簡易屋台①
マルティンは忙しいながらも一番のメインには畑作業を行っていた。
開墾はパラディン菌騎士、畑を耕すのはハッピーロマンチック原虫感染者を使っていたがそのあとはきっちりマルティンが【使役・極小】を使って作物・穀物を育てていたのだ。
何しろ開拓民と難民、そして捕らえた盗賊たちを入れると300人を超えるコロニーになっていたので、植物の確保は急務であったのである。
メインに育てているのは大麦に似た穀物の、錆麦と呼ばれるもので、通常は育てるのに100日かかる。
しかし【使役・極小】で畑の土の細菌を活性化させた状況では錆麦を最速5日で収穫可能になっていたのだ。
錆麦はあまり旨くはないが、栄養価も高く、パンもパスタも作れ、大勢の腹を満たすのに最適といえた。
また錆麦は大麦のように、酒にも味噌にも甘味も作れるので非常に重宝する存在であったのだ。
当然、マルティンは錆麦を発酵させ、色んなものを作った。
中でも楽しみにしているのはやはり味噌である。
十分に水を吸わせて煮てつぶした後に、麹と塩を混ぜて適切に発酵させるのだ。
もちろん通常では熟成に半年を擁するのだがマルティンには問題にもならず2日の発酵で味噌にしてしまった。
しかも闇属性の麹菌で作ったので、食べるだけで魔力が補給できるという優れものである。
早速味噌汁にするとマルティンは思わず泣いた。
「旨い!! いや美味すぎるだろう!! こんなの食べたことのないレベルだわ」
前世に食べた大麦味噌よりも美味だったのである。豊潤で複雑なうま味が口いっぱいに広がった。
それどころか乾燥した雷茸の出しで取った味噌汁は前世でも食べたことがないほど美味しかったのだ。
こうなるとマルティンは欲が出てくる。
【使役・極小】と前世の知識を生かした料理を皆に食わせたくなったのだ。
畑には錆麦以外にはナスとジャガイモの中間のような茄子芋、玉ねぎの味がする螺旋葱、まんまるな蕪の玉蕪を使って唐突に料理会を開催することにしたのだ。
メニューは赤オーク肉たっぷりの豚汁、玉蕪に串で刺し味噌ダレを塗って焼く野菜田楽――そして錆麦で作った醤油に刻んだ螺旋葱と山大蒜と大麦酒に漬け込んだモンスターの焼き肉を炙る。焼き肉は錆麦パンに挟んで提供することにしたのだ。
飲み物も周囲で採取できる岩ぶどうのジュースと、大麦酒の炭酸割を用意した。
開拓拠点のリーダーのコルベリと、難民のマープルら子供たちの協力を得て、即席の屋台をこしらえて、マルティンは昼時を狙ってライブクッキングを開始した。
タイミング的に今日しかなかった、とマルティンは思っている。
難民を受け入れて7日経つと、開拓村に残ることを選んだ者で働ける者は農作業、建築、伐採、運搬、工芸に分かれて仕事をすることになったのだ。
マルティンが村づくりにノープランだと知った〈不死の銀騎士団〉ら動いてくれた結果であった。貴族の子供が多くいる〈不死の銀騎士団〉は人を効率よく使うことに慣れているという話である。
開拓村ではすでに明日からの業務開始にざわついていたが、マルティンは独断で屋台を開いたのだ。
「俺が錆麦で作った料理を試食してくれ! お代はもちろん取らない! さあさあ遠慮せずに食べていってくれ!」
マルティンこと二渡は文化祭などでも模擬店ではそこそこ張り切るタイプであったのだ。
だが開拓村にいる難民たちは何事かと遠巻きに見るだけで、今一つ屋台に近づいてこない。
良い匂いが出ているし、イベント感も出ている気がするのだが、誰も食べようとしない。
「何で食べようとしないんだ? 結構おいしそうだと思うんだけどな」
マルティンが首をひねっているとマープルが言いにくそうに、遠慮がちに言う。
「え~と、ここにいる人たち、マルティン様が食料をふんだんに配布しているので、朝から目いっぱい食べていて、まだお腹があまり空いていないんだと思います! わたしもそうですし!」
「え~っ!? そんな理由かよ!! まいったな」
マルティンは3日前からレベリングで狩ったモンスターの肉と、大麦粉と塩を無料配布していたのだ。
通常モンスターの肉を人は食べない。モンスターの肉には大量の魔素が含まれており、摂取した人間は大概は体調不良となる。だがマルティンが作り出した菌、ペニシンカビは魔素を吸収・分解してペニシリンに変える代物であるのだ。
ペニシンカビは【交雑】を42回繰り出してようやく完成した、安全に魔素を食べる特性を持っている。
モンスターの肉にペニシンカビをまぶし、2日放置すると魔素が抜け、肉も熟成するという願ったりかなったりの変化を起こすのである。
それでもモンスターの肉に対する忌避感が当然あると思ったが、一番最初に食べたコルベリなどの開拓民達が食し、問題ないと訴えると食べ始めたという。
塩は周囲をニンジャ菌を使って調べた際に見つかった洞窟にあった岩塩を砕いたものである。
とりあえず飢えないために食べ物を支給したが、それで朝からお腹いっぱいになるというのは想定外であった。
食べてもらえない――そんなことを全く考えていなかったマルティンは【使役・極小】の能力を駆使して、おおよそ150食分を用意してしまっていた。




