29. 新たな覚悟と歩むべき道
更新が遅れてすみませぬっ
「ソフィアさん、あれから結局マークスさんと婚約されたんですか?」
「おはようございます、アンさん。えぇ、そういう流れになりました。」
新学期が始まって1週間、そわそわした空気も落ち着いて各自授業に社交に励む頃、アンさんが話しかけてきた。
自分の気持ちに蓋をしていたので、ある意味きっかけを作ってくれたアンさんにはある意味感謝しないといけないかも。
「もしかしてもしかして、私が恋のキューピッドになった感じですかぁ?えへへ、実はそうかなーって思って、この前のハピネス講演会で『特待生になれないし、まだまだやれることが少ない私だけど、誰かの愛のためにできることがあって自信がついた』って話しちゃいました。」
いやいやいや、ちょっと待って?なんか「かもしれない」程度の確信でそんな自分上げのわけわかんない講演会のネタに使わないでっ。名前は出してないのよね?そうよね?
感謝の気持ちが超高速で冷めていくわっ
ていうかハピネス講演会?には関わらないようにしたいので、あまり話題を振らないで欲しい気持ちっ!
「そ、そうなんですか。」
「だからソフィアさん、私に幸せをお裾分けしてくださいよ。将来の子爵夫人なんでしょ?ちょっとくらい良いじゃないですか。」
相変わらずの謎理論で幸せのお裾分けを要求するアンさん。そもそも「幸せのお裾分け」って結婚式とかに使う言葉じゃなかったっけ?
「うーん、そう言われてもですねぇ…。」
「ソフィアさんおはようございます。今朝婚約者殿に聞いたんですけど、マークス様と一緒に次期子爵家当主になるんですよね。おめでとうございます。」
ちょっと戸惑いつつ返事をしようとしたら、レイラさんがこっちに気づいて会話の輪に入ってきてくれた。
弾ける笑顔が眩しいレイラさん。そういえば、レイラさんも婚約者さんと一緒に次期伯爵家当主になるんだっけ。リリーさん大好きなところといい、次期連立当主といい心の同志だなぁレイラさんは。
「え、何それどういうことですかソフィアさん!」
「えっとですねアンさん。私は今後子爵夫人というか、マークスと連立当主になることになったんです。」
「はぁ?」
◇◇
「ソフィ、ちょっと話したいことがあるんだけど、良いかな?」
いつものように家の図書室で文献を読み漁ってたら。マークスがコーヒーとクッキー片手に話しかけてきた。
ちょうど休憩したいタイミングだったのでありがたい。
「うん、大丈夫だけど。どうしたの?マークス。」
わざわざコーヒーとお菓子を持ってきてくれる気遣いとサラッとした笑顔にときめきつつ、顔に出さないように平静を装って返事する私。
普段の会話ではもういつも通りに振る舞えるのに、不意打ち卑怯だな…。
「その、ソフィと僕が婚約して今後フレデリクソン子爵家を盛り立てていくことになったけど、ソフィは子爵夫人じゃなく僕と連立当主になる気はない?」
「へ?」
グリュックス王国では人口激減に追い込んだあの疫病以来、人手不足が問題になり、男女関係なく有能な人材は使いまくろうということで女性でも貴族の当主になれるよう法制度が改正された。今では女性当主も少ないけどいるし、宮廷人も少ないけどいる。そして夫婦揃って連立当主になって領地運営に勤しむ貴族も珍しくなくなっている。
ただの夫人だとやれることが限られるので、当主の権限を一緒に持って効率よく領地を収めて王国復興目指そうね。という意図なんだとか。
「ソフィを形だけでも『子爵夫人』にするのは勿体無いなぁって。もちろん、子爵夫人でも一緒に領地経営してもらうんだけど、当主権限がないと一々僕の判断待たないといけなくなって動きが遅くなるしじゃん?僕とソフィで得意分野が違うんだし、お互いに支え合って子爵家を盛り立てていこうよ。」
「当主、私が。」
「うん。」
「マークスは、それでいいの?子爵家の跡取りとして教育されてきたのに」
