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桎梏の番  作者:
番外編
8/8

王弟3

遅くなって申し訳ありません…!あと一話くらいで終わらせられると…いいなぁ。

慌てて書いたので誤字脱字が多いかもしれません。見つけたらお知らせくださるとうれしいです。

私は腕に抱えた小さな体をそっと自室のベッドの上に横たえた。泣きつかれたのか少女は今は眠っており、吸い込まれるような黒い瞳は瞼の下に隠れてしまっている。


私は涙の跡の残る頬にそっと手を寄せた。そのまま頬を滑り唇に触れるが、少女は深く眠っているようで、身動き一つせず、ただゆっくりと呼吸を繰り返すのみだった。


一度彼女から手を退け、今度は髪に触れる。ずっと牢屋に閉じ込められ、水も浴びられなかっただろう少女の髪は絡まりあい、指を通すことができなかった。


もう一度、少女の傷だらけの体に目をやった。憐れなことだ。彼女は私に会うためにこの世界にやってきたのだというのに、間者と間違われ、受ける必要のない傷を負った。

よく調べもせずそうと決めつけた、甥を含む愚か者たちにも腹が立つが、最も許せないのはやはり自分自身だ。なぜもっと早く助けに行ってやらなかったのだと、悔やんでも悔やみきれない。甥が彼女をとらえたのはいつのことだったか?その話を聞いてすぐに会いに行っていれば、大切な少女をこれほどまでに傷つけることはなかっただろうに。


番を守れなかった。私の咎だ。


でも今は。


「贖罪も、後悔も、今すべきじゃない。今一番にするべきなのは、彼女を癒すことだ。」


私は手元の引き出しを開け、小振りのナイフを取り出した。ちょっとした護身用のもので、切れ味はそれほどよくはない。私はその刃を手首のあたりに押し当てた。


ぷつり、と皮膚が切れる感覚がして、遅れて少しずつ傷口から人と変わらない赤い血がにじみ出てきた。私は傷口を口元に運び、あふれ出てくる血液を少量口に含んだ。

そしてそのまま少女に顔を寄せ、唇を重ねた。わずかに少女の顎を持ち上げ、そのまま私の血を口に含ませる。少女ののどが上下したのを確認して、私はゆっくりと唇を離した。名残惜しいが、これからきっといくらでもする機会はあるだろう。


少女の唇にわずかに付着した赤を見つけ、なぜだか少し満足してしまった自分はどこかおかしいのかもしれない。

それともこれも竜の習性なのだろうか?


少し様子を見ていると、間もなく少女の体の傷がゆっくりとふさがり始めた。それを見てこの上なく幸福な気分になる。ああ、やはり間違っていなかった。間違いなく彼女が私の番なのだ。


はるか昔から、竜の血はあらゆる怪我を治し、またその血を得たものに不老不死を与えるといわれてきた。王国創立以前は、その話を信じた者たちによって大規模な竜狩りが行われていたとも聞く。

ただし、その噂は真実ではない。竜の血を飲んだところで不老不死にはなれないし、傷も治らない。むしろ、ただの人間にとって竜の血は猛毒だ。竜を殺して血を奪い、ほんのわずかでも体内に摂取した者はことごとく死に至ってきた。


しかし、それにも例外がある。その例外ゆえに、かつてこういった誤ったうわさが流れるに至ったのだろう。

竜の血は、番にのみ効果をなす。竜の血は、その竜の番の傷のみを治すことができるのだ。また、不老不死を得られるという話にも齟齬がある。竜の番となったものが互いの深いつながりにより竜と同じだけの寿命を得るのであって、けして不老でも、ましてや不死になるわけでもない。

竜も、番も、いつかは必ず死ぬのだ。そうでなければ、世界の理は滅茶苦茶になってしまうだろう。


…という、難しい話はともかく。

私の血で問題なく傷を回復したこの少女は、つまり間違いなく私の番なのだ。


私は何事もなかったような滑らかな肌に戻った少女の手を撫でる。小さく寝息を立てる少女は、心なしか先ほどより安らかに見える。

顔が自然と笑みを形作るのが分かった。いつもの貼り付けたようなものではなく、ごく自然な。


「大好きだよ、私の番。早く目を覚まして、君の名前を私に教えて。」


けれども少女が目覚めるにはまだ時間がかかるだろう。


とりあえずは。

汚れた体を洗って服を着替えさせてあげることにしよう。もちろん、私の番を私以外の他の誰かに任せたりはしないよ?




