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裏切の美徳

2色目        『裏切りの美徳 5』


・・・それでもやっぱり君がそんな顔をするのはとてもよくないことだ。




夕方。ホテルから出てきた俺たちを出迎えたのは一人の男の遺体だった。


「げぇっ!」


俺たちがいたホテルの目の前で倒れる同じ制服の男。この顔に俺は


見覚えがある。


えーっと・・・確か・・・



回想



「おい、弟塚」


声を掛けられたので顔を上げれば同じクラスの・・・えっと・・・


なんとか文則・・・?が俺の席の前に座っていた。


あれ、俺の前の席って違う奴じゃなかったっけ?


「なんだよ。俺今忙しいんだけど」


「金貸してくんない?今日、弁当忘れちゃって」


「悪い。俺、今月色々と厳しいから他人に貸す金は持ってないんだ」


「そっかー・・・残念。じゃあ他の奴に頼むわ」


そう言ってなんとか文則は授業中にも関わらず部屋の中を歩き回り、


クラスメートに金の無心をしていた。


(三色パン 2色目 「裏切りの美徳2」より抜粋)



回想終了






・・・そうだ、なんとか文則!何コイツこんなところに?


「うっ・・・て・・・弟塚ぁ・・・」


「な・・・なんとか文則!!しっかりしろ」


慌ててなんとか文則に近付く俺。嫁さんはつまらなそうに突っ立っていた。


「へへへ・・・やられたぜ・・・。お前の後を追ってきたら・・・


まさかこんな・・・」


「何で追ってきたんだよ!授業どうした?」


「・・・俺・・・俺・・・実はお前のこと・・・ずっと・・・ぁ・・・


ぃ・・・」


「は?」


「・・・て・・・た・・・っ・・・」


言葉を言い終えると満足そうな表情で息を引き取るなんとか文則。


なんか最後の言葉を解読したくないんだけど、まさかこいつ


俺のこと・・・!!?





「・・・弟塚ぁあああ・・・」


「え?」


顔を赤らめているのも束の間、俺と嫁さんの前方に現れたのは見知らぬ女。


手にはナイフを握りながら左右に揺れながら徐々にこちらに近付いてくる。

何だこの女。俺たちのクラスにこんな奴いなかったよな?・・・多分。


「あんた誰だ」


名乗りそうも無いので聞いてみると、女は素直に答えた。


「・・・帰桜かえりざくら 令明・・・」


・・・誰・・・?やばい、全然わかんねぇ。


「弟塚ぁぁぁ・・・。貴様ぁぁぁ・・・!!!よくもぉぉぉ・・・


私のぉぉぉ・・・素敵羅くんをぉぉぉ・・・!!!!男の純情をぉぉぉ・・・


踏みにじりやがってぇぇぇぇ・・・!!!」


素敵羅すてきら?すてきら?ステキラ?ステキャラ?捨てキャラ・・・。




回想


「うっ・・・て・・・弟塚ぁ・・・」


「へへへ・・・やられたぜ・・・。お前の後を追ってきたら・・・


まさかこんな・・・」


「・・・俺・・・俺・・・実はお前のこと・・・ずっと・・・ぁ・・・


ぃ・・・」


「・・・て・・・た・・・っ・・・」



「金貸してくんない?今日、弁当忘れちゃって」





回想終了








「そうだ!!素敵羅 文則!!そうだ、それだよ!そういう名前だったな、


あいつ」


よかった。これで俺のスーパー雲長くんが没収されずに済みそうだ。


「はははは、いやーよかったー思い出して。な、嫁さん」


「?」


いきなり振られた嫁さんは意味が分からず首を傾げた。そりゃそうだ。


でも俺はやっと心の中でモヤモヤしていたものが無くなって今凄く



開放的な気持ちでとても清々しい。


だから忘れていた。自分たちの置かれている状況を。


「よくねええええええええええええええええええええええええええ



ええええんだypppppppppppppppppppppp



っぽおおおおおおおお!!!」



「!!?」


いきなり咆哮というか奇声を上げると勢いよく地面を蹴り上げて、


弾丸のような速さで俺たちの方へ飛んでくる帰桜。


武術の心得など何も持ってない俺はとりあえず逃げようと思い嫁さんの腕を掴むが、


嫁さんの足がその場を離れようとしない。


「嫁さん、逃げよう!!」


「・・・」


足がすくんでいるのだろうか。


人肉食ってるけど・・・やっぱ女の子なんだよな、嫁さん。



・・・なら俺は!!!


