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彼氏彼女

このような流れの物語があったなぁ、と、復元してみたもの。

プロット無し。





 3分あれば、胃袋から地球だって救える。

 だから、私の恋も救える……ハズ。

 3分でいいの。

 1440分間の中の3分でいいから。


 ――――私に、貴方の3分間を下さい。




 好きな人が出来ました。

 姓は(ヒイラギ)、名は光男(ミツオ)。いつも柔らかく笑う人で、沢山の人に好かれてる。


「あーぁ、面倒くさいね?」


 疲れると面倒くさいとか口癖に言いますが、そう言いつつ柔らかく笑って、ちゃんと作業をこなす、友人に先生に頼られる人。

 優しい、優しい人。

 

 同じ委員会の今日、雑用で一緒にプリントを纏めている今、私は心臓が飛び出そうで幸せで頭から湯気が出そう。手が、手が、震えるぅぅう。

 1つの机で向かい合って作業をしている。几帳面にプリントの端を整えてホチキスで留めていく。

 指は長くて綺麗。アッシュグレーに染められた髪は、ふわふわしていて柔らかそう。笑うと糸目になるその目が大好き。ちょっとキツネに似ていると密かに思っている。


「? (タカムラ)さん?」


 ああ、どうせなら下の名前で呼んで欲しいなぁ。

 私を呼んでくれた声も、好き。

 キョトンとしている表情も格好いい。

 声も、唇も、髪も。

 全部、好き。


「……好きだなぁ……」

「え?」

「……えっ?」


 私、何言った?


「……あっ、あぅ、えと、あのっ……ちが」


 浮かれ過ぎて何口走ったの! 馬鹿なの私!?

 慌てて否定しようと顔を上げれば、少し見開かれた目が、糸目になった。


「……何? 俺の事好きなの?」

「あぁぁあ? えっと、えぇ? あ、その」

「落ち着いてよ」


 落ち着けない! 糸目の視線に耐えられなくて、顔が熱くなって否定したいのに言葉が出てこない。


「……ふーん。いいよ?」

「へっ?」

「今までに無いタイプだし最近暇だから。付き合う?」

「へっ? へっへぇえええ?!」


 何て言ったの?

 悪戯に成功した子供の様に笑う表情を見て、少し力が抜ける。と、同時に胸が痛む。

 何だ。冗談か……そうだよね、そんな訳無いもんね。暇だから付き合うなんて、コレは怒って良いハズ!


「からかわないで!」

「……からかってないよ。俺、今どれとも付き合ってないし」

「……?」

「彼女のポジション空いてるよ?」

「……」

「どうする?」


 よく考えて!

 てか考えなくても分かるでしょ? こんな言われ方して飛び付いたら馬鹿でしょ? 明らかに暇潰しにしか思われてないよ!

 断れ! 断るんだー!


「お、おねがっ、しゅまっす!」


 か、噛んだー! 違う! ソコじゃない!

 何ちゃっかりお願いしてるんだー!

 うへへ身体は正直だってか?! ってバカー!

 

 しかし、脳と口は完全に別物だったようで。

 常に空腹だった私の目の前に出されたとても美味しそうなお肉。

 私は何も確かめず本能のままにかぶりついてしまった。


「ぶっ! アハハハッ、しゅまっすだって。でも」


 甘いのか辛いのか苦いのか。

 固いのか柔らかいのか。

 

「俺、仲の良い女の子たくさんいるけど、気にしないでね? そのポジションで居たいなら、気にしちゃダメだよ?」


 どうやら目の前のお肉は痛んでいたようです。


「……は?」


 好きな人が彼氏になりました?

 たくさんの先生や友人に好かれ、いつも柔らかく笑う人?

 ただ、女の子にも大変モテる節操無しでもありました。


「これから宜しく。彼女さん?」

「ぅは」


 しかし、屈託なく笑う顔が可愛くて格好よくてキラキラしてて花が咲いてて……鼻血出そ。


「そうだ! あと今日はリサちゃんと先約あるから明日から一緒に帰ろうね?」


 ……そうだった。痛んだお肉でした。

 胃が痛くなりそうだ。

 だけど、明日、一緒に、帰る。

 一緒にぃぃ! 帰るぅ!

 

「っうん!」


 更には、私の脳も痛んでおりました。



――――――――


 

 ワタクシ、(タカムラ)若菜(ワカナ)はッ! 

 昨日、人生初の彼氏が私に出来ました。

 しかも! ちょ、聞いて!

 好きな人がっ! 彼氏にーー!!

