表情を緩め
「良かった…」
そう言い私の肩を叩いた。全く話が見えない。だがずっと引っかかっていた”血の病”を知る事が出来ると思うと、鳥肌が立ち言いようのない不安が押し寄せた。目の前の兄は何か知っているようだ。奴は癪に触るがミーナ嬢との未来の為には、知る必要があると思い教会に同行する事にした。
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