裏切の美徳
2色目 『裏切りの美徳 6』
何を食べても美味しくなくて食べるのをやめたら私の身体はどんどん
細くなっていった。
私は食事を楽しいと思ったことが一度も無い。何でみんなあんな熱い
味のないものを食べて笑っているのだろう。私は分からなかった。
「そう・・・だから何も食べようとしないんだ」
「うん」
「でもこのままじゃ、君は倒れてしまうよ?」
「それでも私は構わない」
「君が倒れてしまったら・・・僕たちはとても悲しい」
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。・・・うん、じゃあこうしよう」
「?」
おじさんはそう言って手に持っていたナイフのようなもので自分の左にある
親指を切り落とした。
「おじさん?」
「食べてごらん。もし君がそういう子なら、僕たちもこれからは君に合った食事を
用意することにしよう」
「・・・」
差し出された指を何の迷いも無く口に入れる。だって、とてもおいしそうに
見えたのだもの・・・。
「学校を抜け出したと聞いて探してみれば・・・。
相変わらずやってくれたわね、玄徳」
食事をしているとお姉ちゃんが彼氏を連れてやってきた。
「お姉ちゃん」
「状況を確認したいのだけれど」
そう言ってお姉ちゃんは私の横で眠っている雲ちゃんとさっきからうるさい
女の方を見る。
「えっと・・・雲ちゃんが寝ちゃった」
「子考、救急車を呼びなさい。まだ死んで無さそうだから」
「畏まりました、我が主」
「あと、そこの女が突然叫んでこっちに来た」
「そこの女って・・・この子、あんたと同じ学年の子じゃなかったかしら?
確か同じ道場にいた気がしたんだけど・・・名前は覚えてないわね」
「よく分かんないけど、そっちで倒れている男のことで雲ちゃんに
ケンカ吹っかけてきたの。マジうざい」
私がさっきホテルから出てきたときに雲ちゃんが声を掛けていた男の方を指差すと、
お姉ちゃんも顔をそっちへ向けた。
「・・・誰あれ?」
「知らない。雲ちゃんになんか話しかけていたみたいだけど、私、
早く帰りたかったから、何を喋っていたのか聞いてない」
「ふーん・・・。あれは・・・放置しておきましょう」
お姉ちゃんの目がまた倒れている女の方へ向けられる。
「お姉ちゃん?」
「うーん、今思い出したのだけれど。
確かこの子、武術の才能は結構よかった気がするのよねぇ。
間違えていなければ数年前の大会で優勝していたはずよ」
「へー」
心底どうでもいい話を始めるお姉ちゃん。
でもお姉ちゃんの記憶の中に微かに居たってことは、この子きっとおねえちゃんの
タイプなのかも。
「お持ち帰りする?」
「うふふふふ・・・どうしようかなー・・・」
そう言いつつもニヤニヤしているお姉ちゃんは、結局この女をうちへ連れて帰った。
きっとこの子も来週からお姉ちゃんの部隊の仲間入りだな・・・。
翌日、朝。
雲ちゃんは病院で入院しているから朝のお迎えは無く寂しく学校へ向かう。
途中までお姉ちゃんと一緒だったけど彼氏が来たから邪魔しちゃいけないと思い
その場でお姉ちゃんたちと別れて一人早めに登校する。
雲ちゃんが居ないと寂しいよ・・・。
「・・・」
いつも以上に気持ちがダウンしていく。
こんな日は翼徳の身体に付いた匂いを全力で嗅ぐに限る。
「よし」
少しだけ気分を上げて教室の扉を開けた。
誰も挨拶しないクラスの中、いつもならすぐに声を掛けてくるはずの翼徳の姿が無い。
「・・・?」
今日は遅刻でもしているのかな。そんな気持ちで席に着こうとしたら腕を掴まれる。
掴んだのは子龍。珍しく髪の毛に寝癖が付いている。
「おはよう、子龍」
「・・・玄殿・・・」
挨拶もしないで私の名前を呟く子龍の姿を見て、胸の中で何かが疼きだしてきた。
「昨夜、翼徳が・・・」
「・・・どうしたの?」
分かっていてもその答えを自分からは言いたくないから、意地悪して
子龍に聞いてしまう。
本当に・・・私はいつまでたっても最低な奴だな・・・。
「何者かに襲われ、手術を受けたのですが・・・」
「・・・」
子龍の長い前髪から見える顔色は真っ青だった。
そんな姿を見てしまうと昔のことを思い出してしまい眩暈に襲われる。
それでも私は平静を装う。
「そう」
これから起きるであろうことを想像しながら私は子龍や仲間たちに
何も言葉を掛けることなく、その日は1時間目の授業も受けずに家に戻り
ベッドの上で眠りについた。
夕刻、私が通うはずだった高校の前を通る。なんだか寂しい気分になったけど
獲物を見つけた瞬間、そんなのどうでもよくなった。
迷うことなく、私は捕獲作業に移る。
・・・あ、捕獲じゃなくて・・・、
・・・そう、これは狩猟だ。




