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第八十一話・コンビニ地獄への帰還

「は!」


 富樫はセミダブルベッドの上で目を覚ました。身体を確認すると、コンビニの制服の上にドイツの軍服を着ている。ベッドの横にはエリスが立っており、その肩の上にセファが座っていた。



「セファ! エリス!」


「おはようトガシ」セファが言った。


「おかえりトガシ」エリスも言った。



「こ、ここは元の時代か? 俺は帰ってきたのか?」


「そういうことになるわね」エリスが答えた。



「私にも詳しいことはわからないけど」、そう言いながら、エリスは自分の解釈と、その他色々について教えてくれた。


 まず「超量子監獄ハイプリズン」という魔法は、セファが発明したことになっているけれど、富樫がララに使ったことで、それが記憶の図書館に刻まれて、セファが記憶の扉でそれを習得したということ。つまりハイプリズンを発明したのは、セファではなく富樫であるらしいこと。


 次にエリスがここにいる理由。エリスは世界大戦直後に不治の病にかかって死を待つばかりであったこと。そんなエリスを助けるために、セファがハイプリズンの魔法で作ったこの空間に、エリスを転移させて生きながらえさせているのだということ。


「ハイプリズンの中では、時間を止めたり進めたり、自由自在だからね」セファがものすごいことをさらっと言った。


「そ、それって不老不死ってことじゃねえか!」


「まあね、でもハイプリズンを維持するのに大量のマナを消費するから、エリス一人を養うだけで精一杯なの、えへへ」


「養う……、そうか、マナはどうやって集めてるんだ?」


「日本にはパワー・スポットが多いから、いろんな所でマナを補給できるの。でも、ハイプリズンの維持にかかるマナはものすごいから、今でもサファイアに、水を配達してもらったりしてるの。ほら、ここにも」


セファは腰にさげたポシェットを開けた。中に小さな小さなペットボトルが、三本入っていた。そのうちの一本を富樫に見せて、セファはにこっと笑った。


 さらにエリスは、セファと富樫に何が起こったのか、について推測まじりで語りはじめた。まずエリスは、大戦中に出会った富樫のことを、ずっと覚えていたけれど、セファはすぐに忘れてしまったらしい。エリスは、セファが富樫という男を「コンビニ地獄」にぶち込んだという報告を見て、来るべき時がようやく来たのだと理解し、セファと富樫のやり取りを、ハラハラしながら見守っていたのだという。


「セファは俺のこと覚えてなかったんだな? それで俺をあんな目に」


「うん、ごめんね、てへ!」


 エリスはその後、「コンビニ地獄」を管理しているAIである、「プリズン」の暴走について語った。プリズンが何者かによって思考を乱され、富樫がプレイ中だった「コンビニ地獄・ステージ10」の設定を勝手に最高に引き上げ、しかもそれをエリスのせいにしたのだという。



「プリズン?」セファがプリズンに声をかけた。

「は、はい、セファ様」プリズンが合成された機械的な声で返事した。

「今エリスが言ったことは本当なの?」

「はい、お恥ずかしながら」


プリズンは、録音されたその当時の会話を再生した。


>「プリズン!」「ええ、設定をいじったのは私です。ただしそれは、私の意志ではありません。エリス様のご意志です」「エ、エリスが?」「はい、あなたの今回の、囚人トガシへの態度が目に余ると、私が本部に通報しておきました。それをエリス様がじきじきにご覧になられ、ご判断をくだされました。このステージ10より以降、ゲームの難易度を最高に上げること。それがセファ様への、エリス様からへの罰、反論は認めない、とのことです」



はあ、とため息をついてエリスが言った。

「私がしたのは、どきどきハラハラしながらモニターを見守っていたことと、プリズンからの通報に対して、観察の上放置せよという命令を出したことだけ」


「申し訳ございません」


「いいのよ、プリズンの異常行動も、きっとトガシを過去に飛ばすために必要なことだったのよ。セファが私に裏切られたというショックで、泣き寝入りしながら過去を回想して、死亡直後という不安定な状態で放置された富樫の魂がそれに混線。量子テレポーテーションの効果で現在と過去がつながって、さらにエルフの魔法で富樫が実体化。それが富樫の過去への転生のメカニズムだと私は思う」


「む、むずかしいな」


「そうね、あたしにもさっぱり」


「他に説明して欲しいことはあるかしら?」


「そうだなあ、アレクやエリスが実現しようとしていた共創兵站コ・ロジスティクスは実現したのかっていうことと、あとは何で日本なのかってことかな」


「共創兵站は、十分実現できたと思うわ。巨大なスーパーやデパート、ドラッグストアなんかが各地にできて、物資を備蓄しておく仕組み。コンビニエンスストアが、地域の人と触れ合って助け合う仕組み。戦争だけじゃなく、地震とかの災害にも強い流通の仕組みが、実現できたと思うわ」


富樫はうなずいた。


「あと、私が日本に会社を作った理由よね? それは災害が発生した時の日本人の言動に感動したからよ。災害時にも、パニックや暴動などが起こらず、みんな静かに、しっかり順番を守って行動する。そんな日本人を世界のお手本にして欲しいと思ったからよ」


富樫は再び、うんうんとうなずいた。


「なるほど、そういうことだったのか。そういえば俺も、震災の時はコンビニにお世話になったな。みんなに感謝しないといけないな」


「そうだエリス、トガシの卒業試験のことだけど」

セファがエリスに言った。


「ああ、それならもういいわ、もうトガシは充分頑張ってくれたからね。卒業証書と認定証、用意しておいたわよ」


「ん? 認定証?」


エリスから渡された二枚の証状を確認する富樫。一枚は、「知育ゲーム・コンビニ地獄修了証書」であり、もう一枚は、「認定 業務用電子レンジマスター」であった。


「ぎょ、業務用電子レンジマスター? ドイツとフランスの危機を救った俺に、こ、これだけか!」


 富樫はばたりとベッドに倒れた。その時、壁にモニターが出現し、二匹のダークニンフらしき姿がどアップで映し出された。富樫は初めて見る顔であったが、富樫の卒業試験を執り行うはずであった、コンビニ妖精ニーアと、その上司であるターラであった。


「エリス社長! そのゴミムシの卒業試験を免除だなんてとんでもない! この私がこのコンビニ地獄で、永遠に奴隷として調教し続け、死ぬよりもつらく恥ずかしい目に合わせてやるのですから! ええ! 私にその試験官をやらせてください! やらせてやらせて、やらせてええええ!」


「ニ、ニーア、おやめなさい。エリス社長申し訳ございません。すぐに落ち着かせますので」


ターラはニーアの首を後ろから絞めておとなしくさせたあと、ぺこりとお辞儀をしてモニターを切った。



「あ、あんな子に試験官をさせたら、とんでもないことになってたわね、あはは」セファが苦笑した。


富樫はそれを聞き、倒れた拍子に投げ散らかしてしまった2枚の証状を大切に拾い上げて、エリスに言った。


「エリス社長、卒業試験を免除してくれて、ありがとっす。業務用電子レンジマスターの認定証も、ありがとっす。大切にするっす」


うんうん、と笑顔でうなずくエリス。


「な、なによその語尾、気持ち悪い」 セファがじと目で言った。


「こ、これは、クレーマー三番勝負の一人目、ポテチ野郎の語尾だろ、覚えとけ!」


「あ、そうだったわね、あたしが設定した語尾、忘れてたわ、あははは」


(続く)

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