23.アン母の事情②
更新がかなり遅れました。
ブクマ解除せずに待っていただいて、ありがとうございます。
なかなか難航して、書いては消し、の繰り返しでした。
今回も少し短めです。
学園に入学して早くも2年が経ち、学園生活にも、商家の娘としての立ち居振る舞いも、だいぶ慣れてきた。
高級娼館と離れても、意外とホームシックにはならなかったし。まぁ、最低限の手紙のやり取りはしているんだけど。
平民も、珍しいけど各学年に1人は居るので、大人しくしていれば特段浮くこともなかった。
まぁ、偉そうに踏ん反り返るお貴族様には、こちらから近寄りたくないけれどね。
目下の目標は、将来に向けた就職活動。
貴族令嬢(わがままじゃない人希望)のメイドなり、商家の跡取り息子の嫁なり。身分相応な、それでも高級娼館に帰るよりは遥かにマシな未来を、自分で掴み取らないと。
『王子様と素敵な結婚して、幸せなお姫様になる』
幼い頃夢見た、淡くも幸せな未来はこの世界に存在しない。男なんて、信用できないんだから。
どんなに紳士的な振る舞いをしていても、能力が高くても、奥様を大事にしていても。男は簡単に、女を裏切る。そんな生き物なのだ。
最初から期待せずに自分に合った未来を勝ち取るんだ。幸せじゃなくても、せめて自分の納得できる道を、せめて『ここよりもマシな何か』を自分のものに。
「カレンさん、ランチに行きましょう。」
「はい、是非」
隣国からの留学生、レーケさんが辛気臭い顔でひねくれた考えをしている私の思考を遮ってくれた。
平民上がりの私に優しく、親切にしてくれる稀有な人。
貴族だからって平民を色眼鏡で見たりしないし、捻くれてねじ曲がっている私の心を、引き揚げてくれる、私の唯一の親友。
『レァケさんは、今日のメニューは何ですカ?」
『ソーセージとパン、野菜のスープです。』
ランチタイムの食堂では、レーケさんの故郷、グリュックス王国公用語で会話するのが、私たちの日課。
『カレンさん、グリュックス語での私の名前の発音、ほとんど完璧です。』
『嬉しいデス。グリュックスの言葉は、発音がとても難シイ。』
グリュックス王国の話を、懐かしそうに、嬉しそうに故郷の言葉で話すレーケさんは、思わず見惚れてしまうようなキレイな笑顔を浮かべるのだ。
その笑顔を見るのが、最近の私のお気に入り。ちょっと心が温かくなる。
私はもうこんな風には笑えないな。もう、だいぶ擦れてしまったから。
眩しくて大切なレーケさんともっと仲良くなりたくて、グリュックス王国の公用語も練習して、だいぶ話せるようになってきた。
もちろん、フラン王国やスペン王国、イング帝国の公用語も簡単な会話なら話せる。
子どもの頃から高級娼館の従業員に混じって語学学習をしていたし、学園でも外国語コースを受講している。
他国に移住しても大丈夫なように必要な知識を、貪欲に学んでいたのだ。
◇
卒業を間近に迎えた日、思い詰めた顔でレーケさんに打ち明けられた。
「私、卒業後すぐ、故郷に戻ってフラワートン次期男爵に嫁ぐんです。なので、しばらくは花嫁修行で忙しくなりますわ。」
「え?そんなに急に?」
なんでも、レーケさんの実家、オールセン男爵家はお祖父様の代で爵位を頂いた、元商家の成り上がり貴族らしい。
貴族とのつながりを持たせるために、同じ家格の男爵家に嫁いで社交の幅を広げたかったとのこと。
「結婚するまでの間はわがままを聞いてもらって、隣国である聖プロイ帝国に留学していたんです。ただの令嬢でいられる間に自由を満喫して、あわよくば販路開拓のための情報を集められたらいいなって。」
泣きそうな顔で話すレーケさん。
隣国のフラワートン男爵は、どこにでも居る凡庸な弱小貴族だけど、歴史が長いので同じ男爵家でも成り上がりのオールセン男爵家よりも「貴族として」立派なんだそう。
成り上がりの成金貴族の娘を娶る代わりに、莫大な持参金を要求してきたとのこと。
「そんな、お金目当てにレーケさんを娶るんですか?」
「政略結婚なんて、そんなものです。向こうの家は懐が潤うし、我が家も貴族社会により溶け込めるようになります。個人の感情は、基本的に後回しなんですよ。」
諦めたような顔で言うレーケさん。そんな顔する人じゃないのに。
何とも言えないモヤモヤした気持ちが心の中を満たす。
そうか。私は、子どもの頃諦めた自分の夢を無意識にレーケさんに押し付けていたんだ。
屈託なく笑って、誰にでも物腰が柔らかい『貴族令嬢の』レーケさん。
隣国のグリュックス王国では、聖プロイ帝国とは違って、王子様のような紳士がいるはずだから、
レーケさんのような『お姫様』は将来幸せな結婚をするはず、と決め付けていたのかも。
どこの国でも、平民でも貴族でも『愛し合って結ばれて幸せに暮らす』なんて、難しいことなんだろう。
なんだ、私。とっくの昔に諦めて、実家と疎遠になってまで学園に来たのに。
心の底では諦め切れてなくって、友達に夢を押し付けて、おこぼれで幸せをもらおうとしていたのかな。
なんて浅ましいんだろう。なんて、捻くれてるんだろう。
「カレンさん、泣かないでください。グリュックスに戻ったら、お手紙を書きますわ。私とずっと、これからもお友達でいてくださいね?」
私の葛藤や浅ましさに気づかず、優しく接してくれるレーケさん。
そうだ、そうだよ。何で思いつかなかったんだろう。
「レーケさん、お願いがあるんですけど。」
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アン母編は後もう1話ほど続きます。
この頃のアン母は、自分の信じる世界がガラガラ崩れて、拗ねて捻くれてもがいている思春期の女の子です。




