妹
村で、十歳の少女が亡くなった。死因は流行り病だった。
「ねえ、ちーちゃんが亡くなったって、本当?」
ベットの上で横たわる少女は、その傍らに座る少年に問いかけた。
「ああ、本当だよ」
少年は少し顔を伏せ、少女の問いに答えた。その少年の表情は暗澹としており、まるで、喪に服しているようであった。
「そうなんだ……もう、ちーちゃんとは遊べないんだね」
少女は何か思うことがあるのか、ゆっくりと天井を見上げた。隙間風のせいか、天井に吊るされた裸電球が、右へ、左へと、ゆらゆらと揺れ動いていた。中のフィラメントが切れ掛かっているせいか、チカチカと光が付いたり消えたりを繰り返している。
少女の唇が微かに動く。
「私も、もうすぐ消えちゃうのかなあ……」
発せられた音はあまりに小さく、弱々しかった。
少年は少女の言葉に、思わず顔を上げた。
「弱気になっちゃ駄目だ。病気なんてすぐ良くなるさ」
「でも……」
「そうだ。病気が治って、起き上がれるようになったら、兄ちゃんと一緒に花を探しに行こう。元気な時、一人でずっと探してただろう。今度は兄ちゃんと一緒だ」
少女は花が好きだった。少女が病気になる前は、周囲の制止を振り切って、よく花を探しに行っていた。結局、今まで一度も花は見つけることができなかったが、少女の花に対する並々ならぬ姿勢は周囲にはよく伝わっていた。
「……本当?」
「本当だよ。それまでは、ずっと兄ちゃんが側に付いてるから。一緒に頑張って病気を治そうな」
「……うん、ずっと一緒だよ」
兄の言葉に安心したのか、少女はゆっくりと目を閉じ、そのまま眠りに落ちた。少年は静かな寝息を立てる妹の額に手を当てると、ゆっくりと髪を撫でた。
少年は迷った様子だった。今日、少年には、村の会合がある。そこで薬を貰わなければいけない。しかし、会合に出席すると、寝たきりの少年の妹を一人にすることになる。
今日は妹の側にいなければならない。そんな予感がしていたのか、少年はベットの前から動けずにいた。何か自分に出来ることはないかと、そう考えているのかも知れない。しかし、病状が悪化したところで、少年には何もすることなど出来ないだろう。意を決したのか、少年は妹の部屋を後にした。
部屋には一人、少女だけが残された。少女の目には、ほんのりと涙が滲んでいた。
少女は震える手で近くに置いていた一枚の写真を手に取り、胸に埋めた。
「ずっと側にいるって言ったのに……」
宙に浮かぶ裸電球が数回点滅した後、ぷつん、とフィラメントが切れた。部屋に灯りが消え、ただただ黒く染まっていった。