「うん。そもそも僕が跡取りになったのも、義父上が養子の僕の立場を確実な物にするための措置だし。ソフィが跡取りに興味が出たらまた議論される予定だったんだよ、跡取りについては。あいにくソフィは跡取りっていう立場に興味はなかったからここまで教育してもらってきたわけで。万が一、子爵家を継がなくてもどこでもやっていけるだけの教養をつけてくれたから義父上には感謝してもしきれないよ。」
そうだったんだ。お父様らしい気遣いだなぁ。マークスを本当の家族として立場を安定させたかったんだろうな。
「実際、今の子爵領の農業関係はほとんどソフィと義母上の計画に沿ってるし、領民たちの信頼も厚い。農業関係で僕と義父上がやることは根回しや細かい調整くらいなんだ。この辺は今後ソフィに任した方が効率がいいと思う。一方で経済的な部分や屋敷の内装や使用人・家族の衣装選定は僕の方が得意だからそっちを担当すればいいかなって。そうやって適材適所でやってこうよ。社交はお互い得意じゃないから、一緒に頑張ろう。」
「確かに、女主人として求められる社交とか衣装、内装選定を一任されると荷が重いわ…。」
「でしょう?まだまだ義父上や義母上に教えてもらうことはたくさんあるけど、一緒に子爵家を運営していってくれるととても嬉しい。」
「お父様とお母様は、この話知っているの?」
「もちろん。ソフィの意思を尊重するけど、もし受けるならソフィにも商会との取引や運営の一部を教えていくって言ってるよ。だからソフィ。僕と連立当主になって、これから一緒に支え合ってくれると、とても嬉しい。どうかな?」
耳を赤くしながら提案してくるマークス。なんだか、プロポーズされているみたいでこそばゆい。いや、婚約者なんだからもうその段階は飛ばしているはずなんだけどねっ。
くそぅ、せっかく普段通りを心がけているのに、これじゃぁできないじゃないか。
「うん。これからもよろしくね、マークス。」
どうしても目が潤んじゃうし、きっと顔も真っ赤になっているんだろう。でもマークスと両親の信頼が嬉しい。期待に添えるように頑張ろうという気持ちが溢れてきて止められない。
気づけばどちらからともなく手を握りあってお互いを見つめていた。
ドキドキする。
恥ずかしい。
照れ臭い。
でも、期待と信頼が嬉しい。
やっぱり私、マークスが好きだなぁ。
「じゃぁ、今夜にでも義父上と義母上に報告して跡取りの書類を更新しよう。」
「うん。私に当主権限ができるとはいえ、ちゃんと相談したり報告しながら進めていきたいから、よろしくね。マークス。」
「もちろん。」
さっとマークスが私の額に口づけを落として図書室を出て行った。
だから!!不意打ちは卑怯なんだってば!
どうしてくれるのよしばらく平常運転に戻せないじゃない。
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「やるわね、マークス様。」
「ていうかソフィア様も可愛すぎるでしょう。」
「尊い…尊いよ…。」
「マークス様、真っ赤な顔で自室に戻られていたわよ。好きな女の子の前では余裕を見せたいけど、ソフィア様の可愛さの愛おしさの前に理性がぎりぎりだったのね。」
「それにしてもぼっちゃまとお嬢様の信頼関係は強いですね。子爵家の将来が明るくて使えがいがありますなぁ。」
「ねぇねぇセバスチャン。今夜はあの2人のエピソードを肴に使用人一同飲み明かしましょうよ。」
「良いですなぁ。奥様と旦那様も別で飲み明かすそうですし、あの2人は部屋で悶えているでしょうから我々も楽しみましょうか。」
図書室で存在を忘れられていたメイドがソフィアとマークスのやりとりの一部始終を見ていたおかげで、両親と使用人一同に萌え成分を盛大に投下してしまったことを、本人たちだけが知らないけど、これはまた別のお話。
もじもじイチャイチャ(?)しながら子爵家の未来を見据えて覚悟を持って行動する2人はすごいですね。
そして今日もフレデリクソン子爵家は平和です。
さてさて、怪しい講演会を始めた災い娘は不穏な嫉妬心をどう処理していくんでしょうか。頑張って書き上げたいと思うので、もうしばらくお付き合いください。