「嫁さんは俺が守る!」


なんの武器も盾も用意していないがそれでも俺は嫁さんをあの女から


守らなければいけない。


だからこのデカいだけの図体で嫁さんの盾にならなければ。


意を決して嫁さんの前に立つ。


目の前に迫ってくる帰桜。あのナイフ、果物ナイフかと思ったが結構ゴツイ形を


している。


「くっ・・・」


刺されたら痛いのかな・・・。なんて弱気な心を愛の強さで握りつぶして立ち尽くす。


すべては嫁さんの命のため。


「・・・雲ちゃん・・・」


弱弱しい声で俺の名を呼ぶ嫁さんの声。


大丈夫、大丈夫だよ。俺が君を守るから。だから心配なんてしなくていい。


「・・・雲・・・ちゃん・・・」


背中から感じる嫁さんの温もり。こんな状況でも構わず俺に抱きつく俺の大切な嫁さんは、


やはり世界一可愛い。


俺は気持ちを引き締める。


例え自分がどうなろうが、嫁さんだけは必ず生きて家まで帰すんだ!!!


「大丈夫・・・怖くない・・・!!!」


「・・・」















「・・・えいっ」










・・・・・・ん?



力んでいた俺の身体。


その場で踏ん張っていた身体が後方から突然押された。そんな気がした。




・・・いや、押されたんだ。




だって腹にナイフが刺さってるもんね!



「いでええええええええええええええええええええええええええええええええ


えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


痛い、痛すぎる。どこぞの主人公みたいに「くっ!」なんてカッコいい台詞なんて


でないよ!!


だって今俺の腹に刃物がぐっさり刺さって血が垂れて頭に血が登って、


この状況を認めたくないけど腹が痛いからこれどう見ても現実でそれを実感したら


顔から熱が消えて顔面蒼白状態だし息も碌に吸えないしで・・・あああああああああ



ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ




あああああああ!!!!ていうか抜けよ!!



「っ!っ!くっ・・・くぅっ・・・!!」


これはきっと夢なんだと思い、霞んだ瞳で腹を見るとナイフが俺の腹の中に


しっかりとINしていた。


あぁ、もうダメ。


「くっ・・・くそっ・・・!」


「・・・?」


腕も上げると血が出そうで怖いから両目を必死に瞬きして瞳を霞みモードから


クリアモードへ変更して再度腹を見たてみたらやっぱり腹にはナイフが刺さっているが


刺している人間も何故か慌てていて、


よく見てみれば嫁さんの白くて細い華奢な手が帰桜の腕を握っている。


「よ・・・嫁さん・・・?」


「雲ちゃんごめんね」


「え?」


「私、刃で手を切るのが嫌だったから」


「・・・」


成程。あー・・・うん、まあ俺はさっきから自分で盾だとか守るんだとか


言っていたからこの結果に文句は言わないことにしよう。


うん、例え俺が頑張ってナイフの刃を漫画みたいに手で受け止めよかと思って


たんだけど嫁さんの勝手で俺が人間鞘にされた、なんて微塵も思わないんだからね!


「抜けないっ!!!」


帰桜が叫ぶ。先程から何度も腕を引こうと試みているが全く動いていない。


嫁さんの表情からは読み解くことが出来ないが、相手がこんなに腕を動かそうとしても


ビクともしない


ってことは、実は結構な力で握っているのか?


「離せっ!離せってば!!」


「・・・了解」


そう呟くと嫁さんは空いた右腕をゆっくりと上に上げる。


「捕食」


声と共に振り下ろされる腕。同時に帰桜の腕も俺から離れる。


だがナイフは刺さったまま、帰桜の腕は肉体から切断されて宙に浮いていた。


・・・え?まさかの手刀っすか?嫁さん。


「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


一瞬の出来事で状況が理解できていなかったのか10秒遅れでやっと叫びだす帰桜。


腕から放射される大量の血液が嫁さんの身体を赤く染めていた。


赤く染まった手には小さなお手製の鉈。




・・・あぁ、思い出した。あれは俺たち3兄弟が君ヶ主3姉妹に恋をする前に


俺たちの親父が嫁さんのために作ってあげたとか言っていた手製の小型鉈だ。


サイズはカッターナイフ位の大きさだけど一般人が誤って手を切ったら


5本指全部が削ぎ落されるというトンデモ小型鉈。



まだ使ってたんだ、あれ。


「あっ・・・」



そういえば親父の奴、このトンデモ小型鉈を作ってから数日後だったかな・・・


親指すっぽり無くしてたんだよなー・・・。


あれきっとなんかの拍子で鉈を滑らして切断しちゃったんだろうな。バカな親父。


そんな昔の記憶を思い出しながら俺の身体は地面に向かって倒れだした。


「雲ちゃん?」


嫁さんの声が遠くから聞こえるけど返事が出来ない。


ごめん嫁さん・・・なんか俺・・・眠くなって・・・き・・・







花屋で買い物をしていたら誰かの悲鳴が聞こえた。


でも私には関係ない。誰がどうなろうが知った事じゃない。


私は商店街を出てあの子の居る所へ向かった。

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