 好ーきーなーひーとぉおおおおっ!!


 昨日帰ってから、興奮と高揚と大興奮の上嬉しさの余り、和代(母・42歳)に突進、報告致したところ!


「精神科って夜でもやってるかしら? 妄想が酷いわ」


 和代ー!? 娘を信じて!?

 真実いることを証明すべく早速電話しようとしたところ……?


「あれ? 連絡先知らない……」

「ワカちゃん? 大丈夫よ? 女の子は空想でお友達が創れるから。ほら、鏡の自分とかお人形とか。ワカちゃんは、彼氏を創ったのね?」

「ちがっ! 聞いて! いや? あれ? 空想? 夢? 妄想?」

「大丈夫よ。子供の内は空想していても。女の子は嫌でも大人になって、現実を知るから……あの人も空想だったら良かったのに……フフッ」


 浮気性な別れたお父さんの事を言ったのでしょうか? そう笑ったお母さんは、ちょっと怖かったです。


「ワカちゃん? もし浮気するような男の子がいたら、潰してしまいなさい?」

「……な、にを」

「ナニを」


 そんな昨夜のお母さんとの会話が、一気に蘇りました。

 お母さん、ごめん。

 

「あっ! しゅまちゃん! おはよー」


 私の好きな人は……学校の廊下で手を振りながら此方に歩いてくる彼氏(多分)は……両手に華状態で、彼女(恐らく)である私の名前すら知らない奴です。

 私はあなたの娘ですねっ! 


「おはよ。てか『しゅま』って何?」

「名前知らないな~と思ってさ? しゅまっすは、ちょっといい辛い」

「若菜だよ」

「うん、覚えた」

「ねぇっ! ミツ、この子誰?」


 右脇に引っ付いている綺麗なお姉さまが、柊くんの服を引っ張っている。


「こんな子いなかったよね?」


 左脇に引っ付いている乳がでかい色気たっぷりのお姉さまが、柊くんに詰め寄る。

 こんなだとぉ?! 私彼女デスヨ!

 恐らくきっと多分! 


「ん? ああ、彼女だよ」

「「「ええっ?!」」」

「何でしゅまちゃんまで驚くの?」

「はっ、いや、えっと?」


 9割妄想だと思ってだけど、現実だったー!

 彼女だって、彼女だってよ! うへははは。

 ヤバい、顔がにやける。


「なんで? 彼女は暫くいいって言ってたじゃん」

「そうだよ! 私がなりたかったのにー!」

「ん? んー、タイミング?」


 タイミング!? いや分かってたけどさ!

 やいのやいのと両脇のお姉さま達が柊くんに抗議している。


「まあまあ。今までと変わらないから、良いでしょ?」

「んもう! そうやってはぐらかす! じゃあこの子と終わったら、次私ね?」

「あっ、ズルい! 私も! 私も予約する!」


 もう終わりの話?! 予約制なの?!

 どんだけ痛んだお肉だよ……。

 ヘラヘラしてんじゃないよ! 日本男児!


「二人とも魅力的過ぎて選べないからなぁ」


 そしておかしなところで悩むな彼氏(多分)!

 

「えー? ともかく次は必ず私に声掛けてね?」

「私はいつでもねっ! 直ぐ別れて私にしてね」


 縁起でもないこと言わないで欲しい。あっさり承諾されてしまいそうで、恐ろしい。

 柊くんは、ニコニコ笑って二人を宥めていると、後ろから先生の声がかかる。


「おい! あと3分でチャイムだ。教室入れ~」


 3分。後3分でこのお姉さま方を諦めさせる方法はッ……思い付かない!


「あ、じゃあリサちゃんマイちゃん、また後で」


 また会うの? また後でなの?

 柔らかい笑みで二人のお姉さま方に手を振る柊くんは、こちらに向き直り、声を掛ける。


「篁さんも入ろう?」


 ッ! 私は無意識に柊くんの胸ぐらを掴んだ。

 驚いた柊くんは、ホールドアップの体勢。


「えっ、え?」

「……柊くん」

「はい?」

「放課後3分全力で時間を作って」

「わ、分かった。…………3分?」

「ん?」


 3分あれば、胃袋から地球も救える。

 

「あ、間違え――」

「おいお前ら、早く入れー」

「分かった。3分ね、じゃあ入ろう?」

「え、ちょ、待っ」


 チャイムが鳴る。柊くんの遠ざかる背中を眺めて呆然とする。


 だから、私の恋も救えるはず。

 

「いや無理だからッ」






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