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魔法人形

 魔法でできた空間に入ったのだと感じた。中はアンティークショップといった感じの、中世西欧風のこじゃれた内装であった。

 黄土色のレンガ風の壁と床が四方を囲み、木でできた家具が数多く配置され、その上に色々なマジックアイテムが並べられている。

 見ただけでは魔法日用品か実験機材かわからない。

 中に10歩進んだ処で、奥の扉が開き、身長140センチほどの少女が現れた。


「あ~ん? 30年ぶりにジジイが帰ったと思ったら、誰だオメーは!?」


 外見は14歳ほど、顔も服装も愛らしかったが、口は蓮っ葉、目つきは完全にヤンキー風であった。おまけに不自然なほどに胸が大きい。

 ヤンギャルともいえるような雰囲気に呆気に取られたが、いきなり戦闘は回避しようと判断し、頭を下げる。


「失礼、わたしはアイソラ王国出身の冒険者、マルティン・シュヴァル、高名なザディーグ様にお会いすべく遠路はるばる参上した次第です!」


 慇懃な態度でそう言ったが目の前の少女のささくれたような視線は変わらない。


「あ~ん、どういうこった? オメーが首から下げているそれがザディーグのジジイのペンダントなんだが? 意味不明だぜ」


「ああ、ではあの入り口で息絶えていた方がザディーグ様ですか……」


「んだ、あのジジイ、死んだのか? 止めろって言ったのに『日課の散歩だ』とかいって出かけて、それきりかよ! あきれ返ったぜ!」


 少女は心底軽蔑した顔でそういった。

 マルティンには少女がどういう存在かわからない。しかも30年前にザディーグを見送ったらしいので人間ではないであろう。

 素直に聞くことにする。


「それであなたはザディーグ様とはどういうご関係ですか?」


「関係? 何言ってんだオメー、あたいはただの道具だよ、道具!」


「ど、道具? 道具……それって魔法で椅子が付喪神チックになって、人間になった的な奴ですか?」


「まったく意味がわかんねーよ。あたいはジジイの使う道具、メシ作ったり、洗濯したり、風呂沸かしたり、話し相手になったり、下半身をゴリゴリしたりする道具だ! わかったか、馬鹿!」


「下半身……」


 マルティンは呆気に取られながらも少女の凡その正体が理解できた。そしてよく見ると、その特徴が伺えた。

 発色が良すぎる金色の髪と肌と瞳は人間の領域からわずかにはみ出しているように思う。

 つまりは無理な願望を満たす存在であった。


「君は魔法人形――オートマータ的な存在なのですか?」


「一目見てわかんねーのかよ、オメーは魔法使いとしては三流だろう? あぁん?」

  

 少女は本気で不愉快そうに口の犬歯をのぞかせながら、眉を顰める。マルティンは何でこんなに態度が悪いのかまったくわからない。

 ふと少女は何かに気づいたように目を見開く。


「オメー、アイソラ王国出身って言ったよなー? 都会に住んでたのか?」


「故郷は国で三番目に大きい街です。マジェスタって処です。十歳からは首都のカルムズに移動して生活していました」


「へえ~、じゃあ今都会でどんな服が流行ってるか、教えろよ?」


「服、ですか? う~ん、よくわからないですね。ずっと勉強で手いっぱいだったですし」


「はあ~? オメー彼女いねえだろう? 服に一つの関心もねーとかガチで終わりすぎだろう」


 少女の露骨な軽蔑の視線にマルティンはカチンときた。そこで無理やり二階の時の姉の記憶を思い出す。姉は無駄におしゃれに傾倒しており、どうでもいい話をしていたのだ。


「い、今思い出しました。都会ではセパレートが流行っていて、背中のあいたバックシャンがバズってましたね。ボトムスはプリーツスカート一択。靴下はシアーな透けてる素材で指ぬきデザインが人気で、トレンド席捲です!」


「へぇ~、やっぱ都会は違うな~。で服の柄はどんなのが人気だ? 色とか何が主流よー?」


「が、柄は一周回ってヒョウ柄とかかな?。色はパステルピンクとネイビーブルーとかお洒落っていわれているとかいないとか」


「わかんねー用語が多いな。じゃあ、ヘアスタイルは……」


「あ~、この話は長くなるので。また今度にしましょう!」


「チッ、しょうがねーな。勘弁してやるか」


 頑張ったがマルティン・二渡にはファッションの話は無理だと痛感させられた。

 それよりもザディーグのコレクションに興味が移る。すでに存命ではないのならば、資材のコレクションに接近させてもらおうと交渉することにする。


「あの~、それでザディーグ様が亡くなっているようならば、そのこの施設の見学だけでも許可いただけますか? 何も持ち去らないとお約束するんで――」


 接近さえできれば【培地】で微生物を取得することは可能であるからだ。

 マルティンの問いに少女は大きく鼻を鳴らす。


「ふん、別にいいんじゃね? ジジイのペンダントを持っているし、俺も契約できるから何でも自由にできるぜ」


「はぁ……契約とは何でしょうか?」


「所有者登録だよ。50年ごとにジジイが所有者を登録する仕掛けにしているんだけど、もう25年前に切れたんだよ。そのペンダントがあれば、登録できんぞ?」


「えええええええええっ!?」


 これにはマルティンは本気で驚いた。この魔法人形を継承できるというのは衝撃的過ぎる話である。

 だが事態はいたって難しい話ではない。所有者のなくなった遺品を見つけて使うだけのことだからだ。

 ダンジョンの内で落ちていた冒険者の遺品を再利用することと何ら変わりがない。

 そう思うとマルティンの鼓動がどんどんと早くなる。かつてないほどの興奮が全身を駆け巡る。

 目の前の人間の領域を超えた美貌の少女を好き勝手にできるのだ。しかも人間ではないので、一切の遠慮も罪悪感も持たなくていいのだから――。

 マルティンは人並みに17歳の健康な男子である。

 心臓が信じられないほど高鳴り、少女の手を掴もうとしたところで横やりが入る。


 ふざけんな!! そんな見たこともない老人が数百年使ってきた道具を使うなんて気持ち悪過ぎる!! 却下だ、却下!


 二階の爆発するような嫌悪感がマルティンにはまるでわからない。

 何を言っているのだと首を傾げていると、徐々に二階の情報と生理的な不快な思いが入ってくる。

 理解できるとゾッとする。同性の性癖を炸裂させた玩具を喜んで使用するなど正気の沙汰ではないことがわかってきた。

 マルティンが大人の深すぎる業によろめくと、少女が不満な顔でつぶやく。


「ったく、あのジジイ。結局あたいを新規で生み出してからは、一回もできずに逝っちまいやがって。何が魔術師一の性豪だよ……。外に出る許可を出していてくれたらこんなことにはならなかったのに」


「よし! 君と契約させてくれ! これからよろしく!」


 マルティンはすさまじい笑顔で魔法人形の手を握っていたのだ。

 内なる声も何も言わずに喜びを炸裂させていた。

 またエノーラがこの場にいないことにも安堵した。こんな醜い男の側面を見せるのはあまりに忍びないと思う。



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