ドンタクス中学部、全国へ!
第129話
「ドンタクス中学部、全国へ!」
夏。
全国中学生バレーボール大会。
開催地――東京。
博多ドンタクス女子中学部。
全国初出場。
だが。
試合前から、
すでにカオスだった。
「監督ぅぅぅ!!」
控室。
「どうした!?」
「3番と7番が、
髪型かぶったって揉めてます!!」
「そこぉ!?」
「しかも、
“私のほうが似合う”で冷戦中です!」
美鈴、
天を仰ぐ。
「……はい、
両方かわいい。
終了」
「雑!!」
さらに。
「監督!
あの子、
試合前なのに恋愛相談しよります!」
「今ぁ!?」
ドンタクス中学部。
実力は全国級。
だが。
思春期濃度も全国級だった。
一方。
ファイブピーチ全国ツアー。
大阪公演。
「いぇぇぇぇい!!」
なぜかステージ中央に。
たこ焼き器。
「だからなんで!!」
光子、
ノリノリ。
「大阪やけん」
「理由が雑!!」
さらに。
優子、
ライブ中にたこ焼き返し挑戦。
「熱っ!!」
ジュゥゥゥゥ。
「衣装焦げたぁぁぁ!!」
会場、
爆笑。
一方。
博多南幼稚園。
「今日の給食、
レシーブ味です!」
「だから何その味!!」
副園長、
完全敗北。
園児たち、
ミニドンタクスとして完全覚醒。
「スパイクカレー!!」
「ブロック牛乳!!」
「給食を競技化するなぁぁ!!」
そして。
全国大会当日。
ドンタクス中学部、
初戦突破。
二回戦突破。
準々決勝突破。
勝ち進むたび、
注目が集まっていく。
「あの監督……」
「元フェニックスの黒崎美鈴?」
「世界ママさんバレー優勝監督やろ?」
「料理理論の人?」
「最後おかしい」
だが。
美鈴は、
静かだった。
準決勝前夜。
ホテル会議室。
緊張で、
うつむく中学生たち。
「……監督」
「ん?」
「うちら、
本当に優勝できますか」
静かな声。
美鈴は、
少し考えてから笑った。
「分からん」
「えっ」
「勝負やけん、
絶対なんかない」
そして。
「でもね」
その目が、
優しくなる。
「勝つだけじゃ、
意味なかよ」
選手たち、
静かに顔を上げる。
「苦しい時に支えてくれる仲間がおって。
泣いて。
笑って。
失敗して。
それでもまた立ち上がって。
“またこの仲間でバレーしたい”って思えること。
それが、
いちばん大事」
体育館ではなく。
人生そのものを語る声だった。
「だから。
明日は、
楽しんでき」
翌日。
決勝戦。
フルセット。
激闘。
最後の一点。
「繋げぇぇぇ!!」
レシーブ。
トス。
そして――
バァァァン!!!
決まった。
試合終了。
博多ドンタクス女子中学部――
全国優勝。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
中学生たち、
号泣。
「監督ぅぅぅ!!」
「優勝したぁぁぁ!!」
美鈴も、
笑いながら涙を流していた。
そこへ。
観客席から。
「おかーさーーーん!!」
光子。
優子。
美香。
奏太。
小春。
ファイブピーチ総立ち。
優馬も、
静かに拍手していた。
「……すごいなぁ」
あの日。
病院で。
眠り続けていた女性。
幽霊になって。
白金荘を彷徨って。
笑って。
泣いて。
愛して。
母になって。
傷ついて。
立ち上がって。
そして今。
たくさんの子どもたちの未来を、
支える存在になっていた。
閉会式後。
誰もいなくなった体育館。
美鈴は、
一人でコートを見つめる。
木の匂い。
ボールの音。
汗。
歓声。
全部、
青春だった。
そこへ。
「帰ろうか」
優馬。
美鈴は、
ゆっくり振り返る。
「うん」
そして。
笑った。
「……いい人生やった」
優馬も、
笑う。
「まだ終わっとらんよ」
「うん」
「でも、
ここで一区切りやね」
体育館の窓から、
夕陽が差し込む。
その光はまるで。
彼女の人生そのものみたいに、
あたたかかった。
こうして。
小倉美鈴の物語は、
静かに幕を閉じる。
たくさん笑って。
たくさん泣いて。
たくさんの人を救って。
そして最後まで。
誰かの未来を、
照らし続けた。