+ + +



目覚めた少女はスガヤ・ユキと名乗った。ユキは王弟だといった私に最初は驚いていたけど、すぐに懐いてくれた。言葉が分かるようになりたいといった彼女と一緒に文字の勉強をするのも、一緒に食事をするのもとても楽しかった。

何より思う存分触れられるのもうれしかった。口づけこそ血を与えた時にしたきりだったけど、そうでなくても彼女が少しづつ私に惹かれているのが分かって、とても幸福だった。また、ユキが怯え、外に出たがらないのも好都合だった。

私の番がほかの人間に心を傾けるのを見ると、きっと嫉妬してしまうから。


ユキのそばにいるのは暖かくて、とても幸せだったけれど、時折彼女がつらそうな顔をしているのが気にかかった。ユキは最初に目を覚ました時、直前まで両親や兄を呼んで泣いていた。もしかして元の世界に帰りたいと思っているのかと考えたが、もしも尋ねてみてそうだと言われたら彼女に何をしてしまうかわからないので、聞くことができなかった。


ただ、いろんなものをあげてみたり、ひたすらに真綿にくるむように優しくして、そんな思いもなくなるようにと努力をした。

そして、いくらか文字が読めるようになったころに彼女に送った絵本は、たいそう気に入ってくれたようだった。


『竜の番』という名の、この国では誰もが知っている昔話。この国に伝わる伝説を、番の意味を知ってもらえるようにと渡したものだったけど、ユキが嬉しそうにそれを眺めているのを見て、とても満たされた。


私とユキの生活は、順調に続いていた。けれどもある夜、珍しく会議が長引き部屋に帰ってくるのが遅くなった私は、先に眠っていたらしいユキがひどくうなされていることに気付いた。


「ユキ…?どうしたの?」


声をかけてみても目を覚ます気配はない。もしかしたら家族の姿を夢見ているのかと思い、一瞬ほんの少し暗い気持ちになったが、それにしても様子がおかしい。


私はいけないと思いながらも、ユキの見ている夢を覗いてみることにした。普通はそういったことはできないが、竜は番のためなら大抵のことはどうにかなるようにできているらしい。


そっとユキの額に自身のそれを合わせると、すぐに意識が薄れていった。




そこで見たものは。ユキに出会ったその日の出来事。どうしてあの堅固な牢からユキのような少女が逃げ出すことができたのか。


…ああ、そうだったんだね。気づいてあげられなくてごめんね。

君は、とても怖い思いをたくさんした。分かっていたのに、分かってあげられていなかった。

ごめん、ごめんね、私の番。


…けれども心配しないで。あなたを傷つける者は。


わたしがすべて ころしてあげる。



悪夢を掻き消し、穏やかな寝息に戻ったユキの頬に手を滑らせる。


もう二度と、君を傷つけられないように。




+ + +



…ああそんなに逃げ回って。怯えた顔をしてどうしたの?


困ってしまうよ、そんなことでは。早く死んでくれなければ。朝になって、ユキが起きたらどうするの?

ユキは目が覚めた時一人ぼっちだと、悲しくて泣いてしまうんだ。


そんなふうにして泣くユキは、とてもかわいいけれど、同じくらい悲しいから。


…まったく、言ってるそばから。動き回らないでほしいのだけど。…ああ、そうか。足を落とせばいいのかな?


…うん、やっぱり。ああ、腕も邪魔かな?…まぁいいか。


え?何、なんて言ったんだい?…助けて?


どうして私が君を助けなければいけないのかな。私が助けるのはユキだけだよ。


…うん?ごめんなさい?うん。うん。もういいよ黙って?君の謝罪なんて不要だからね。




…ああ、これでもう大丈夫かな?あれ、まだ動いているね。




…ふふ。うん、これでいい。



ユキ、ユキ。大好きだよ。愛してる。


…お願いだからもう苦しまないで。私の大切なひと。




+ + +



「…ん。」


「ユキ?起きたの?…おはよう」


そう言って笑いかけると、ユキも寝ぼけたような目でこちらを見た。


「…おはよ、リシュ」


柔らかく笑うユキの腰を抱き寄せ、頬に手を添える。少女はくすぐったそうに笑った。


「…リシュ、怖い夢を見たの。」


「そうなの?辛かったでしょ。…平気?」


「うん。…リシュが、名前を呼んでくれた気がして。そうしたら、いつの間にか消えていたから。」


ユキがにっこりと笑う。


「私が?…そう、良かった。」


ユキの柔らかい体を抱き寄せる。笑う君を見るのが一番幸せだ。



「これから先、ずっと。何があっても私がユキを守るから。だから、何かあったときは、私の名を呼んで、ユキ。私の番。」


少し悲しげにありがとう、とユキが笑う。



…ああどうか。笑って、笑って。愛しい人。

私のそばで、幸福に。




見張りの男が殺された理由でした。

リシュがどんどん危ない人になっていくのですが…。これはもしかかしてヤンデレタグが必要なのでしょうか。

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