18. 暗雲
ちょっとバタバタしていて、更新が遅れました。
5/12 時系列を見直して、17.暗雲と話数を入れ替えました。
17. 暗雲→18. 暗雲
18. 新しい事業と、商会の噂→17. 新しい事業と、商会の噂
春も半ばを過ぎて、あちこちの花が王国を彩る季節。
学生にとっては、1年で1番大変な季節でもある。
「ソフィアさん。ここに居たんですね。」
放課後、季節関係なく脳内にお花を咲かせているアンさんが声をかけて来た。
だから、声が大きいんだってば。アンさん。図書館では静かにしないと。
「もうすぐ学年末試験ですからね。」
図書館は自主勉強中の学生が多い。
グリュックス王国は夏休み前に学年末試験、卒業パーティといったイベントを経て、年度が終了となる。
試験の成績次第では、留年や補講などもあるし、何より来年度も特待生枠を維持したいところ。
農業コースは筆記試験とレポート(もう提出済み)、淑女コースは筆記試験と実技試験がある。
「そうですよね。あ、もしかして。来年度も特待生枠狙ってます?私も、負けませんからね。」
「はい。お互い、ベストを尽くしましょう。」
特待生枠を狙っている学生は多いのだ。まぁ、平民と領地収入が基準値以下の弱小貴族しか狙えないんだけど。
ライバルは多いけど、私にできることは特待生枠の奨学金が取れても取れなくても、後悔しないようにベストを尽くすことだけだ。
「なんか、ソフィアさんって凄いですけど、ズルいですよねぇ。事業も順調そうだし、お義兄様であるマークス様と仲良いし、特待生だし…。」
うーん。未だにいちいち突っかかって来られるのも、もう慣れて来たな。
確かに、前世知識を使っているあたりはズルいかもしれないし。
「アンさんも、商売をされているんでしょう?最近では殿方だけでなく淑女も働いている人が多いので、特定の誰かが特別凄い、と言うわけではなくて。皆が自分のできる仕事を、自分のできる範囲でやっているんですよ。」
だから、そろそろ私に突っかかってくるの止めてもらえませんかね。
嫁家の領地経営や事業を手伝う場合もあれば、宮廷勤めをして王国のために働く場合もある。商家の場合は実家の商売を手伝う場合もある。
私が特別なわけでも、アンさんが特別なわけでも無く、手を出せる場所が違うだけで、皆それぞれのフィールドでベストを尽くそうと頑張っているのだ。
「そう、ですけど。だって、私は…。」
ん?なんか、見るからにしょんぼりしてるけど。いつも怖いくらいに無理やり前向きに生きようとしているアンさんが目に見えて落ち込むのって珍しいな。
まぁ、商会の噂の話もあるし上手くいってはいないんだろうけど。この娘が、それを表に出すのは珍しい。
人間らしいところが見れてちょっと安心するんだけど。
「アンさん?」
「いえ、なんでも無いです。ソフィアさんは卒業後、宮廷勤めを狙っているんですか?」
「まだ卒業まで2年以上あるので、まだ具体的には決めていないですね。でも、フレデリクソン子爵家は諸侯というよりは領主的な側面が強いので、宮廷勤は多分無いですねぇ。お父様もちょいちょい宮廷の仕事をしているみたいですけど、フルタイムではないですし。何かしらの形で、子爵領を支えればなって思っています。」
アンさんの商売の情報を集めたいけれど、この娘から情報を引き出すのは難しいだろう。噂話を集めるところから始めようかな。
◇
「なんか、最近アンさんの取り巻きが少ないですね。」
リリーさんの言う通り、最近は食堂でアンさんの黄色い声も、愉快な仲間達も見当たらない。
「商売の勧誘がウザ…ではなく強引と言うかなんというか。内容も少し胡散く…明瞭では無いので、少しずつ距離を置く人が増えているそうです。」
レイラさん。言葉が少し乱れていますよ。まぁ、気持ちは分からなくも無いけど。
「商売、うまくいっていないんですかね。内容はともかく、本人のやる気は高かったのに。向かう方向が間違っていなければ、アンさんって頭は悪く無いのにな。」
やっぱり、商売が上手くいっていないっていう噂自体はもうまわっているのか。
「ソフィアさん、あんだけ突っ掛かられてるのに心配できるなんて。デザートのベリーひとつ食べてください。是非。」
「あ、私のも。」
何故か皆が感極まった様子で、餌付けしてくれる。
別に、前世のアラサー女子(笑)のマウンティング攻防戦とか、ねちっこい嫌味とかに比べたら可愛いモンだし。
「でもまぁ、借金に手を出していないかは心配になりますね。」
「なんか、すぐに騙されて怪しいところで借りちゃいそう。」
リリーさんもレイラさんも、優しくて素敵な人なのに。私だけこんなにベリー食べちゃって良いのかな。
◇
「あ、フィリップ殿下。お久しぶりです、会いたかったんですよ。」
「アン嬢、久しぶり。1人で中庭にいるなんて珍しいね。」
「ニコラス殿下にお会いできないかなっって。あ、でもでも、フィリップ殿下にお会いできて嬉しいです。」
「…兄上とマリアンヌ姉上は、帝王教育と王妃教育が本格的になって来たからね。あとは試験を受けて卒業するだけだから、あまり学園には来れないかな。」
グリュックス王国の王太子ニコラスと、婚約者マリアンヌ公爵令嬢は、来年の夏に結婚式を挙げる予定だ。
本格的に王太子と王太子妃として公務を行うために、座学だけでなく視察などの公務が忙しく、学園にはほとんど顔を出せない。
「そう、ですよね。私もお忙しいニコラス殿下を支えたかったのに。卒業パーティまでに成果を出して、愛妾にして下さいっていう予定だったのに。」
「まぁ、アン嬢はアン嬢で試験に集中すればいいんじゃ無いかな。そんな顔していたら、(唯一の取り柄である)可愛い顔が台無しだよ。」
「フィリップ殿下。私の気持ちをわかってくれるのは、フィリップ殿下だけなんです。どうかっ、どうか話だけでも聞いて欲しいんですけど。」
「うん、どうしたの?」
「商売が全然上手く行かないんですっ!なんで?なんで皆協力してくれないの?借金でもしないと、資金調達がもうできないんですっ」
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