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開拓

 開拓拠点から25分ほど歩いた場所に、平地が続いており、そこには広大で深い森があった。

 マルティンは早朝から平地を進んで15分ほど考えた後に、そこに畑と居住区を作ることを決めた。

 森のほとんどに幹周りが4メートルのマツ科針葉樹が生えている。

 その針葉樹を伐採し、開墾するのだが、ここでも微生物を活用する予定だ。

 使うべき微生物はすでに決めている。

 一つはもう20日前に完成した微生物である。

 

 ランバージャックバクテリア:土属性。食料となる木質素・多糖類が豊富な環境下のみで生存可能。主に樹木などを急速に分解し、液体状に換える。その際に木質素と多糖類を栄養として吸収してしまう。液体状した木は乾燥させると硬度と耐火性が高い素材となる。


 ランバージャックバクテリアは急速に樹木を溶かすので、伐採に使えると判断したのだ。

 マルティンはできるかどうか実際に作業に入る。


「伐採なんかしたことないし、薪を割ったことさえないけど大丈夫だろうか?」


 ランバージャックバクテリアは【有向】を使っても針葉樹に穴を開けられない。

 そこで魔法を使うことにする。土の杭を打ち込む魔法〈パイルスタブ〉を使うが、穴はなかなか開かない。

 10分悪戦苦闘の末に、四重詠唱で5回打ち込んでにようやく40センチの穴を開けることができた。


「はぁはぁはぁ――なんちゅう硬さの木だよ。もはや木のモンスターだわ。これからは『テツマツ』と呼ぶことにするわ」


 早速ランバージャックバクテリアを穴に流し込むと白い煙がもうもうと噴出する。

 なるべく【有向】で水平に広がる様、繁殖を促すと15分でテツマツからミシミシという音が上がり始める。


「えっ、なんかヤバい! 〈アスレチックアップ〉使っていざという時に備えるか」


 かけ終わると同時に、テツマツは穴を開けた周辺から裂け、一気にマルティンに倒れてきた。


「わおっ!?」


 全力で逃げることで倒木は辛くも回避することができた。


 ドッシン!!!


 テツマツが倒れると、地が震えるほどの振動が発生する。

 そのド迫力にマルティンの鼓動は早くなった。


「ふぁ~、伐採マジ命がけじゃないの。いや、俺が悪いのか」


 マープル達がついてこなくてよかったと安堵する。マープル達も少しずつ落ち着き始めてきており、マルティンの行動に配慮するようになってきていた。

 倒木という作業は【使役・極小】には向いてないようだ。とはいえ、ランバージャックバクテリアを流し込むのは自分しかできないので、何とか効率よく作業するルーティンを考えなくてはならないと思う。

 また家を作るとなると鉄も必要になるであろう。町で爆買いした際に2軒の商店の商品をほぼ買ったので、釘は木箱2つと金物は木箱1つ分がある。今はその素材をどれほどで消費するか素人のマルティンにはわからない。

 鉄が取れる鉱床が近くにあればいいが、ない場合はまた微生物で作り出すことも考えなくてはいけないであろう。

 前の世界でもバイオミネラリゼーションと呼ばれる技法がある。微生物が鉱物を作り出す現象をバイオミネラリゼーションと呼んで、すでに実用化まで技術が発展してきていた。

 【培地】の中にすでに鉄バクテリアと呼ばれるものを4つほど用意している。

 とはいえ、流石に微生物を培養する小屋が必要になるであろう。マルティンの【培地】だけに頼っていては困る事態が起きるのは必至である。

 考え込んでいると、ランバージャックバクテリアが分解したクリーム色の液体が地面に流れ出す。

 これに少しパニックになる。


「あちゃ! 液体を受け止める容器もないよ。もっと計画的にやらんとどうにもならん。というかどういう工程を踏めばいいのかもよくわからない!」


 建築やら素材回収などは門外漢すぎるので正直限界がある。かといっていちいちアスペルリンから職人を呼んでいたらキリがない。

 また【使役・極小】のことをあまり知られないようにしなくてはならない。特にあのうさんくさいバーナビには絶対に秘密にしなくてはいけないであろう。

 色々考えているうちにある記憶が唐突にフィードバックする。

 それは3週間前に入ったダンジョン《瑠璃の断崖》の中階層で見たキノコであった。

 マルティンが「マッシブタケ」と名付けたキノコは高さが3メートルに達し、直径4メートルほどもあるとんでもなく巨大なキノコであったのだ。

 「大きい」という以外に特徴はなく、魔素が濃い場所でしか育たないキノコである。

 しかし【交雑】でより大きく、成長速度を上げ、野外での適性を上げれば、小屋の代わりになるのではないかと思えた。

 つまり巨大キノコの中をくり抜けば、雨風程度は防げる仮住まいにできるのではないかと考えたのだ。


「よしいっちょやってみるか!」


 経験を積んだマルティンはこれはいけると判断する。

 要求を備えた微生物を5つ選び出し、マッシブタケをベースにして【交雑】を行う。


ギガンティックタケ:土と水属性。湿気と魔素濃度の高い地面で繁殖。急速に栄養を取り込んで成長・肥大化する。最大直径6メートルの大きさに達する。毒素もなく栄養価はあるが味覚のある生物には美味しくは感じない。


 生み出すと早速、枯葉が層になっている場所にギガンティックタケの胞子を植え、急成長しろと【有向】で命令をする。


 すると目でわかるほどに菌糸が伸び、菌糸体・キノコ本体を形成し、育っていく。

 だがすぐに成長する勢いが無くなったので、基礎魔法〈スプリングウォーター〉で大量に水を与える。するとまたゆっくりだが成長を始める。


「思ったよりまどろっこしいな。まだ様子見したかったがアレを使うか?」


 今度は【培地】で開発していたハーベスト菌を培養して、ギガンティックタケに振りかける。


ハーベスト菌:土属性と聖なる光。植物・胞子に加護を与えて急速に成長させる。一定期間、腐敗・劣化を食い止める。乾燥していない場所ならば18時間繁殖し、その後活動を停止する。


 ハーベスト菌がまかれると、ギガンティックタケは沸騰するような音を起てて再び急成長していき、30分で直径4メートル、高さ3メートルに成長し、そこで止まった。本体の菌柄は真っ白で、菌傘の色は黄色に白の水玉模様がついている。

 マルティンがナイフで刺すと刃はあっさり食い込む。


「中をくり抜くのは面倒だけど、一人でもナイフさえあればできるな。しかし水が思ったより大量に必要だったな。多分だけど100リットルぐらい注いだ気がする……」


 しばしギガンティックタケを見つめていると、色々な常識が頭の中で様々な問題提起をしてくる。

 「急いでいるからってキノコの家に住むっておかしくない?」「きっと中もブヨブヨで家具も置けないぞ」「水分が染み出てきたら湿気でやばくない? そもそも換気は?」――とごもっともな意見が湧き上がってきた。

 とはいえいきなり廃案するほどでもないと思い、経過観察することにする。自然ではどう育つのか知るために、広域にギガンティックタケの胞子を植えてみた。

 作業をしながらふと思う。


 しかしリンジーは遅いな。何やってんだ。手伝ってもらわなくてはいけないことが山ほどあるのに――。


 4号ことリンジーは一晩経ってもまだアスペルリンから戻ってこない。つまり人さらい・盗賊相手に苦戦か新たな問題に取り組んでいるのだと想像できる。

 とはいえ止めたのに単独行動しているのはリンジーの勝手なので、意図的に考えないようにする。

 リンジーはマルティンのスローライフに配慮しないので、互いに距離感を保つ必要があるように思う。


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